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学生街の四季を投稿 [学生街の四季]

相変わらず、記事のアップどころか皆様方のところへの訪問がままならず、失礼しております。
またまた存在証明みたいな記事ですが、お付き合いください。

泰山木.jpg

以前『学生街の四季』という題で小説のような(!?)お話しを連載しておりましたが、加筆訂正しながら小説投稿サイトの『エブリスタ』というところにまず番外編のショートストーリーをアップしています。

現在第7話まで公開しておりますので、覗いていただければ幸いです。

エブリスタ 『学生街の四季 番外編』

よろしければご覧ください。
各お話しとも3ページしかないので、簡単にお読みいただくことができると思います。

第一話は若い健作と典子の日常生活を、第二話はその後数年経って生活も落ち着いてきた頃の様子を思いつくままに書いたものです。

第三話以降は、全く時空の違うお話しです。主人公は健作となのていますが、本編の健作とも第一話、第二話の健作とも異なります。
健作と智子の偶然の出会いがどのようなストーリーに展開していくのか、お楽しみください。

反応を見て、あらためて学生街の四季本編を書き直してアップしていきたいと思います。

◆本文とは関係ありませんが、タイド☆マンさんのコメントに関連して追記します。

九九式短小銃です!三八式が有名ですが、実は第二次大戦の日本陸軍の主力小銃です。威力の乏しい三八式の後継として開発されたため、三八式の6.5mmから7.7mmになっています。戦後GHQの命令で、米軍の主力小銃M1ガーランドの実包が使...

on 2015年10月31日

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学生街の四季 シンガポール編4 [学生街の四季]

過去にアップしたシンガポール編は、以下のリンクからご覧ください。

⇒学生街の四季 シンガポール編1

⇒学生街の四季 シンガポール編2
⇒学生街の四季 シンガポール編3

⇒泰山木 回顧 学生街の四季より

健作はニューヨークで乗った飛行機の行き先は、HKGと表示されていた。

飛行機は、九龍城を掠めるように海に向かって高度を下げると、滑走路へと滑り込んでいった。

バスで尖沙咀に向かうとビジネスホテルに宿を確保して、スーツケースを開けた。
シャワーを浴びて着替えると、タクシーで香港中文大学の郭教授を尋ねた。
 

「郭先生、アメリカから戻りました。」

「おー健作君、お疲れ様でした。4年はずいぶん長かったね。あちらはどうだったかな?」

「はい、今振り返ってみると、無我夢中の4年間で、あっという間に過ぎ去ったような気がします。」

「そうですか。あっという間に過ぎ去ったということは、充実した4年間だったのでしょう。

そうそう、今晩水上レストランでわが研究室のパーティーをやるんだが、君も参加しないかな?」

「はい、喜んで。」

「うむ、4年も経って研究室のメンバーの顔ぶれもずいぶん変わったから、ちょうど良いだろう。

今回シンガポールからの留学生も入ったことだし、新しいメンバーと親交を深めるにはちょうどいい機会だ。それじゃあ18時に珍宝でお会いしよう。」

健作は研究室を辞すると、香港市内にもどり、あてどもなくぶらぶらして時間をつぶした。 

18時少し前に水上レストランの前に着くと、目前の湾内に浮かぶレストランは綺麗にイルミネーションで飾られて、中央には『JUMBO 珍宝』というネオンサインが輝いている。

海への映りこみが、より水上レストランを大きく見せている。

11珍宝.jpg 

レストランへの渡し舟に乗ると、漆黒の海を渡る潮風が心地よい。 
船を下りて入り口に行くと、郭教授と学生たちはもう到着している。

「先生!」健作は郭教授に声を掛けると、その場にいた学生たちも振り返った。 14ジョクジャカルタ.jpg

その瞬間、学生たちの中から痛いような視線を感じた。
健作はびっくりしてその視線をたどると、その先に立っていたのは・・・ 

「健作・・・」「リリー・・・」二人はしばらく見つめあったまま言葉を失ってしまった。  

神様って、本当にいたずら好きですね。
この時代にラインとかe-mailがあったら、健作君とリリーさんのその後の運命は、あるいは変わっていたかもしれません。 

インドネシア2.jpg健作君は、フィールドワークが大好きで、じっとしていることの出来ない性分だったのでしょう。

目の前にあるものに一生懸命で、とても人の気持ちを汲んであげられるような余裕は無かったのかも知れません。 

この後、もう少し色々な展開があり、「泰山木 回顧 学生街の四季より」に時空は続きます。

さらに「泰山木 回顧 学生街の四季より」のラストシーンで健作はアメリカに再び発つことを表明していますが、その後のお話のあらすじは、概次の通りです。 

数年後、健作は郭教授からある知らせを受け取ったとき、南アメリカに滞在していてシンガポールに戻ることはかないませんでした。 

後年健作はシンガポールを訪れると百合の花束を買って、とある場所を尋ねたそうです。

その時に見た夕日は、遠い昔のあの日に見た夕日となんら変わりはありませんでした。

15中部ジャワ.jpg上の写真は、インドネシアのスマトラ島中部の穀倉地帯で撮ったものです。

昔の写真をひっくり返したのですが、残念ながらシンガポールの海に沈む夕日の写真は出てきませんでした。  

JUMBOの写真は昔のものですが、Googleで画像検索すると似たような景色が出てくるので、今でもあるのでしょう。 

季節はこれから泰山木が芳しく見事な花を咲かせる季節になっていきますね。
一年で一番切なく感じる季節でもあります。

以上シンガポール編はこれでおしまいにしたいと思います。
登場人物など、すべてフィクションであることを申し添えておきます。
なお、未だ途中で止まってしまった「学生街の四季本編」とは、繋がりません。
 


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学生街の四季 シンガポール編3 [学生街の四季]

今日は2001個目の記事となります。
何か特別なものをとも考えたのですが、先日の続きをアップします。
過去にアップしたものは、以下のリンクからご覧ください。

⇒学生街の四季 シンガポール編1

⇒学生街の四季 シンガポール編2

⇒泰山木 回顧 学生街の四季より

 

健作は、シンガポールを後にすると、すぐに日本には戻らずに、インドネシアで3ヶ月過ごして、インドネシア大学の研究室に通った。

インドネシア滞在中は、スマトラ島中部のジャングルに分け入ったりもした。
その後香港へ行くと、中文大学の研究室で3ヶ月ほど過ごして帰国の途についた。 

1年ぶりに帰宅すると、机の上には山のような手紙の束が積んである。
シャワーを浴びて着替えると、机の前に座った。

一つひとつ手紙を手にとっていくと、大部分はたいしたことの無いダイレクトメールの類だった。 

と、突然たくさんのエアメールが出てきた。
16ダンマンハイスクール.jpg「えっ、何これ!?」
その封書は、シンガポールからのエアメールで、宛名は漢字で「健作さま」と記されている。

そして差出人名も漢字で書いてあった。
『陳淑雲』と。 
そう、それらのエアメールは、淑雲からだった。
封筒を日付順に並べると、最初は普通のエアメールだったが、今月に入って届いたものは書留扱いになっている。 

あの獅子舞の様子、淑雲のかわいらしい笑顔、セントーザ島から見た夕日・・・走馬灯のように頭の中を駆け巡った。 

手紙の内容は、何れも淑雲の近況を知らせるものばかりだったが、最後の一枚には、「送ったベストの大きさは大丈夫だったのか心配だから、返事が欲しい。」と記されていた。 

そこでようやく机の片隅に乗っていた茶色いクラフト紙に包まれた30cm四方の小包を見つけた。

12シンガポールチャイナタウン.jpg紐を解くのももどかしく開けると、茶色い毛糸のベストが出てきた。

よくよく見ると、編目が揃っていなかったり、ところどころ目が飛んでいたりして、いかにも手作り感が漂っている。

早速着てみると、大きさはちょうどぴったりだった。

 しかし、いったい誰が編んだのか? そもそも赤道直下の常夏の国シンガポールに毛糸なんか売っていないだろう。 

包んであったクラフト紙を取り上げると、一枚の紙が中に舞った。
拾い上げて広げると、淑雲からの手紙だった。 
「健作さん、日本は今の時季寒いのでしょうね。風邪を引いたりしないように、ベストを編んでみました。
父の会社に日本の方がいらっしゃるので、その奥さんから教わって作ってみたんだよ。
大きさ大丈夫だったかな?
本当はセーターにしたかったんだけど、毛糸がちょっと足りないことがわかり、ベストになっちゃったんです。
健作さんに日本のことを教えてもらうのを楽しみにしていますね。」

13シンガポールチャイナタウン.jpgまるでアルファベットの書取り帳に書いてあるお手本のような几帳面で綺麗な字が並んでいた。 健作は机の前に座ると、引き出しから便箋を取り出して目の前に置いた。

しかし、何分過ぎても便箋は白いままだった。
漸くペンを取り上げると、数行したためてペンを置いた。

「ありがとう、お手紙が書けなくてごめんなさい。シンガポールを後にしてインドネシア、香港と巡って今日帰国しました。
ベストは、大きさぴったりだよ。大切に着させていただきます。
僕は明後日アメリカに旅立ちます。たぶん帰国するのは数年後になると思います。お元気で。」 丁寧に折りたたむと封筒に宛名書きをして、封入した。 ・・・・つづく 

いったいリリー(陳淑雲)はどんな気持ちで、このベストを編んだのか・・・。
どれだけ苦労し、どれだけ努力したのかを考えると、胸が締め付けられるようです。

獅子舞の写真は、陳淑雲の通ったダンマンハイスクールの校庭で、生徒が舞っている様子です。

そして、街の写真は、今はもう見られないシンガポールのチャイナタウンの様子です。


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学生街の四季 シンガポール編2 [学生街の四季]

今朝は曽根風呂さんが重たかったのか、ネット環境が悪かったのか、一つの記事を開いてniceを押してコメントを書くのに数分かかり、ストレスがたまる一方でした。

その後スマホに変えて訪問しましたが、朝のうちは同じような状況で、今日はほとんどお邪魔できていません。 

今日は日中も忙しかったのですが、夜は都内某所で来年の世界ジャンボリーの部門の打ち合わせをして帰宅しました。

今日も日付が変わろうとしているので、つれづれなるままにシンガポール編の続きを書きなぐって見ました。 前回のお話は、こちらからどうぞ
 ⇒学生街の四季 シンガポール編1
 

さらにこの後に続く話は以前書いたこちらです
 ⇒泰山木 回顧 学生街の四季より

 

「『陳淑雲・・・誰だろう。』・・・あ、それじゃあこれからロビーに降りるので、待っていてくれるように伝えてください。」受話器を置くと、部屋を出てエレベーターへと向かった。

 健作の泊まっているホテルは古いつくりで、廊下やロビーはやや暗く落ち着いた雰囲気だ。
やってきたエレベーターに乗り「G」を押すと、扉は閉まりエレベーターは下がり始める。
G」のマークが輝いて「チーン」とベルの音がするとエレベーターは止まって、ゆっくりと扉が開いた。 

エレベーターの前には、制服姿の高校生が3人立っている。

「き、君たちは・・・」白いブラウスに紺色のスカートは、ダンマンハイスクールの生徒がだった。
1人ひとりの顔を見ていくと、なんと昼間学校で獅子舞を演じていた2人と、もうひとりは、授業を手伝ったクラスで見かけたような気がする。

「健作先生、今日はありがとうございました。」
「ここで立ち話もなんだから、ロビーに行こう。」
 通りに面してガラス張りになった喫茶スペースに行き、ウェイターにホットコーヒーとアイスコーヒーを3つ頼むと、低いテーブルを挟んで長くふかふかのソファーに移動して、3人と向かい合った。 

3人の中で一番背の高い少女が一歩前にでると、右手を差し出した。
「健作先生、私が陳淑雲です。」同様に他の2人とも握手を交わすと、ソファーに腰掛けた。 

「しかし君たち、よくこのホテルがわかったね。」
「ええ、副校長に聞きました。健作先生、今日は本当にありがとうございました。」
「僕はちょうど通りかかっただけで、君たちの運動神経が素晴らしかったから怪我をしなかったんだろう。
それから、『先生』は止めてくれないかな!?
僕だって、まだ大学生なんだから。」

「じゃあなんとお呼びしたらいいんですか?」
「そうだなぁ・・・『健作』でいいよ!」 
「はい、わかりました。私の愛称はリリーです。健作、リリーと呼んでください。」
「リリー・・・ユリかぁ。気品があって華やかなところが君にぴったりだね、リリー。」
「健作、ありがとうございます。ところで私には2人のお兄さんがいるんですけど、1人はカナダに、もう1人はオーストラリアに留学しています。
私は日本に留学したいと思っています。」
「へー、君の家はすごいんだね。お父さんは何をしてらっしゃるの?」
「父は貿易会社を経営しています。健作は、いつ日本に帰るんですか? 
色々日本のことを聞かせてほしいです。」
「僕はとりあえず来週日本に帰ります。」
「それじゃあお手紙をお送りしますので、住所を教えてください。」

陳淑雲は、カバンからノートを取り出すと、ボールペンと一緒に差し出した。

 健作は住所と名前を英語で書いた。
「健作、名前は漢字でも書いて!」いわれるままに、漢字で名前を書いた。

3人は中国語で二言三言言葉を交わすと、突然笑い出した。
「え、何がおかしいの?」理由は教えてくれない。
「健作、よかったらみんなでちょっと海を見に行きませんか?」
「ああ、良いよ。」 ホテルの玄関を出て、健作はタクシーの方に向かおうとすると、陳淑雲に腕を引っ張られた。
「健作、バス! バスのほうが安いですよ。」ホテルの近くのバス停に向かうと、やってきたバスに小銭を放り込んで乗り込んだ。

冷房の入っていないバスは、窓が開け放たれているとはいえ、蒸し暑い。 
「健作、後ろに行きましょう。」というと、がらがらのバスの一番後ろの席まで連れていかれた。

開け放たれた窓からは、潮の香りがかすかにする風が吹き込んできて、前方の席とは違って意外と心地よい。 
セントーザ島に隣接するフェリー乗り場でバスを降りると、2~30人乗ったら満員になりそうな小さなフェリーに乗って、島へと渡る。船から水面を見下ろすと、真っ白な海底まで透き通って見えている。
手を差し出せば、海底まで届くような錯覚に襲われた。 

島に着くと、遊歩道を海岸へと向かった。
陳淑雲たち3人は本当によく笑う。
英語で話してくれると判るのだが、中国語で話されると、全くわからない。 

と、突然林を抜けると、視界が広がって朱に染まった海に黒々とシルエットを湛えた島が点在してみえた。 
それまで大きな声で笑っていた3人は砂浜に駆け出すと、沈み行く太陽をじっと見つめていた。健作もその脇に立って、自然が織り成す壮大なドラマをじっと眺めた。 

空に浮かんだ雲は黄金色に輝き、大きさとスピードを増した太陽は、ぐんぐん水平線に近づく。

太陽が水平線のかなたに沈みかけると、なんと一筋の燃えるように輝く海の道が現われた。

109猿島夕日.jpg  

やがて太陽は沈み、空は茜色から群青色へと変わっていく。

・・・つづく 

一回では書ききれませんでした。

 もう一回くらいいつか書きましょう。

まったく推敲していないのを載せるのもいかがなものかとも思いましたが、今日も時間がなくこのままアップします。

写真は残念ながらシンガポールの夕焼けの写真ではありません。 東京湾に浮かぶ猿島で、煉瓦研究のフィールドワークをした日に猿島から見た夕焼けです。 

追記 朝読み返してみると、最後は端折りすぎでしたね。

貿易会社のオーナーの「おじょうさま」がタクシーに乗らずにバスにのるのは不自然?・・・とも思いましたが、実際そうだったのだから、ここはフィクションではなく事実のままでいいかな(^^)


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学生街の四季 シンガポール編1 [学生街の四季]

今日は久しぶりにJAY-WALKのSTARGAZERを聴きながらお読みください。

以前書いたショートストーリーで、先日もリンクを貼った学生街の四季シリーズの次のストーリーで登場する『陳淑雲』はどんな人なんだ?・・・等の質問を以前よりたくさんいただいておりました。

そこで今日はちゃちゃっとそのなれ初めを書き始めたら、とても一回では終わりきらず、やむなく何回かに分けて、アップさせていただきます。

 ⇒泰山木 回顧 学生街の四季より

まずは、上のリンクからお読みいただいても、こちらを読んでから上のリンクに行ってもどちらでもいいかと思います。
 

シンガポール4.jpg

健作は、シンガポール市内の道を歩いていた。
ダンマンハイスクールで熱帯雨林でのサバイバルに関する授業を手伝うためだ。
途中の道沿いの運河には木製の比較的大きな船がたくさん泊まっていて、子供たちが運河に飛び込んで遊んでいる。

街中には車が溢れ、東京の都心部と変わらぬ喧騒が溢れていた。学校に近づくと、塀の向こう側からはなにやらにぎやかなチャッパ(中華文化圏のシンバルのようなもの)や太鼓の音が聞こえてきた。門を入ると、黄色い大きな獅子頭を被った生徒が獅子舞の練習をしている。

1獅子舞.jpg前足役と後ろ足役の二人一組で演じている。
高さ1mくらいの小さな台の上でまるで一匹の獅子であるかのように舞っていた。
よくもまぁ、こんなアクロバティックな演技ができるものだ。

その横を通ったとき、「あっ、危ない!」誰かが叫ぶと、突然獅子舞の台が壊れて上に乗っていた二人が頭から落ちてきた。

健作は、落ちてきた二人を受け止めるとその場に転がった。
まるでスイッチが切れたように鳴り響いていた音楽は止まり、その場が凍りついた。

一瞬真っ白な時間が何分すぎただろうか、健作の耳に蝉のうるさいような泣き声が戻ってくると、立ち上がって獅子舞の二人に駆け寄った。

二人は、「いてて・・・」といいながら獅子舞の被り物を脱ぐと、なんと獅子の中に入っていた二人は少女だった。

「君たち、大丈夫かい?」と健作は手を出すと、前足役の少女は、その手につかまって立ち上がった。
「どうもありがとう。あなたがいなかったら、きっと大怪我していたわ。」
どこも怪我をしていないようだった。

しかしよっぽど驚いたのだろう、しっかり健作の手を強くにぎったままだった。
少女は健作の手を握り締めたままであることに気がつくと、ほほを赤く染めてうつむきながら手を引っ込めた。

「どこも怪我が無くてよかったね。それじゃ失礼。」
健作はその場を離れると、校舎に入った。

出迎えた副校長と挨拶を交わすと、なんと流暢な日本語で挨拶してきたことに、健作はビックリした。
副校長の案内で、職員室隣の小さな会議室に通された。
途中の廊下の壁には、M16アサルトライフルの分解組み立て図が掲示されている。
徴兵制度のあるシンガポールでは、高校でM16分解組み立てを習う。

しばらく会議室で授業の内容について打ち合わせた後、教室へと向かった。
高校2年生の教室に入ると、最初に目に飛び込んできたのは、先ほどの獅子舞の前足役をしていた女子生徒だ。

一条の光が、その少女を照らしているように健作の目には映った。
少女も健作をじっと見つめている。
その後の1時間、健作はどのように授業を進めたのか、全く記憶に無かった。

無事授業が終わると、生徒たちからは盛大な拍手をもらって、深く一例すると廊下にでて職員室へと向かった。
「健作先生!」 後ろから誰かが走りよってくるのがわかって、健作は振り返った。
「先生、さっきは本当にありがとうございました。」
件の少女である。

ショートカットの髪型はボーイッシュでありながら、とてもかわいらしく、大きな瞳でじっと凝視されると、健作は瞬間心の奥底まで見つめられた気がして、今度は健作が視線をそらしてうつむいた。

健作はふっと息を吐き出すと、顔を上げた。
「さっきは大丈夫だった? どこか痛いところはない?」
「はい、おかげさまでどこもケガしなかったです。」
「それにしても素晴らしい演技だったね。」
「ありがとうございます。そういっていただけると嬉しいです。」

簡単に会話を切り上げ少女に別れを告げると、職員室へと戻り授業が終わったことを報告した。

簡単に先生方と打合せをした後ダンマンハイスクールを辞して、シンガポール大学に寄ってからホテルに戻ると、シャワーを浴びた。

42度の湯を出しっぱなしにして身体をシャワーに打たせていると、獅子舞の少女の顔がまぶたの向こうに映ってくる。
あの少女のことを考えると、胸が
高鳴る。

バスルームから出て着替えていると、突然ベッドサイドにおいてある電話が鳴った。「こちらはフロントですが、健作さまに『陳淑雲さん』がお見えです。

・・・・つづく

さて今日の千羽鶴です。

38鶴.jpg

千羽鶴 38/1000

ネタがつきはじめたせいか、これを『鶴』と呼ぶには少し無理があると思うのですが、お許しください。

さて、明日日曜日はナイアガラに乗務します。
明日のまかないカレーは・・・ヒミツです(^^)
たぶん、おいしいと思います。

食べたい方は、お越しください。
ただし、必ず食べられるとは限りませんので悪しからず(^_-)/


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北海道の思い出5 [学生街の四季]

今までの話は、次のリンクからご覧ください。

⇒北海道の思い出

⇒北海道の思い出2
⇒北海道の思い出3
⇒北海道の思い出4

千恵子は千歳から戻ってくると、助手席に置いた包みを持って車を降りた。

店に入ると、壁にかかった時計は11時30分を回って、ぽつぽつお客さんが入り始めたところだった。


「妙子さん、ごめんね、ありがとう。」

「あっ、ちーちゃん、お疲れ様。」

千恵子は、妙子に挨拶もそこそこに厨房に入ると、業務用の冷凍庫を開けて、包みをしまった。


厨房からでてエプロンを付けていると、妙子が隣に立った。

「なぁーんだ、ちーちゃん千歳まで行って、LeTAOのチーズケーキ買ってきたの!?

あっ、そうか、健作さんのお土産ね!?」

「えっ、ええ・・・」

「あと・・・何時間かすると白馬に乗った王子様の登場ね!」

「あっ、いや、そんなんじゃないって!!」

千恵子は、頬を赤らめると、厨房に入った。


ランチタイムの忙しい時間が過ぎ去ると、お客さんは途切れて、ようやく一息つけるようになった。

「妙子さんコーヒーでも飲む?」

「うん、一息入れようか。」


厨房でコーヒーを淹れると、ポットとマグカップをもってテーブルの上に置いた。

千恵子は、マグカップにコーヒーを注いで壁の時計を見上げると、2時を回っていた。

妙子は、そんな千恵子を見て口を開いた。

「今頃健作さんは、どこら辺走ってるんだろうね。」

「ええ、9時にホテルを出て、狩勝峠から富良野に抜けて、道央道で来るって行ってたから、順調に来れば札幌辺りかな?」


この日の午後の来店客はほとんど無く、時間はじりじりと過ぎていった。


気がつくと、柱の時計は4時を回っている。

千恵子と妙子は、テーブルの上に置いた健作の携帯を見つめて押し黙っている。


「まさか事故にあったりしてないだろうねぇ。」

妙子がぽつりと言うと、千恵子ははっとしたように立ち上がった。

「あ、ちーちゃん、大丈夫だよ。きっと途中でどこかよってるんだろ。

フェリーが出るのは18時45分だから、まだまだ時間あるじゃん。」


千恵子はスマホを取り出すと、高速道路の交通情報を調べ始めた。

「特に渋滞や事故はないみたいね。」

ほっとするようにつぶやいた。


いたずらに時間は過ぎていき、千恵子は店内を行ったり来たり歩き始めた。

妙子も心配そうにそんな千恵子を見ているしかなかった。


しばらくすると妙子は席を立ち外に出ると、暖簾をはずして「本日休業」という札を扉にかけた。


壁の時計が18時30分を指して、妙子が立っている千恵子を見上げると、目にはうっすら涙がたまっている。

「ちーちゃん、ほら座んなさい。」

千恵子は動こうとしないので、妙子は立ち上がると、千恵子の肩に手を添えて座らせた。


千恵子が座るのと同時に携帯が鳴りだした。

二人ははっと一瞬驚いたように身体を震わせると、千恵子は手を伸ばして携帯を取り上げ、応答ボタンを押して耳に当てた。


「もしもし、ちーちゃん!?」

「健作さんなのね・・・千恵子です・・・。」

健作の声が携帯から飛び出すと、千恵子は安心したのか気が抜けて、その後は声にならなかった。


「ちーちゃん、ごめん。2時過ぎに江尻西インターの手前でエンジンが壊れて動けなくなっちゃった。

車は動かないからフェリーに乗せられなくて、レッカー呼んで東京まで運んでくれる陸送業者さんのところまで運んでもらったんだ。」


「よかった、健作さんが事故にあったんじゃないかと、気がきじゃなかったのよ。」


「本当にごめんね。連絡しようにも僕の携帯はちーちゃんのところだし、レッカーやさんや陸送業者さん、東京の修理工場に連絡取ったりで、思うように連絡できなくて。

それで今フェリー埠頭に着いたところなんだけど、明日、明後日は満席で乗れないみたいなので、予定通りこのまま乗って帰ります。

どうしてもちーちゃんに約束した3つの楽しみを実現するために、日程を変更しようとしたんだけど、本当にごめん・・・」


「ううん、いいのよ。健作さんが元気なら。」

「ありがとう、もう乗船しなくちゃいけないから、また改めて連絡します。」


電話が切れると、千恵子は崩れるように椅子に座り込んで、ひとしきり泣いた。

妙子は、厨房から日本酒のビンとコップを持ってくると、テーブルにおいて千恵子の隣に座り、千恵子の肩にやさしく手を回した。


「ほら、一緒に飲もう。」

「う、うん、でもお客さんが来るかも・・・」

「大丈夫、今日はもうお休みよ。」

妙子はコップを千恵子と自分の前に置くと、日本酒を注いだ。

「ちーちゃん、良かったじゃない。

もし健作さんが順調にここにきて携帯を持って帰ったら、それで終わりだったかもしれないよ。

これでまたご縁ができたんだから、良しとしなさい。」

「うんありがとう、妙子さん。」



今日はYHUTAじいさん、獏さんと、ふじたしょうこさんの個展を拝見しに恵比寿まで行ってきました。

またその様子は改めてアップさせていただきます。

新しいレンズを付けたD300Sと、白黒フィルムを入れたF3を持ち出したのですが、こんなに写真を撮るのが難しいと感じたことは久しぶりで、記録的な写真を数枚撮っただけで帰宅しました。

その後マイスタジオで何枚か撮ってみたのですが、どんなレンズでどんな写真を撮ったのかは、改めてアップします。

次の北海道行はいつになるのか・・・早くラーメン屋さんに行かなければ! 


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北海道の思い出4 [学生街の四季]

今までの話は、次のリンクからご覧ください。

⇒北海道の思い出

⇒北海道の思い出2
⇒北海道の思い出3

千恵子は店を閉めて片づけが終わると、いつものように小さなストーブとパーコレーターを取り出して、コーヒーを入れ始めた。


厨房の照明は消され、薄暗い店内は、蛍光灯が一つしか点いていない。
遅番だった妙子は千恵子と向かうように座った。

「ちーちゃんの淹れてくれるコーヒーは、香りが高くておいしいんだよね。」

「あら妙子さん、ありがとう。」

ストーブの上にコーヒーと水をセットしたパーコレーターを載せると、火を点けた。


程なくポコポコと音が聞こえ出すと、蓋のつまみのガラスに褐色の液体が吹き上がり、いい香りが広がる。


千恵子は、マグカップにコーヒーを注ぐと、妙子に差し出した。

「妙子さん、はいどうぞ。」

「うん、ありがとう。」


千恵子はコーヒーを一口飲むと、大きく息を吐き出した。

「ちーちゃん、どうしたの? どこか調子でも悪いのかい!?」

「えっ、いいえ、そんなこと無いわよ。」

「なんか心ここに在らずって感じじゃない。」


千恵子はポケットから黒い携帯を取り出すと、机の上に置いた。

「健作さん、今頃どこを走ってるんだろうね。」

千恵子はぼそっと呟いた。

「そっかぁ、ちーちゃんあんた、恋わずらいね!?」

「ええっ、そんなんじゃないよ。ただ、健作さんが電話するって言ってたのに、昨日はかかってこなかったから、ちょっと心配してただけ。」

「はいはい、わかりました。それじゃぁ私、帰るわね。」

「うん、お疲れ様。また明日もお願いしますね。」

妙子はかばんをつかむと出て行った。


千恵子は一人になると、ぼーっと携帯を見つめていた。

何分くらいそうしていただろう、コーヒーが冷めてしまったことに気がつくと、大きく息を吐き出した。

「さて、そろそろ帰ろうかな。」

立ち上がろうとすると、突然携帯がプルプル振動して鳴り出した。


一瞬びっくりしたが、すぐに気を取り直して携帯を開けて電話番号を見ると、帯広の市外局番の固定電話からだった。

通話ボタンを押すと、元気な声が携帯から飛び出してきた。

「ちーちゃん!?、こんばんは、健作です!」

「健作さんこんばんは。千恵子です。」

「昨日は、ビールを飲んだら気がついたら夜中になっちゃって。」


「健作さん、今日は帯広なんですか?」

「あれ、ちーちゃん、よくわかったね。今帯広の北海道ホテルに着いて、ぶらぶら帯広駅まで歩いてきて、食事したところなんだ。」


「市外局番が帯広だったから、今帯広なのかなぁ・・・なんて思ったんだ。

旅はいかがでした? たくさん楽しまれたらいいんだけど。」

「うん、色々ハプニングはあったけど、とっても素敵なドライブになったよ。

ところで、明日はいよいよ苫小牧からフェリーに乗って帰る日なんだけど、帯広から苫小牧まで、どうやって行ったらいいかな?」


「そうねぇ・・・一番早くて簡単なのは、帯広から道東道で札幌にでて、道央道で苫小牧かな。それだと3時間かからないくらいね。


「なるほど、それじゃあちょっと早すぎるかな。

襟裳岬周りで海岸沿いに苫小牧まで行くのはどうかな?」


「それだと逆に時間かかりすぎるわね。国道236号で、襟裳岬の付け根をショートカットしてくるといいかも。

 私のお勧めは狩勝峠越えで、富良野に出て、道央道で苫小牧まで下ってくるのはどうかしら。狩勝峠からの眺めはなかなかのものよ。」


3狩勝峠.jpg

「なるほど、それじゃぁ明日は9時くらいにホテルをでて、狩勝峠経由でそちらに向かいます。2時から3時頃に着いたら、お客さんも一段落してるかな?」

「そうね、それくらいだったら大丈夫よ。」

「了解しました! それじゃあまた明日。おやすみなさい。」

「運転気をつけてね。おやすみなさい。」


千恵子は電話を切ると、暖かいものが身体の中に湧き上がってきたことに気がついて、誰もいないのに、顔を赤らめた。


そこで千恵子はあることを思いつくと、携帯を取り出して妙子に電話した。

「妙子さん、ごめんね遅い時間に。

明日なんだけどさ、朝10時に千歳まで行ってくるから、開店準備悪いけどおねがいしてもいいかなぁ?」


「えっ、どうしたの急に。私はかまわないわよ。」

「ありがとう、じゃぁ今晩のうちに準備できることはしておくから。

それじゃあおやすみなさい。」

・・・つづく

今日は今造ボート部の応援に行ってきまた。
・・・とはいうものの、会場の戸田公園に着いたのが準決勝のゴール直後で、ボート部の皆さんと暫しお話しをさせていただき、失礼しました。

その後新宿にたちより、ヨドバシによってレンズを購入。
先日注文したものとは違うものを購入してしまいました。
どんなレンズを購入したのかは・・・次回にでも。


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北海道の思い出3 [学生街の四季]

今までの話は、次のリンクからご覧ください。

⇒北海道の思い出

⇒北海道の思い出2


「健作さん、素敵な人だったね。」

妙子は、千恵子の肩を優しくたたきながらつぶやいた。

「うん、なんかね、健作さんとはまた逢えるような気がするんだ。

うん、きっとまた来てくれるよ。」

「あんたたち、とってもお似合いだったよ。

あんたもそろそろ自分の幸せ考えて、早くいい人見つけなさい。」

「はいはい、考えとくわ。

今日もお疲れ様。」

「うん、それじゃあお先に失礼します。」

妙子はバックを持つと出て行った。


夜の営業も終わって、従業員がみんな帰ると、健作が座っていた席に座った。
小さなキャンプ用のストーブを取り出すと、パーコレーターにコーヒーをセットして火をつけた。


じっとパーコレーターを眺めていると、健作の顔が思い浮かんでくる。

「一緒にドライブ言っちゃえば良かったな。」

千恵子は、そっと囁いた。


やがてポコポコとリズミカルな音が鳴り始めると、蓋のガラスの部分に茶色い液体が吹き上げてきて、いい香りがしてきた。

と、そのとき突然携帯の呼び出し音が鳴り出して、千恵子はびっくりした。

反射的にポケットに入っている自分の携帯を取り出したが、鳴っているのは自分の携帯ではない。


立ち上がって周りを見回すと、椅子の座面と背中の部分に黒い携帯が挟まっている。

取り上げると、しばらく出るかどうするか迷っているうちに呼び出し音は切れた。


「誰の携帯だろう?

今日この席に座ったのは・・・・」

と、また携帯は鳴りはじめた。
電話にでれば誰の携帯かわかるかと思い、電話にでてみることにした。

「もしもし・・・」

「あっ、千恵子さん?」

「えっ・・・」いきなり自分の名前を呼ばれてびっくりした。

「あっ、千恵子さんじゃなかったのかな、失礼しました。」

「あ、いや、千恵子です。いきなり自分の名前呼ばれてびっくりしちゃった。

その声は健作さんですね!?」

「うん、健作です。

今札幌のホテルから電話かけてるんだ。

ホテルに着いたら、ポケットにもカバンにも携帯が見当たらなくて。

それで、ひょっとしたらちーちゃんのお店で忘れたんじゃないかと思って、104で聞いたんだけどわからなくて。

そこで携帯にかけたら、『誰か出てくれるかなぁ』なんて思ってかけてみたんだけど、ちーちゃんが出てくれてよかった。」


「この携帯、どうする? どこかに持っていこうか?」

「あ、いや帰りに苫小牧から大洗行きのフェリーに乗るから、またよります。

今週の金曜日になるけど、大丈夫かな?」

「了解しました! 金曜日に待ってるね。」

「ご迷惑をおかけしますが、よろしくね!

あ、仕事が終わるのは、毎日これくらいの時間かな?」

「ええ、今一日の仕事が終わって、コーヒー淹れてたところ・・・あっ、ちょっと待って!」

千恵子は、あわててストーブの火を消した。


「あっ、ごめんね、今火が付けっぱなしになっていたから消したの。」

「へー、ちーちゃんコーヒー好きなんだ。」

「ええ、私は大好きよ。一日に何杯も飲むんだ。」

「実は僕も大好きなんだ。山の中や海辺でコーヒーポコポコ淹れて飲むのが大好きさ。」

「なんだ、同じね。今健作さんが今日座ってたテーブルにストーブ出してパーコレーターで淹れてたんだよ。」


「それじゃあ、今度行くときは楽しみが二つ・・・いや三つできたよ。

一つ目は、海鮮あんかけ焼きそばを食べること、二つ目はちーちゃんが淹れてくれるコーヒーを飲むこと、そしてなんといってもちーちゃんに会うのが楽しみだよ。」

「あら、私の入れたコーヒーは高いわよ。
請求書みて目を飛び出させないでね。」

ひとしきり二人は電話越しに笑った。


「ちーちゃん、また夜でもこの携帯に電話かけてもいいかな?」

「ええ、これくらいの時間だったらOKよ。」

「了解しました! それじゃあおやすみなさい。」

「ええ、健作さん、運転気をつけてね。」

「うん、ありがとう。それじゃあ。」



その日の苫小牧から札幌までの健作の旅程は、篠突く雨に合羽を着ての運転で、散々だった。
土地勘の無い道を雨の中運転するには、集中しなければならない。

携帯を忘れてきたことなど、全く気がつかなかった。

ホテルに着いて大分慌てたが、千恵子が携帯を預かってくれることがわかると、ほっとして、ホテルから出ると、ホテルのパンフレットにあった居酒屋に入った。

旬の秋刀魚や、蟹を魚にビールを飲み干すと、千恵子の顔が浮かんできた。


一夜明けて朝起きると、空は素晴らしい青空が広がっている。

道央自動車道に入って札幌市内を抜けると、そのまま青空に続いていくような道を気持ちよく走っていた。


眼前に広がる青空を見ていると、昨日の千恵子の笑顔が思い出されて、胸が熱くなってくる。

健作は、数日後にまた苫小牧で千恵子に逢えると思うと、ワクワクしてくる気持ちを抑えて、一路道東を目指してひた走った。



「おはよう!」

元気な声をあげて、妙子が入ってきた。

「あっ、妙子さんおはよう。今日もよろしくね。」

「あれ、ちーちゃん、なんか顔に『嬉しい』って書いてあるよ!」

「えっ、うそっ!」

思わす壁にかけてあった鏡を覗き込むと、妙子は大笑いした。

「あんた何年一緒にいるとおもってるの! あんたに何か嬉しいことがあったことくらいすぐわかるわよ。」


千恵子は、妙子に健作が携帯を忘れていって、電話をかけてきたことを話した。

「ふーん、じゃあ金曜日に健作さん、また来るんだ。

チャンスじゃない! 告白しちゃいなさい!」

「えっ、そんなんじゃないよ。

確かに健作さんはいい人だけど、一回しかあったことないし、どんな人かもわからないんだよ。」

「はいはい、わかりました。頑張るんだよ。」

・・・続く




前回のお話に、「このまま終わってしまうのか!?」というご意見をたくさんいただきました。

そこで、もうちょっと書き込んでみました。

ますますこのお話の行き着くところが見えなくなってしまいましたが、心の赴くままにいま少し書いてみたいと思います。


苫小牧のマルトマ食堂はもうどうでも良くなってしまいました。

あのラーメン屋さんにもう一度行きたいです。
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北海道の思い出 2 [学生街の四季]

ちーちゃんと妙子は外から戻ってくると、健作の正面に腰掛けた。

あらためてちーちゃんを見ると美人というわけではないが、笑顔がとても素敵で可愛らしく、青空のような爽やかな雰囲気を持っている。


健作はちょうど食べ終わったところで、箸を置いた。

「ちーちゃん、ごちそうさま。とってもおいしかったよ。

初めて食べたのに、なんかとっても懐かしい味で、心のそこから温められた感じ。

北海道っていうと味噌ラーメンのイメージだけと、これはまた食べたくなる味だね。」

「お粗末さま。海鮮ラーメンはうちの看板メニューだからね。

私は千恵子。だからみんなから『ちーちゃん』て呼ばれてるんだ。」

「千恵子さん・・・いい名前だね。

僕は健作、よろしくね。」

二人はどちらからともなく手を差し出した。

手と手が触れ合った瞬間、何か暖かいものが二人の身体を駆け巡って、永遠とも思われる時間が流れる。


その様子を見ていた妙子は微笑んで、咳払いをすると健作に問いかけた。

「ところで健作さん、あのジープは海兵隊のジープなの? 変わったナンバー付いてるけど!」

健作は現実の世界に引き戻された。

「あ、あのジープは朝鮮戦争に行ったジープで、昭和35年に米軍から払い下げられて以来、我が家の家族になってるんだ!」


「へー、そんなに古いんだ。

ねーねー、ちーちゃん、あんた健作さんと一緒にドライブ行ってきたら!?

なんだったら、そのまま東京に行っちゃってもいいんだよ!!」

「妙子さん何言ってるの。行ける訳無いじゃん!」

ちーちゃんは、頬を微かに朱に染めると立ち上がった。


「ちーちゃんさえ良かったら、僕はかまわないよ!

社長、今日から一週間ちーちゃん年休とるって!」

健作は、厨房にいる人影に向かって声をあげた。

「経営者は私。だから行ける訳無いでしょう!」

ちーちゃんはちょっと困ったような顔をして、器を手に取ると厨房に消えた。


「ははは、そうだよね。」

健作は苦笑いすると、席を立った。


妙子は、健作を見上げると小さい声でささやいた。

「もともとここは、ちーちゃんのご両親がやってたお店なんだけどね。
事故でご両親をいっぺんに亡くして、自衛隊辞めてお店を継いだんだ。

健気に明るく振舞ってるけど、若いのに苦労してるよ。

早く幸せになって欲しいんだけどね。」

健作は、暫く発する言葉も思い浮かばず、厨房の向こうに垣間見える千恵子を目で追った。


「妙子さん、ありがとう。

僕もあのジープが唯一の家族だよ。」1羅臼岳とM38.jpg

ようやくそう言うとかばんを手に取った。


健作は、厨房に向かって声をかけた。

「お勘定お願いましす。」

千恵子はエプロンで手を拭きながら厨房から出てきた。


「はい、ありがとう。また機会があったら食べに来てね。」

「ああ、今度来た時は海鮮あんかけ焼きそばにするね。」

健作が扉を開けると、後ろから千恵子の声が響いた。

「ありがとうございました。」


健作はエンジンをスタートさせると、駐車場を出て札幌を目指した。

千恵子は厨房の窓越しに走り去る健作を見つめている。

いつしか後ろに妙子が立つと、千恵子の肩に優しく手を置いた。

千恵子の目にはうっすら涙が浮かんでいた。



このショートストーリーは、典子の登場するお話と、智子の登場するお話とは違う時系列のフィクションです。

主人公の名前を変えればよかったですね。


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北海道の思い出 [学生街の四季]

10.jpg車両デッキへと降りていくと、一日ぶりに愛車とのご対面だ。



愛車の姿を捉えると、何日も会えなかったような気がして、何故か暖かいものがこみ上げてくる。



イグニッション、オン!!
ギヤーのニュートラルを確認し、左足でクラッチを踏むと、右足でアクセルを数度パタパタさせてから、右足のつま先で床から飛び出しているスターターボタンを蹴った。



一発で勢い良くエンジンがかかって、気持ちよく回っている。

すぐにエンジンの回転は安定した。

前の方から車が動き始めると、前の車に続いて大きく開いた開口部から、明るい外に飛び出す。

記念すべき北海道の第一歩だ。

空はどんより曇っているが、潮の香りを含んだ空気はさわやかで心地よい。

健作は、先輩に書いてもらった地図を頼りに港近くのとある場所に向かった。



11マルトマ食堂.jpgフェリー埠頭から走ること5分、漁港の駐車場に車を止めると、傍らの古い鉄筋コンクリートの建物へと向かった。
建物の入り口には、「マルトマ食堂」という看板がでている。



中に入っていくと、いかにも人のよさそうなお母さんがニコニコしながら出てきた。

「兄ちゃん、ごめんな! 今日はもう終わっちゃったよ!」

「ええ゛っ、東京から楽しみにやってきたんだよ。何か残ってない?」

「ごめんな。今日はもう売り切れだっ!」




「まぁ、急ぐ旅でもなし、今日中に札幌に着けばいいんだから、何か見つかるだろう。」

健作は後ろ髪を惹かれる思いで建物を出ると、車をスタートさせた。



駐車場を出て通りに出ると、すぐ道の反対側に「海の駅ぶらっと市場 食の館」と看板がでている。

12市場のラーメン.jpg早速駐車場に車を止めて、「ラーメン」と書いてある暖簾をくぐると、中は広い食堂街になっていた。

午後2時を回り、ランチのお客さんは引いたところなのだろう、健作の他に客は誰もいない。



「『北海道』とくればやっぱりラーメンを食べてみたいなぁ。」

数店舗の中から、ラーメン屋さんの前に座ると、すぐに水の入ったコップをもったお姉さんが出てきた。



「何にします?」

何も考えていなかった健作は一瞬答えに窮すると、お姉さんはメニューを健作に差し出した。

健作はメニューを受け取ったものの、中も見ようとせずお姉さんに向かって微笑んだ。

「お姉さんのお勧めは何?」

お姉さんは、健作の予期せぬ反応に一瞬びっくりしたようだったが、すぐに素敵な笑顔を浮かべた。

「やっぱり、海鮮ラーメンか、海鮮あんかけ焼きそばかな!?」

「了解! じゃあ海鮮ラーメンにしようかな。」

健作は勢い良く答えた。

「了解! 海鮮ラーメン一丁!」

お姉さんは、健作の言い方をまねると敬礼をした。

敬礼というのは一朝一夕でかっこよくできるものではない。
お姉さんの敬礼は決まっていた。

健作はお姉さんに自分と同じ匂いを感じると、答礼した。

お姉さんは一瞬「えっ!」という表情を見せたが、何も言わず厨房に入っていった。



隣のテーブルにエプロンを取りながら女性が腰を下ろすと、帰り支度をはじめた。

厨房からお姉さんが出てくると、隣の席の女性の前に海鮮あんかけ焼きそばをおいた。

「妙子さん、お疲れ様。」

「ちーちゃん、今日のまかないが海鮮あんかけ焼きそばとは豪華だね。良いのかい!?」

健作は横目でみると、湯気が立ち上りとても旨そうだ。

「そっか、あのお姉さん、ちーちゃんって言うんだ・・・」



13市場のラーメン.jpg次にちーちゃんが厨房から出てくると、お盆の上には海鮮ラーメンが載っていた。



健作の前にラーメンを置くと、さっと敬礼をした。

「海鮮ラーメン、お持ちいたしました!」

健作は答礼した。

「ちーちゃん、ご苦労さま。」

二人は顔を見合わせると大笑いした。



健作は熱々のラーメンと格闘を始めると、ちーちゃんは水の入ったコップを持ってきて妙子さんの前に座った。



しばらくちーちゃんと妙子さんは世間話をしていたが、やがて健作に声をかけてきた。

「どう、うちの海鮮ラーメンおいしいでしょう!?」

健作は熱々のラーメンが口の中に入って思うようにしゃべれない。

頭を縦に振りながらモガモガいった。



妙子さんとちーちゃんは、健作の様子が受けたのかひとしきり笑った。

「兄ちゃん、どこから来たんだい?」

妙子さんが声をかけてきた。

「東京からです。北海道をのんびり走りたくて、ついさっき苫小牧港に着いたんだ。」



ちーちゃんが椅子を健作の方に寄せた。

「一人旅?」

「ああ、そうだよ。」

「あんた自衛官でしょ!?」

「そういうちーちゃんは自衛官なんだろ?」

「うん、もう退官しちゃったけどね。

で、あんたは現役なの?」

「あ、いや僕は自衛官じゃないよ、マリーン。」

「えっ、ま・・・りーん?」

「アメリカ海兵隊だよ。」

「えっ、だってあんた日本人でしょ?」

「ああ、まぁ話すと長くなるんだけど・・・」



5 M38と73式.jpg「ねっ、ちーちゃん、あんたこのお兄さんと一緒にドライブしてきたら!?」

「えっ、いや僕の車には屋根もドアもないから大変だよ・・・」

「ちーちゃん、タンデムだって平気だろ!?」

「あっ、いや、二輪じゃなくて四輪なんだけどね。」

「えっ、いったい何に乗ってきたの!?」

妙子とちーちゃんは、思わず窓から外の駐車場を眺めるた。

「えっ、なにあのジープ!?」

二人は入り口から外に飛び出していった

 

 


 


 

・・・つづく

このお話は、すべてフィクションです・・・念のため(^^)
今日は書き下ろして、まったく推敲していませんので、読みづらいところはご容赦ください。
あとで時間があれば、手直しします。


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季節の終わりに [学生街の四季]

このシリーズの過去の話は、次のリンクからご覧ください。

 Take to The Westward Passage !!  

 STARGAZER 銀河の探求者

 学生街の四季 暗雲と希望
 学生街の四季 再会
 学生街の四季 再会2
 学生街の四季 再会3
 学生街の四季 再会4
 シルエット ロマンス

 

健作は東シナ海に沈んでいく夕日を眺めていた。
砂浜に腰を下ろすと、日中の強い日差しで焼かれた砂に心地よい温もりが残っていてる。

沈み始めた太陽は、加速度をつけてあっという間に水平線の向こうに沈んでいった。

日が落ちたとはいえ、気温は28度。
しかし潮の香りを運んでくる風は、優しく頬を撫でていく。

海の深遠と見紛うばかりの群青が、だんだん広がっていくのを見守っている。
健作には、そのはるかかなたの空に、典子の顔が、そして陳淑雲の顔が、そして、10代、20代の頃の自分が走馬灯のように映っていった。

そして、最後に智子の顔が浮かんできた。
智子の優しい笑顔を見ると、なぜか心が痛む。

健作は逡巡していた。
そのとき、どこからともなく陳淑運の声が聞こえてきた・

「健作さん、自分の気持ちに正直になりなさい。」

そう、最後に啓徳国際空港での別れ際に陳淑雲が健作に向かって言った言葉だった。

「あの時は素直になれなかった・・・
また同じ過ちを繰り返すのか!!」

辺りはすっかり暗くなっている。
やがて健作は意を決すると、ポケットがスマホをとりだして、メールを打ち始めた。

智子さん
こんばんは、健作です。
先日は今治で大変失礼しました。

どうも僕は居眠りしてしまったようですね。
本当にごめんなさい。
この埋め合わせに、お食事でもご馳走させていただけませんか。

八十八箇所巡りの様子など、ぜひお聞かせください。

そうそう、次のM38君の出番が決まりました。
10月20日日曜日に小金井公園で開催されるクラシックカーフェスティバルと
11月9日に横浜赤レンガ倉庫前で開かれる横浜ヒストリックカーデー
に参加することが決まりました。

まだちょっと先ですが、もしお仕事のご都合がつけば、お越しください。
また、お会いできる日を楽しみにしています。

文章を一気に入力すると、内容を読み返す暇も惜しんで送信ボタンを押した。
ふと健作は空を見上げると、天の川の中で智子は微笑んでいた。 

 

今日も帰宅が遅くなってしまい、帰宅してお風呂から出てきたら、日付が変わる直前でした。
そこでビールを飲みながら、「この前は智子の様子を書いたから、今日は健作がどんなシチュエーションでメールを送信したのか、書いてみようと思って書きなぐりました。

推敲も考え直すまもなく一気に書いたので、おかしな点はご容赦ください。
ここのところ、来週北海道行きのために休暇をとることもあり、とんでもなく忙しい状態に陥っています。

昨日の記事で、M38君に小細工をしたと言ったのは、ETCとポータブルカーナビを取り付けるためのシガーライターのソケットを取り付けてもらうことを、キャブの調整とあわせてやっていただくことでした。

もともと高速などM38君で走るつもりは無かったのですが、やはり無いと不便だろうと思い、付けることにしました。
JK君には、カロッツェリアの最新のメモリーナビをつけたので、M38君用にもカロッツェリアのポータブルにしようかと思っています。

北海道という知らない大地を地図を見ながら走る・・・というのは、ナビゲーターがいれば別ですが、かなり疲れることと思い、M38君には似合わないことを承知の上で、取り付けることにしました。

どなたかナビゲーターになっていただければいいのですが(^^;っっ

 


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シルエット ロマンス [学生街の四季]

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 学生街の四季 暗雲と希望
 学生街の四季 再会
 学生街の四季 再会2
 学生街の四季 再会3
 学生街の四季 再会4

「今日も一日お疲れ様。」
智子は、みんなに声をかけてボーディングブリッジへと足を踏み出した。

智子の後を、後輩たちがひそひそ話しをしながら続いて歩いていく。
「ね、智子先輩、先日の松山のフライトから、なんか変わったような気がしない?」
「えっ、どんな風に?」
「う~ん、美しさに磨きがかかったっていうか・・・ そう、輝いているっていう感じかな。」
「うんうん、そうだね、華やかさが増したって感じがするね。」

智子は後ろを振り返ると、
「えっ、何か言った!?」
と聞いてきた。
「えっ、あっ、いや何でもありません。」

夕焼け.jpg

報告を済ませると、京浜急行に飛び乗って空港を後にした。
智子は、京急沿線の横浜市内に住んでいる。

ねね.jpg改札を出ると駅前のスーパーに入った。
「今日の晩御飯は何にしようかなぁ・・・」
ぶらぶら店内を歩くが、食べたいものが思い浮かばない。
惣菜売り場で足を止めると
「なんか疲れちゃったから、お鮨でも買って帰ろうかな。」
鮨のパックをかごに入れると、お酒の並んでいる棚に向かった。

お酒の冷蔵ショーケースの前でふと立ち止まると、緑鮮やかなビンが目に飛び込んできた。
ねずみをモチーフにしたようなかわいらしい文字で「ねね」と書かれている。
「よし、今晩はこれにしよう。」
発泡純米酒ねねをかごに入れて精算を済ませると、家路を急いだ。

駅前ロータリーを出てやや急な坂を上っていくと、小高い丘の上に智子のすむマンションは建っていた。

入り口で手をかざすと、入り口のガラスドアが開いた。
エレベーターに乗り込んで最上階のボタンを押すと、エレベーターは音も無く静かに動き出す。

エレベーターの扉が開いて、廊下を歩いていくと、日中の暑さとは裏腹に、さわやかな風がほほをなでる。
智子は部屋の前まで来ると、「ふー」と大きく息を吐き出した。
ハンドバックの中から鍵を出すと、扉
を開けて真っ暗な中に一歩足を踏み入れた。
日中の暑さがむっとするほどこもっている。
電気を点けてクーラーのスイッチを入れると、バスルームに行き、お風呂のスイッチを入れた。

荷物を片付けていると、程なくしてお風呂が沸いた。

暖かいお湯にゆっくり浸かると、一日の疲れが抜けていく。
軽く湯船の中でストレッチをして、身体をほぐすと、お風呂からあがった。

バスローブを纏うと先ほど買ってきた鮨と日本酒を冷蔵庫から出してリビングの机の上に並べる。
部屋の照明を落とすと、窓から街の夜景が浮かび上がった。 家々の瞬く灯りの先には漆黒の闇が広がり、蛍の灯りのように点々と船の停泊灯が揺れている。

立ち上がってオーディオ装置の前に行き真空管アンプのスイッチを入れると、ほのかなオレンジ色の明りがともる。
数十秒たって、真空管が温まると、FM放送がスピーカーから流れ出した。

ジャズを聴きたくてCDを選んでいると、ラジオから懐かしい曲が流れ出した。
思わず手を止めると、目を閉じて聞き入った。

いつしか智子は、一筋の涙を流しながら一緒に口ずさんでいた。

リビングの床に座り込むと、目の前の鮨をつまむでもなく日本酒をワイングラスに注いで飲みはじめた。

窓の外に広がる闇には、機内で初めて健作を見かけたときのこと、熱海でのこと、今治でのこと、今まで廻った四国のお寺さんのことなどが、走馬灯のように映し出されて行った。 

どれくらい時間か経っただろう。
やがて、机の上に放り出したままのスマホが、メールの着信を知らせる光を点滅させていることに気がついた。

「誰からだろう・・・」
智子はスマホを手に取ると、メールを開いた。

智子さん
こんばんは、健作です。
先日は今治で大変失礼しました。

どうも僕は居眠りしてしまったようですね。
本当にごめんなさい。
この埋め合わせに、お食事でもご馳走させていただけませんか。

八十八箇所巡りの様子など、ぜひお聞かせください。

そうそう、次のM38君の出番が決まりました。
10月20日日曜日に小金井公園で開催されるクラシックカーフェスティバルと
11月9日に横浜赤レンガ倉庫前で開かれる横浜ヒストリックカーデー
に参加することが決まりました。

まだちょっと先ですが、もしお仕事のご都合がつけば、お越しください。
また、お会いできる日を楽しみにしています。

メールは健作からだった。

今までの重苦しい空気が一気に吹き飛ぶのを感じると、智子はスマホのスケジュールのアプリを開いた。
日程を確認すると、10月も11月もフライトの予定が入っている。
「う~ん、両方ともだめだわ。
・・・でもまだ一ヶ月以上先のことだから、何とかしてみよう。」

スピーカーからはMJQの軽やかなリズムが流れ出していた。

 

さて、10月の小金井はたぶん出ると思います。
また、11月の横浜は正式に決まりました。

このことを記事にするとわずか2行で終わってしまうので、今日は智子にスポットを当ててちょっと書き込んでみました。

仕事から疲れて帰ってきて、昼間の熱気のこもった真っ暗な家に入るというのは、結構寂しいものがあります(^^)

発泡純米酒ねねは東京でも手に入るかな・・・探してみよ(^^)


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学生街の四季 再会4 [学生街の四季]

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 学生街の四季 暗雲と希望
 学生街の四季 再会
 学生街の四季 再会2
 学生街の四季 再会3

 

健作は時計に目をやると午前4時30分だった。
もう一寝入りしようとベッドに横になると、再び眠りに落ちていった。

羽毛布団のような柔らかな優しさに包まれて、心地よい眠りが続いた。
やがて、意識の奥底で誰かが呼んでいる。
「健作さん! ・・・健作さん!」
呼びかけに続いて泰山木の香りが漂ってくると、
「ん、なに智子さん・・・・」といいながら、ベッドの上に起き上がった。

心地よい眠りに、二週間に及んだ野営生活の疲れもすっかりとれていた。

「なんだ、夢だったのか。」
健作はベッドから降り立つと、窓際に歩み寄った。
窓から外を眺めると、瀬戸内海が綺麗に見えているが、遠くは靄がかかっている。
昨夜のことを思い返すと、ブランデーを飲み始めたところまでは覚えていたが、あとは智子の笑顔しか思い浮かばない。

時計を見ると9時30分。
その頃智子は、仙遊寺の本堂で手を合わせていた。

もうホテルの朝食は間に合わない。
そこで、シャワーを浴びて身支度を整えると、ロビーに下りていってチェックアウトした。

友人たちとの昼食会の待ち合わせの時間には少し余裕があったので、荷物を車の助手席に放り出すと徒歩で今治城へと向かった。

地図を見ると、城内には神社があるが、なんとこのお城は神社の持ち物だという。

2今治城.jpg

質素な中にも力強さを感じさせる素敵なお城だ。
現在の天守閣は、1980年(昭和55年)に鉄筋コンクリート造で再建された。

3今治城.jpg

お堀の水は、海から海水が導かれている。

4今治城.jpg

お城の中を散策して車にもどると、今治の友人たちとの待ち合わせの時間が迫っていた。
「よし、朝食を抜いたから、おなかはペコペコだ。
美味いものを食べに行くぞ!!」

車をスタートさせると、待ち合わせの場所へと急いだ。


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学生街の四季 再会3 [学生街の四季]

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今治の朝は静かに明けていく。

1夜明け.jpg

智子は6時に目を覚ますと、身支度を整えて出発の準備をした。
昼の松山空港から出発するフライトに間に合わせなければならない。

時計が7時を示すと、朝食をとるために1階に降りていった。
朝食は、バイキングで和洋種類も多く、おいしそうなものがそろっていたが、特段特色のあるものは無い。

パン、スクランブルエッグ、スープ、サラダ、フルーツ、コーヒーを取ると席に付いた。
夕べのことを思い返すと、思わず笑みがこぼれる。

「あの海兵隊のマークの入ったスキレットは、とても素敵だったわ。
そういえば健作さん、2回目にお会いしたときにはたしか海兵隊の中佐の制服を着てらっしゃったけど、いったいどういう方なんでしょう・・・
私は健作さんのこと、何も知らないんだなぁ」

ブラックでコーヒーの香りを楽しみながらゆっくり飲み干すと、身体は戦闘モードへと変わっていく。
チェックアウトして駐車場に向かうとレンタカーの助手席のドアを開けて荷物を置き、運転席に回ってエンジンをかけた。
8時を回ったばかりなのに、もう車内は日差しで暑くなっている。

カーナビに『仙遊寺』と入力すると、ここから25分と出た。
仙遊寺は、四国霊場八十八箇所巡りの五十八番だ。

車をナビの指し示す南へと進めると、まもなく市街を出て田園風景の中を走りぬけ、山道へと入る。
カーナビの指示に従い小さな路地を入ると、道は急にぐんぐんと登りだし道端にはいくつもの石仏が安置されている。
行きかう人々を見守っているようだ。

6仙遊寺.jpg

だいぶ登ってくると、今治市内が手に取るように見える。

7仙遊寺.jpg

やがて仙遊寺に到着すると、駐車場に車を止めて本堂へと向かった。
境内は山の中腹にあり、そんなに広くない。

時間が早いせいか、本堂までは誰にも出会わなかった。
本堂に着くと親子連れだろうか、納経に来られていた。

9仙遊寺.jpg

息子は母親をいたわるように本堂にいざなうと、30歳前後の若い女性が赤ちゃんを抱いて奥から出てきて、納経を受け取った。
そして納経帳に御朱印を押してもらっている。

智子は、親子連れが出てくるのを待って本堂に入ると、静かに目を閉じて本尊千手観音に手を合わせた。

8仙遊寺.jpg

「ありがとうございます、今治で健作さんと素敵なひと時を過ごすことができました・・・」
智子は、健作との予想外の出会いに感謝するとともに、将来を祈った。

そして納経と納経帳をカバンから取り出すと、件の女性が待ち受けていた。
「お願いします。」
智子が差し出すと、五十八番を開いて、御朱印をポンポンとリズム良く押していく。
そして、筆をとると勢いよく一気に力強く書き上げた。

11仙遊寺.jpg

思わず智子は「お見事・・・」といいかけて、あわてて言葉を飲み込んだ。
「同世代なのに、ここまですばらしい文字を書くには、血のにじむような努力があったんだろうな。
失礼なことを言ってはいけませんね。」
智子はそう思うと、その女性と目が合った。

10仙遊寺.jpg智子の気持ちを理解したのだろう、一瞬であったが気持ちが通い合うと、どちらからとも無く微笑んだ。

線香の香りが漂う中、蝉の鳴き声が本堂の中まで響いていて、まるで心が透明になったような気がした。
・・・と、突然赤ん坊のぐずる泣き声で現実の世界に引き込まれた。

「あ、ありがとうございました。」
「お気をつけて行ってらっしゃい。
これをどうぞ。」
差し出されたものを手に取ると、本尊の千手観音のお札だ。
納経帳にはさんでカバンにしまうと、車に戻った。

車のエンジンをかけると、時計を見て智子は驚いた。
「えっ、数分しかいなかったつもりなのに、もう1時間も経ってる!!。」
時計はすでに10時になろうとしていた。

カーナビを『松山空港』にセットすると、さわやかな気持ちを車内に満たして一気に山道を下った。

松山空港でレンタカーを返すと、仲間と合流した。
「あれ、智子先輩、何かいいことでもあったんですか?
なんかとっても嬉しそうですよ!」
「あー、本当だ!
顔に、『ウレシイ』って書いてありますよ!」

智子は、思わず窓に映った顔を盗み見た。
「さぁ、仕事、仕事!
私たちの気持ちが楽しく無ければ、お客様にも空の旅を楽しんでもらえないわよ!」

 

今日は智子さんの行動を追ってみました。
健作さんが登場しないのも初めてかな!?

さて、この日の健作さんはどのようなことになったのか、それは次回にでも(^_-)/

 


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学生街の四季 再会2 [学生街の四季]

8月11日は落雷で京王線のダイヤが乱れ、運転を再開したのは21時30分を過ぎてからでしたが、12日も落雷で止まってしまい、大混乱。

私が乗った特急京王八王子行きは、22時00分発車予定でしたが、次の電車が大幅に遅れることから、この電車に乗るように案内放送されていました。

5分送れで発車したものの、動いたり、止まったり、そして調布から府中の間は各駅停車で運転するという臨機応変ダイヤにより、通常35分でわが町高幡不動に着くはずが、50分以上かかりました。

ちょっと買い物をして家に帰り、お風呂を沸かして疲れを癒すと、もう日付が変わろうとしています。

そんなこんなで、昨日の続きをお楽しみください。
なお、過去のものは次のリンクからお読みください。

 Take to The Westward Passage !!  

 STARGAZER 銀河の探求者

 学生街の四季 暗雲と希望
 学生街の四季 再会

21 hotel.jpg部屋に入って荷物を置くと、着ていたものを脱ぎ去ってバスルームに飛び込んだ。
やや熱めにしたシャワーを一番強くして、しばらく打たせるに任せる。

この2週間、簡易シャワーは浴びたものの、心行くまでゆっくりしたことはない。
2
週間分の垢を洗い落として、無精ひげを剃るとさっぱりした。

シャワーから出て汗が引くまで待って、黒のジーンズに黒のTシャツ、黒のポロシャツを纏うと待ち合わせ時間まで10分を切るところだった。

ロビーに降りてソファーに座ると、野営生活も楽しいものだが、文明の有難さもまた格別なものだなどと考えていると、智子がやってきた。

「ごめんなさい、お待ちになりました?
「いえ、僕も今来たばかりです。さて、どこに行きましょうか?
僕は、今治が初めてなので、全くわかりません。」

「今治と言えば、焼き鳥ですよね。
仕事仲間に焼き鳥の美味しいお店を聞いてきたんですけど、行ってみますか?

22五味鳥.jpg焼き鳥で意見が一致すると、ホテルから歩いて数分のところにある「五味鳥」というお店の暖簾をくぐった。
「いらっしゃい!!
威勢のいい声が中から響いてくるが、すでに満席に近い状態だ。

ちょうど大将が焼き鳥を焼いている前のカウンター席が空いていて、そこに通された。
「焼き鳥」といっても、炭火で焼くのではなく、鉄板で焼いている。
すぐに観光の一元客と見取った大将は、「皮はいくかね?」と声をかけてきた。
今治では、鳥皮が付け出し代わりのようなものだと聞いたことがあるので、もちろん頼んだ。

ビールのほか、メニューを見ながら焼き鳥を何点か頼んでいくと、「ざんぎ」という文字が目に入り、何だかわからないままそれも頼んだ。

大将夫婦と、その息子夫婦だろうか、家族4人でカウンターの中外を切り回している。
大将はいかにも「頑固者」といった顔つきで、ひたすら鳥を焼いている。
それとは対照的に、奥さん二人は明るく愛想がいい。
「はい、お待ちどう様。鳥皮と焼き鳥だよ。」

「それじゃあ、乾杯しましょうか。」
「はい。」
「そうだ、沖縄風に乾杯しましょう。掛け声は「はな、はな、はな〜」ですよ。
二人の健康を記念して、はな、はな、はな〜」

健作はジョッキ半分ほど一気に飲み干すと、2週間ぶりに飲んだアルコールがかなりきつく、一気に酔いが回った。
智子は、どうやらお酒はそこそこ強いのか、ぐいぐいと飲んでいる。

「健作さん、この鳥皮って東京で食べる「皮」ではありませんね。
しっかり身がついていますよ。」
「あっ、本当だ。
たれはあっさりしているのに、こくがあってとても美味しいですね。」

「はい、ざんぎ!」といって、おかみさんがから揚げを出してきた。
独特の味付けのから揚げは、これまた絶品だった。 

お互いの今までの旅の様子などで話が盛り上がると、時間は早回しの時計のようにあっという間に過ぎていく。
ふと時計を見ると、10時を過ぎようとしていた。

「それじゃあそろそろ引き揚げましょうか。」
「ええ、とても美味しかったです。
友達は、今治市内の焼き鳥屋さんの四天王のうちの一つだと言っていましたが、さすがそれだけのことはありましたね。」
「ええ、本当に美味しかったです。
そうだ、よかったら僕の部屋で夜景でも見ながらブランデーでもいかがですか?

「もちろん、喜んで。」

店を出ると、暑かった昼間がうそのようで、風が心地よい。
18
階の部屋に入ると、今治の街が一望できた。

23 hotel夜景.jpg 

「あら、綺麗な夜景。私の部屋よりとても素敵です。」
窓際のテーブルに氷と水を用意し、カバンから海兵隊のマークの付いたステンレス製のスキットルを取り出すとテーブルの上に置いた。

智子はスキットルを手に取った。
「とても素敵なスキットルですね。」
「ええ、昔使っていたものですから、もう傷だらけなんですけどね。
でも愛着があって、今でも使っているんです。」

氷にスキットルからブランデーを注ぐと乾杯した。
何杯か杯を重ねると、健作はすっかり酔いが回っていった。
「ところで智子さん、なんで四国八十八か所の霊場巡りをされてるんですか?

智子は、しばらく今治市街の先に広がる瀬戸内海に浮かぶ船の灯りを観ていたが、やがて口を開いた。
「実は、八十八か所巡りを始めたのは最近のことなんです。
健作さんが搭乗されたときに、瀬戸内海の島々を説明させて頂きましたね。
あの時、霊場巡りをしてみようと思い立ったんです。
もし健作さんとご縁があるなら・・・・とお願いしていたら、そのご利益はすぐに表れて、ここで健作さんとお会い・・・」

健作は、微かな寝息をたてて寝込んでいた。
智子は、微笑むと、
「健作さん、お疲れなんですね。ゆっくりお休みになってくだいな。」
智子は、ゆっくり立ち上がると、部屋をそっと出ていった。

数時間後健作はふと目を覚ますと、東の空が白んでいる。
「あっ、智子さん、ついつい居眠りをしてしまい・・・」
立ち上がって部屋を見まわしたが、智子はすでにいなかった。

ふとテープルに目をやると、智子の置手紙があった。
「健作さん、素敵な夜をありがとうございました。
ゆっくりお休みください。
また、東京までドライブ、お気をつけて!
健作は、女性らしい、しかし力強い文字で書かれた手紙にしばらく見入っていた。

とても素敵な若い女性のNEさんに、今治の夜をエスコートしていただき焼き鳥屋さんに行ったのは、ノンフィクションです。
僕があと
年若ければ・・・(^^;っっ

NEさん、本当に素敵な夜をありがとうございました。

また、18階の海側というとてもいいお部屋を確保していただいたFさん、感謝申し上げます。

おかげさまで、今治はとても素敵な滞在となりました。
またぜひとも行きたいものです。
 

11時間の運転の疲れもすっかりとれて、13日からは日常の生活に戻ります。
これだけ運転して、この程度の疲労で済んだのは、JK君のおかげでしょうね。
貴重な相棒に出会えて、本当によかったと思っています。
これなら、M38君とともにJK君とも生涯付き合えそうです。

ところで健作君はいったいどうなることやら・・・(^^)
赤い糸はなかなか紡げないものです(^^;


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学生街の四季 再会 [学生街の四季]

智子を絡めたショーとストーリは次のリンクをご覧ください。

 Take to The Westward Passage !!  

 STARGAZER 銀河の探求者

 学生街の四季 暗雲と希望


健作は山陽道からしまなみ海道へと車を進めると、一路今治目指して走っていた。

 

カーステレオからは、浜田省吾の「夏の終わり」が流れている。


12 しまなみ海道.jpg


脳裏には、以前シンガポール大学の学生とマレー半島のジャングルから街に出てきて、マラッカ海峡に浮かぶ島、ペナン島へと渡ったときのことが浮かんできた。

あの時も、今日のように日差しは突き刺すように強く、蒸し暑い日だった。

透き通るようなエメラルドブルーの海に浮かぶ全長13.5kmの橋を、学生4人を乗せた車は疾走していく。


雲ひとつ無い真っ青な空に誘われて窓を開けると、熱風とともにさわやかな潮の香りが車内を駆け抜けた。

「健作、どうかしたの?」

健作の隣に座っている陳淑雲は、健作を覗き込んだ。

「あ、いや・・・なんでもないよ。ちょっと窓を開けてみただけ。」

橋を渡り終えると、車はヨーロッパの街並を彷彿とさせるジョージタウンへと入っていった。


13 しまなみ海道.jpg 

あの時と同じように窓を開けると、熱風とともにさわやかな潮の香りが車内を満たした。
来島海峡の上に広がる真っ青な空に陳淑雲の笑顔が浮かぶと、彼女の思いに応えられなかった苦い思いがこみ上げてくる
と同時に、先日熱海まで来てくれた智子がその後送ってきたメールに返信していないことを思い出した。


11 しまなみ海道.jpg 

やがて橋を渡り終えると車は今治の街へと入り、程なくして今治国際ホテルに到着した。

車を駐車場に止めると、バック一つを手に取ると車を降りた。

空調の効いた車内から外に出ると、蒸し暑い空気が身体にまとわりつく。

ロビーに入ると、やや薄暗い照明とひんやりした空調が、真夏の強い日差しと戦ってきた身体にはとても優しく包み込んでくれた。


ロビーのあちこちに今治造船で竣工した色々な船の模型がガラスケースの中で、存在感を示している。
いずれも1m以上ある大型の船舶模型は、見ごたえ十分だ。


大理石の床は、ぴかぴかに磨かれ高級感溢れる雰囲気に、14日間野営生活を送ってきた健作は一瞬躊躇した。

「汚い、臭い、無精ひげ・・・まるで場違いだ。

すぐにつまみ出されるのではないか・・・」

泥だらけの靴に、汗臭いTシャツとハーフパンツのいでたちは、まるでホテルにそぐわない。


しばらく躊躇したが、意を決するとフロントに向かった。

フロントの男性はさわやかな笑顔で迎え入れてくれた。

「健作です。今晩一泊予約をお願いしていたものです。」

「健作さま、はいお待ちしておりました。」

フロントマンは笑みを絶やさず、健作を特上のお客さまとして接客してくれている。


「健作さま、こちらのカードにご記入ください。」

出されたカードに記入し始めると、どこからともなく泰山木の香りがしてきた。
「ディオリッシモ!?・・・」

健作は顔を上げて隣に目をやると、なんとそこには智子がチェックインの手続きを始めたところだった。


「と、智子さん!」

思わず健作の口から声が出ると、智子は健作の方に顔を目を見開いて驚いた。

「あら、健作さん!!

どうしてこちらにいらっしゃるんですか?」

「えっ、智子さんこそどうして・・・?」


二人はチェックインの手続きを終えると、ロビーのソファーに腰掛けた。

「僕は山口で2週間野営生活をした後、明日今治の友人たちのと会うために来たんです。

智子さんはお仕事ですか?」

「私は四国にフライトがあると、お休みをそれにあわせて、四国八十八箇所をめぐっているんです。

今回は仙遊寺にお参りしようと思って、今治にやってきました。」

「あ、あの、先日は熱海にお越しいただきありがとうございました。

また、メールをいただきながら返信もせず、大変失礼しました。」

健作が恐縮して身体をこわばらせながら話すと、智子は優しさ溢れる笑みを浮かべて健作を見つめた。

智子の大きな瞳は、人を、いや健作を惹きつける思議な力を持っている。

「いえいえ、こちらこそ、先日はご連絡もせずに突然伺って、大変失礼しました。」


「智子さん、もしご予定が無ければ、夕食でもご一緒にどうですか?」

健作は、自分の口から飛び出した言葉に驚き、頭の中は真っ白になった。

「私は特に予定はありません。

喜んでご一緒させていただきます。」

「で、では、6時30分にロビーで待ち合わせということで。」


一緒にエレベーターに乗り込むと、智子は14階で、健作は18階で降りると部屋に向かった。

健作の部屋は18階の海側の部屋で、とても広い快適な部屋だった。

この 2週間ちょっと、一方的にアップするばかりなのに、ご訪問いただき、応援のniceやコメントを頂き、胸の熱くなる思いで一杯です。
明日からは、ぼちぼち訪問を再開させていただきます。

昨日は、今治を14時半に出発すると、途中静岡で一息いれて、帰宅したのが日付が変わって午前2時でした。11時間も車を運転していると、様々な思いが頭の中をよぎるものですね。

その中で思いついたお話しを書き上げてみました。前回のつづきでありながら、季節がちょっと逆戻りしてしまったのはご愛嬌(^^)

それでは改めて今後ともよろしくお願いいたします。


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学生街の四季 暗雲と希望 [学生街の四季]

過去の『学生街の四季』については、次のリンクからご覧ください。

 ⇒学生街の四季


健作は、自宅最寄り駅で電車を降りようと席を立った。
歩き始めようと、左足に体重がのった瞬間、左足踵が爆発したかのような激痛が走ると、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。

電車の扉が閉まって、走りはじめたのも気がつかず痛みを堪えていたが、終点に着く頃には痛みも治まりはじめた。

0M38.jpg「今のはなんだったんだ。
先日のMRIの検査では、足首から下の名前も聞いたことの無いような腱が炎症をおこしている・・・っていわれたけど、いったいこの痛みは、なんだったんだろう。」
電車は終着駅で折り返し運転となるため、そのまま座っていることにした。

「これじゃあ、M38の重たいクラッチが踏めないなぁ。
それよりも、今月下旬から2週間野営訓練があるのに、大丈夫かなぁ・・・」
などと考えていると、降車駅に近づいてきた。

健作は恐る恐る立ち上がると、左足に体重を乗せてみた。
ちょっと体重がかかっただけで、ずしんと重たい痛みが走り抜ける。
つり革につかまり、ながら移動すると、開いたドアからなんとか外にでたが、歩くことができない。

ようやくホームのベンチにすり足で移動すると、なんとか座り込んだ。
「中村先生は、湿布と炎症止めの薬で様子を見ようと言っていたけど、これじゃあ松葉杖が必要だな。」
何分くらい座っていただろうか。
ふと気がつくと、昨日までの暑さが少し和らいで、熱気の抜けたさわやかな夜風が、冷や汗をかいた額にあたり心地よい。そして、いつから鳴いていたのだろうか、ホームの脇の草むらからは虫の音が聞こえ始めた。

健作は大きく深呼吸すると、恐る恐る立ち上がった。
相変わらず体重が乗ると痛みが走るが、歩けないほどではない。

なんとか改札を出ると、客待ちしていたタクシーの乗り込んだ。
普通に歩けば10分かからない距離だが、今日は歩ける気がしない。

自宅に着くと、ポケットから鍵を取り出し扉を開け、真っ暗な家の中に入った。
締め切っていた家の中は、外とは打って変わって昼間の熱が篭って蒸し風呂のように暑い。
クーラーをつけると冷蔵庫からビールとチーズを取り出して、パソコンの前に座った。

パソコンの電源を入れると、ビールのブルトップを開けて、一気にのどに流し込んだ。
のどから体中に冷たさと苦味が広がると、ようやく張り詰めていた糸がプツンと音を立てて切れるのがわかった。

55M38.jpgメールを開いて、未開封のメールをスクロールしていくと、ふと見馴れぬアドレスのところで目が止まった。
「ん、誰からだろう・・・ジャンクメールかなぁ・・・」
と思いながらクリックすると・・・

 健作さん
 先日は急に熱海にお邪魔してご迷惑ではなかったでしょうか?
 健作さんの素敵なジープを拝見できただけでなく、潮風の芳しい香りを感じながらドライブできたなんて、感激でした。
 本当に素敵なひと時をありがとうございました。

 とても残念だったことが、一つあります。
 それは、ドライブがわずか十数分で終わってしまったこと。
 今度機会があったら、また乗せてください。
 智子より

健作は、残りのビールをのどに流し込むと、目を閉じた。
走馬灯のように、あの日のことを思い出すと、智子の優しく微笑んでいる顔が浮かんだ。

すると、どこからとも無くディオリッシモの香りがしてきたような気がした。
 

足が痛いのは、フィクションです。
大丈夫、普通に歩けます。
ここのところ、本当に楽しみにしている皆様方のところへの訪問がままならず、申し訳ありません。
せっかくniceやコメントをいただいているのに、お邪魔できていない点、ご容赦ください。


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STARGAZER 銀河の探求者 [学生街の四季]

前回の話を読んでらっしゃらない方は、こちらからお読みいただくと、話がつながります。

 ⇒Take to The Westward Passage !! 

「健作さん、こんにちは。」

9月ももう終わろうとしている最後の土曜日、熱海の長浜海浜公園で行われたクラシックカーのイベントにジープとともにやってきていた健作は、ボンネットを開けてオイルを点検しているところだった。

8M38.jpg「はい・・・」健作はウェスで手を拭きながら振り返ると、微かに見覚えのある女性が立っていた。

「・・・あなたは・・・」しかし、どこで会ったのか思い出せない。

「あの、5月と6月に羽田から山口宇部空港行きの飛行機の中でお会いした智子です。」

「あっ、あのとき瀬戸内海を案内してくださった方ですね!」

「はい。あのときにはメールアドレスいただいて、ご連絡させていただこうかどうしようか、迷ったんですけど・・・今日はフライトの予定が入っていたので、とうとうご連絡しそびれてしまいました。」

「ああ、そうだったんですね。・・・でも今日のフライトは?」

「はい、昨日急に予定が変更になったんです。インターネットでイベントのことを調べたら、健作さんのジープが見たくなって、新幹線で来ちゃいました。
これが健作さんのジープなんですね。」

「ええ、Willys M38 です。1951年製のジープで、朝鮮戦争に行ったものです。
後ろのタイヤには、弾痕も残っているんですよ。」

「へー、すごいんですね。乗ってみたいなぁ~」

「智子さんは、今日はどんなご予定なんですか?
僕は、これから、熱海駅前の銀座通りに移動して展示するんですけど、助手席に乗っていきますか?」

「えっ、ほんとにいいんですか?
私はこれから東京に戻らなければいけないんで、熱海駅の近くまで行けると助かります。」

「じゃあ助手席に乗ってください。そろそろ出発ですから。」

「えっと・・・どうやって・・・」

乗る方法がわからず戸惑っている智子に健作は手を貸すと、「足をここにかけて乗り込んで。」と手伝った。

助手席に落ち着いて、健作が運転席に乗り込むと、智子は健作を見つめた。
キラキラ輝く大きな目は、見つめるものを優しさで包み込んでしまうような、不思議な力のあるまなざしだった。

「へー、とても見晴らしがいい・・・ていうか、周りに何も無いんですね。
フロントウィンドウは立てないんですか?」

智子の不思議な力のある目で見つめられた健作は、心臓の鼓動が一気に倍の早さになるのを感じた。
「う、うん、この方が好きなんです。
風が強くて、色々なものがとばされちゃうから、気をつけてくださいね。」

健作は、大きく深呼吸すると、イグニッションボタンを蹴ってエンジンをかけて車をスタートさせた。

公園を出発すると海沿いの国道を熱海駅へと向かう。
海を渡ってくる潮の香りが心地よく、さわやかなドライブになった。

健作はちらっと智子に目をやると、目を閉じてやや顔を前に出すと、顔を打つ潮風を楽しんでいる。

赤信号で止まると、健作は智子のほうに顔を向けた。

「智子さん、大丈夫ですか?
結構風が強いでしょう。」

「ええ、でもとっても楽しいです。走っている間は、とてもお話しするどころではありませんね。」

わずか十分程度のドライブはすぐに終わってしまい、多くのギャラリーが見守る中、熱海銀座商店街へと乗り入れた。

「健作さん、今日はありがとうございました。
とっても楽しかったです。また乗せてくださいますか?」

「ええ、もちろんですとも。お時間のあるときにご連絡ください。」

「ありがとうございました。それじゃぁ、後ほどメール入れさせていただきますね。」

智子は、一陣の旋風のように現れると、あっという間に過ぎ去っていってしまった。
智子が去っていくと、どこからともなくあの懐かしい香り・・・そうディオリッシモの香りが漂ってきた。


ここのところ、ほとんど皆様方のところにお邪魔できていません。
ジャンボリーも最後の追い込みに入り、今日も記事を書くどころではなくなってしまったので、またまた間に合わせに、思いついたストーリーを書きなぐってしまいました。・・・推敲もしていないので荒い文章ですが・・・いつものことか(^^;

・・・ん、これはリアルの出来事!?

今年も9月28日土曜日に熱海の長浜海浜公園で『熱海HISTORICA G.P』が開催されます。
長浜海浜公園は、11時から15時まで。
その後昨年同様熱海銀座商店街に場所を移して、15時から16時30分まで道路を通行止めにして展示されます。

東京からはちょっと遠いですが、よろしかったら智子さんのように見に来てください。
もちろん、M38君も参加します。


タグ:Stargazer
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2013-07-06 [学生街の四季]

椅子に座って仕事をしていると、突然左足の甲に激痛が走った。まるで千枚通しで突き刺されたような鋭い痛みに思わず歯を食いしばると同時に「うっ」と声が漏れた。 
しばらく我慢していると、痛みはだんだんフェイドアウトしていく。

健作にとっては数分間続いたように感じた痛みも実際には数十秒程度のものだっただろう。
「えっ、今のはいったいなんだったんだろう・・・」痛みが消え去ると、まるで夢でも見たかのような感じだった。 

翌日、仕事をしていると、またその痛みは突然やってきた。
思わず顔をしかめて、痛みを我慢すると、すぐに収まった。

数日間すぎると、激痛が起こる間合いはだんだん短くなり、数時間に一度は何の前触れもなく「それ」はやってくる。

やがて、痛みの無い間も正座した後の痺れのような感触が残るようになった。 

 

風呂に入っているときに「それ」がやってくると、なんと痛い部分に直径5mmほどの内出血の痕のようなものを発見した。

26 JK.jpg

翌日、仕事の合間に職場の整形外科を訪れると、診察をした中村医師は頭を抱えた。
「健作さん、このような特異な症状は、今まで見たことも聞いたこともない。考えられる原因の一つとしては、『腫瘍』があげられるが、通常このような場所には出来ない。
まずはMRIを撮ってみよう。原因がわからないので、考えられる処置はすべてやってみることにする。
腫瘍に即効性のある薬と湿布薬、それから痛み止めをだしておこう。」

医局に寄ってMRIの予約を取ると、自分の職場に戻った。現金なもので、MRIを撮るとなると、「それ」はまったくなりを潜めてしまった。
いったいどうしたことだろう。「それ」はあたかも意思をもった生命体で、健作の身体に悪戯しているようである。

MRIの予約を取ってから半日、「それ」は気配さえみせない。

 


タグ:痛み
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ショートストーリー色々 [学生街の四季]

先日は、⇒Take to The Westward Passage !! で健作のショートストーリーを書きましたが、これはまったく学生街の四季の本編とはつながりません。

単に山口からの帰りの飛行機の中で、話題のB787に乗ったことを、思いつくまま物語風に書いたものです。単に写真をアップして、「B787に乗ったよ」というのでは面白くないかなぁ・・・なんて思って書いたものです。 

 一昨日は、⇒泰山木・・・回顧 と題してまたまた健作のショートストーリーを書きましたが、これも泰山木について、単に写真をアップして、「いい香りだよ」と書くよりも、パソコンでは伝わらない香りをより印象的に伝えるにはこのほうがいいかなぁと思って、思いついたストーリーを書きなぐったものです。

ですから、この話も学生街の四季本編とは何のつながりもありません。
改めて読み返してみると、あまりにも端折り過ぎたようですね。色々コメントいただきましたが、このショートストーリーを仕上げるとすれば、

 1.健作と陳淑雲の馴れ初め
 2.健作の帰国後の典子さんを絡めた行動

を書き込まなければ、面白くないですね。
・・・ちょっとした短編小説になってしまいそう。
でもこれはこれで面白いかな。

鯉魚門の様子も、潮の香りと漁港の魚の匂いが漂ってくるような描写を書き込めばよかったですね。
時間がなく、かなり急いで書きなぐってしまったのはちょっと反省です。

でも、香港の雰囲気は出ていたのではないかな!?
 

14 JK.jpg

 

今までに数回番外編のような「健作」のショートストーリーを書いていますが、これは、本編とはまったく関係ありません。

単に思いついたストーリーを登場人物に「健作」、「典子」と名づけて書いているだけです。

いくつか書いた中で、私の一番のお気に入りは次のリンクのものです。


駅員3の妄想


これは、那覇の雰囲気がよくでているかなぁ・・・なんて自画自賛しています。


ここの所忙しくて、「学生街の四季」をまったく更新できていないため、「何のこと!?」と思われる方もいらっしゃることと思います。
もし、興味をもたれた方がいらっしゃれば、こちらをご覧ください。
 

 学生街の四季

学生街の四季は「夏」章でストップしてしまっていますが、これがやがて「秋」となり、厳しい「冬」を経て、大円団の「春」を迎えます。


今しばらくは書く余裕が無いので、たまにショートストーリーでお茶を濁すことと思いますが、引き続きお付き合いください。

 


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泰山木・・・回顧 [学生街の四季]

21タイサンボク.jpg健作は、都心から電車に乗ると90分くらいはかかる郊外の自然豊かな里山の中をJeepで走っていた。
向かっていたのは、母親が眠っている霊園だ。

屋根もドアもないJeepは、周りの自然と一体となって走る。
梅雨時とは思えない青空が広がり、森を渡る風は爽やかな香りを運んでくる。

霊園の入り口へと右折して山の中に入っていくと、何か懐かしい香りがしてきた。
遠い昔の記憶をくすぐるような香りだ。

緩やかなカーブを抜けた先には、直径20cmはあろうかと思われる大きな白い花が咲いている木を見つけた。

「えっ、こんなところにこんな大きな花が咲いていただろうか?」
健作は思わずJeepを路肩に寄せて停めると、過去の記憶と白い見事な花をオーバーラップさせていた。

「そうかぁ、この季節にお墓参りに来るのは初めてだから、今までこの花に気がつかなかったんだぁ。」
柑橘系のようなとても爽やかな香りは、この花から漂ってくるものだった。

健作は目を閉じると、遠い昔に思いを馳せた。


2.jpg中部ジャワ島のジャングルでの野営生活を終えてジャカルタに戻ると、同行したインドネシア大学の友人たちと別れを告げて、ガルーダインドネシア航空の香港行きに飛び乗った。

健作は目を閉じると、気がついたときにはもう啓徳空港への着陸態勢に入っている。
飛行機は山間からビルを掠めるように着陸すると、健作はバスで九龍へ向かった。

宿は決めていなかったが、すぐに一泊70HK$のゲストハウスが見つかった。
荷物を放り出してベッドに横になると、あっという間に深い眠りにつく。

ベッドより一回り大きい空間しかない部屋には、窓も無ければ、バスルームも無い。
しかし、安宿の硬いベッドも、ジャングルの中で虫にさされながら地面の上に敷いたマットに横になることに比べたら、天国だ。

蒸し暑さに目が覚めると、朝になっていた。
再び文明の世界に戻ってくると、無性に日本が恋しくなってきて、和食が食べたくなった。
しかし財布の中をのぞくと数千円しか残っていない。

共同のシャワールームに入って蛇口を回すと水しか出てこなかったが、ほてった身体にはそれも心地よく、汗と垢を流して身支度を整えると、外に飛び出した。

早朝なのに、もうぎらぎら照りつける太陽にムッとする空気がシャワーを浴びたばかりの身体にまとわりつく。
朝の喧騒の中を2ブロック先にある日系のホテルへと向かった。

ホテルのロビーに入ると、ひんやり空調の効いた空気が心地よく、汗がすーっと引いていく。
日本円で500円を払ってレストランに入ると、和朝食のバイキングに飛びついた。

塩鮭、納豆、ワカメと豆腐の味噌汁、そしてジャポニカ米のご飯。
数ヶ月ぶりに食べる和食は、「日本人に生まれて、本当に良かった。」と思わせてくれるには十分なものだった。

香港1.jpgおなか一杯になると、2階建ての路面電車とバスを乗り継いで香港中文大学へと向かった。

郭教授の研究室の扉をノックして開けると、そこには教授とシンガポールからの留学生の陳淑雲がいた。

陳は、モデルかと思わせるような才女で、健作とは彼女が高校生のときからの知り合いだ。

中部ジャワ島のジャングルの中での様子を一通り教授に報告すると、もう夕方に近くになっていた。

「健作君、お疲れ様だったね。
どうだい、久しぶりに旨いものでも食べに行こう。陳君も一緒にどうかね?」
「はい先生、ご一緒させていただきます。」
「それじゃあ決まりだ。健作君は、ジャングルの中での野営生活で苦労をかけたから、今日は海鮮にしよう。」

3.jpg大学の前でタクシーを拾うと、郭教授は「鯉魚門(レイユームン)」と告げた。
港に隣接する魚市場で、色々な魚介類を仕入れると、とある扉をくぐった。

郭教授の行きつけの店なのだろうか、中から出てきた店のマスターに食材を渡すと、色々と指示をしていた。

出てきた料理は、いずれもすばらしく、あっという間に片付いていく。

「健作君、君はこれからどうするんだね。」
「はい、明日日本に戻りますが、すぐにワシントンに立ちます。
色々迷ったのですが、制服を着ることにしました。」8 制服.jpg
「そうか、それもまた人生。がんばってくれたまえ。」

翌日空港に行って搭乗手続きをするためにキャセイパシフィックのカウンターに向かうと、なんと陳叔雲が見送りに来ていた。

「典子さんにお土産かったの!?」
「えっ、いや、買ってないよ。」
「ダメじゃない! こっちにいらっしゃい。」

陳淑雲は、健作の手を引っ張るとデューティーフリーショップへと向かった。
「そうねぇ、典子さんだったら、この爽やかな香りがぴったりかもしれないな。
これにしなさい!!」

陳淑雲が選んだのは、クリスチャンディオールのディオリッシモだった。
健作の手に押し付けると、健作は受け取ろうとしない。
「いいんだよ。もう・・・」
「ダメよほら、早くレジに行かないと飛行機に乗り遅れるわよ!」

健作は値段をみると、成田から自宅まで帰るくらいのお金は残りそうだ。
陳淑雲に押し切られる格好で、レジに行って精算すると、陳淑雲は微笑んでいた。

シンガポール1.jpg「健作さん、自分に素直になるのよ。自分の気持ちを偽ったら、20年、30年経ってから必ず後悔するからね。」
「あ、ああ・・・わかった・・・」
「ほら、健作さん、元気だして!
健作さんらしくないわよ。」

健作がボーディングブリッジに消えていくと、見送っていた陳淑雲の目には涙が光っていた。


「おにいさんどうしたの?
この花良い香りでしょう。『泰山木』っていうのよ。
この爽やかな香り、私大好きなんだ。
そうだ、よかったらもってくかい?」

それは霊園近くで農作業をしていた地元のおかあさんだった。
持っていた鍬で枝を切り取ると、顔の大きさはあろうかと思われる大きな花を差し出した。

健作は花を受け取ると、そう、まさにこの泰山木の香りは遠い記憶の中からよみがえってきたディオリッシモの香りだった。

ぼちぼち訪問をさせていただいておりますが、とても追いつきません。
なにせ日曜日を一日使ってしまったため、ジャンボリーの準備に火がついています。

泰山木・・・まるで中国生まれのような名前ですが、中南米原産で明治初期に日本にやってきたお花です。

22タイサンボク.jpg

いかがですか、JK君のヘッドライトより大きいでしょう。
帰りの車の中は、とても爽やかな、そして僕にとっては甘く切ない、ディオリッシモの香りに包まれていました。

あっ、勝手に花を捥いだのではなく、最後に書いたように農家の方にいただいたものです(^^)

香港の写真は、昔撮ったものなので、やや変色していますね。港の写真は、夕闇迫る鯉魚門です。

続きは、以下のリンクからご覧ください。

⇒学生街の四季 シンガポール編1

⇒学生街の四季 シンガポール編2
⇒学生街の四季 シンガポール編3

⇒学生街の四季 シンガポール編4 


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Take to The Westward Passage !!  ・・・修正 [学生街の四季]

【修正】制服の写真が見られないようでしたので、修正しました。

 

8 制服.jpg「健作さま、本日もご登場頂きましてありがとうございます。」

健作はボーディングブリッジを進んで、機内に入ると、乗客の迎え入れをしていたチーフパーサーから声をかけられた。

「あっ、貴女は先日のフライトの時の・・・」
「はい、先日もご搭乗頂きましてありがとうございました。
本日は、先日おめしになってらっしゃった制服と違いますが、今回もお仕事でらっしゃいますか?」
「ええ、今回も仕事・・・というか、奉仕というか・・・」

「本日のフライトも、瀬戸内海が綺麗にご覧になられると良いですね。
短い時間ではありますが、空の旅をお楽しみください。」

「ありがとう。」

声をかけてきたのは、先日も搭乗した羽田・宇部山口便で、瀬戸内海を色々説明してくれたチーフパーサーだった。

健作は、機内の通路を後の方に進むと、左翼やや後方の窓側の席に座った。

定刻通り羽田を離陸すると、機体は西へと進路を取る。

ベルト着用のサインが消えると、ほどなくして健作の席にチーフパーサーがやってきた。

「おしぼりをどうぞ。」
チーフパーサーは、温められたおしぼりを差し出すと続けた。
「今日は残念ながら、雲がかかっていて瀬戸内海の島々は観られないかもしれませんね。」

「ええ、楽しみにしてきたんですけど。
(ん・・・、エコノミーにおしぼりのサービスなんかあったかなぁ!?)」
機内は比較的空いていたせいか、健作の前後や右手に、他の乗客の姿は見当たらなかった。

チーフパーサーが立ち去り、機内サービスが始まると、健作はホットコーヒーを頼み、鞄から書類を取り出してコーヒーを飲みながら、今日の会議での検討事項を検証し始めた。

しばらくして窓の外を見ると、翼の直ぐ下にはまるで手を伸ばせばすくえるのではないかと思うほどの近さに、雲海が広がっている。

4 虹.jpg

ふと気がつくと、窓にプリズムを通して見たような七色の光が写っている。
「何かの光が反射してるのかなぁ。

3 虹.jpg

・・・えっ、あれはひょっとして虹!?」

よく見ると、それは雲海の彼方に虹が出ているのだった。

そこに再びチーフパーサーがやってくると、健作に話しかけてきた。
「やはり瀬戸内海は見ることが出来ませんでしたね。」
「ええ、でもとっても素敵なものが見られますよ!」
健作はチーフパーサーに窓の外を見るように促すと、健作の顔のすぐ傍に顔を近づけて窓の外を覗き込んだ。

思いもかけない急な接近に、健作は思わず頭をヘッドレストに押し付けて息を飲んだ。

5 虹.jpg「わぁっ、珍しい!」
と声をあげると、チーフパーサーは健作に顔を向けた。
チーフパーサーも、思いがけない近さに健作の顔があることに驚いて、身体を引き起こした。
「あっ、大変失礼いたしました。何分こんな貴重な景色を見られるのは、めったに無いことですので。」

健作は、ちょっと顔を赤らめると、忘れていた息を、フーッと吐き出した。
「あっ、いや、こちらこそ。
こんな素敵な景色が見られて、ラッキーです。」

二人は顔を見合わせると、どちらからともなく微笑んだ。

健作は、早鐘を打つように高まった鼓動が落ち着いてくると、再び口を開いた。
「7月には、このルートをJEEPで走る予定なんです。」
「えっ、JEEPにお乗りなんですか!?
私JEEPが大好きなんです。」
「女性の方がJEEPが好きだなんて、珍しいですね!」
「ええ、JEEPが好きだと言うと、よくそう言われます。
健作さまは、JEEPの何処がお好き何ですか?」
「えっ、何処が好きかと言われても・・・」
「そう、そうなんです。JEEPが好きなことに、理屈なんか要らないんです!」
「ははは、確かにおっしゃる通りですね。
あの・・・」
健作は一瞬躊躇したが、意を決すると続けた。

「9月の終わりに熱海でクラシックカーのイベントがあるんです。
そのイベントに僕のJEEPを出すんですが、よろしかったら見に来ませんか?」

「えっ、クラシックカーのイベントに出されるって、いったいどんなJEEPをお持ち何ですか!?
仕事の都合がつけば、是非とも見に行きたいと思います。」

「それじゃあイベントの詳細は、あとでご連絡しますので、一度このアドレスにメールしてください。」
健作はそう言うと搭乗券の余白にアドレスを書いて、チーフパーサーに渡した。

チーフパーサーは紙片を受け取ると、会釈して立ち去った。

やがて飛行機が山口宇部空港に到着して席を立つと、出口にチーフパーサーの姿は見当たらなかった。

7夕焼け.jpg


制服は昔テーラーメイドで作ったもので、久しぶりに袖を通したら、大変なことになっていました。
15kgは減量しなければ!・・・・ええっ、なんちゃって(^^;???

虹の写真は、宇部山口空港から羽田に向かう便の中で、この記事を書いていて見かけた写真です。
文章は、推敲も見直しもしていませんが、時間がないので、このままアップさせていただきます(^^;


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学生街の四季 第2章《夏》 20 黄昏 [学生街の四季]

 

学生街の四季の過去のリンクは、次のページからご覧ください。
⇒第1章1~22のリンクページ

⇒学生街の四季 第2章《夏》 1 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 2
⇒学生街の四季 第2章《夏》 3 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 4
⇒学生街の四季 第2章《夏》 5 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 6
⇒学生街の四季 第2章《夏》 7 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 8
⇒学生街の四季 第2章《夏》 9 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 10
⇒学生街の四季 第2章《夏》 11 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 12

⇒学生街の四季 第2章《夏》 13 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 14
⇒学生街の四季 第2章《夏》 15 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 16
⇒学生街の四季 第2章《夏》 17 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 18
 
⇒学生街の四季 第2章《夏》 19

健作は、受話器をそっと置くとほっと大きく息を吐き出した。
ゆっくり振り返ると、3対の瞳が射るような視線を放っている。

ピンと張った糸のような静寂を破ったのは、典子だった。
「電話は誰からだったの?」
「あ、ああ、シーメンズクラブってなに?」
「Seamen’s Club NAHA って、以前はアメリカ海兵隊の将校クラブだったのよ。
1945年、奥武山公園入り口に海兵隊のレストランとして開業したの。
米軍施設だから基地と同じで、日本人は米軍関係者のゲストとして同伴じゃないと入れなかったのよ。
確か平成7年に日本に返還されると、空港近くのフリートレードゾーンの隣で会員制レストランとして新たにスタートしたんじゃなかったかしら。
そんな歴史があるから、今でも米軍関係者の利用が多く、観光客がぶらっと行って入れるところではないわ。」 

「ふ~ん、 今の電話はそのSeamen's Club の支配人からだよ。
われわれに出演して欲しいって。」
「へ~それってすごいじゃない。今までの観光客向けと違って、耳の肥えた人たちが来るわよ。」

「そっかぁ・・・明日電話かけてきた支配人が打ち合わせに来るそうだ。」
「わぉ、おっお、俺、そ、そんなすごいところで本場のステーキたべてみ、み、みたいい。」
修は、興奮してろれつが回らず変なしゃべり方をしたために、笑いの渦が爆発した。

笑いの渦が収まるのをまって智子が口を開いた。
「ねぇノリちゃん、Seamen's Club に出演するのが、そんなにすごいことなの?」
「そうねぇ、いらっしゃるお客様は外国人が多いから、音楽も『ホンモノ』じゃないと通用しないんじゃないかしら。」
「なんと、俺今からドラムスたたくの楽しみだな。」

翌日一同が宿泊していた外人住宅に、アメリカ人支配人と日本人スタッフがやってきた。
話はトントン拍子に進み、来週から週二日、バーでジャズを演奏することになった。
健作と典子は下見を兼ねて、そのまま支配人たちについてSeamen's Club へと向かった。

Seamen's Club に着くと、大柄で立派な体格をした支配人を先頭に健作と典子が扉をくぐると、バーラウンジへと向かった。

分厚い扉を開けて薄暗い空間に入っていくと、そこは落ち着いた雰囲気で、ゆっくり寛ぐことの出来る空間が広がっていた。
「健作君、ここでなにを演奏するかは、君たちにお任せするよ。」
支配人は健作の肩に大きな手を置いた。
「ありがとうございます。単調にならないように変化をつけた選曲にしたいと思います。」
健作がそう答えると、がっちり握手を交わした。
「今からどんなステージになるか楽しみだよ。」と支配人は言って微笑んだ。

支配人に暇を告げて建物の外に出ると、陽は大きく西に傾いて色づき始めている。
「ねぇ健作さん、今日は綺麗な夕日が見られるみたい。
ちょっと寄り道して行きません?」
「ああ、いいよ。東シナ海に沈む綺麗な夕焼けでも観て帰ろうか。」

『Souht Pacific Diving Field』と書かれたワンボックスカーに二人は乗り込むと、健作がハンドルを握り国道58号を宜野湾に向けて走り始めた。
AFN(American Forces Network・・・米軍放送網)にあわせてあるラジオからは、ケニーGが演奏するソプラノサックスのすばらしい音色が流れていた。
健作は、その曲に合わせてメロディーを口ずさんでいる。
典子はどこを見るとはなしに、流れさる風景を見ていた。

牧港を過ぎたところで典子は左に曲がるように指示すると、国道58号のバイパスに入って、宜野湾海浜公園の駐車場へと導いた。
駐車場に車を止めると、すぐ前には真っ白な珊瑚砂の宜野湾トロピカルビーチが広がっている。
このビーチは、コンベンションセンターを中心に、公園が整備されたときに造られた人口の渚だ。

車を降りると、二人は並んで砂浜へと向かった。
二人の手が触れると、どちらともなく手をつないで歩いていた。

急に眼前が開けると、東シナ海の水平線にまさに大きな太陽が沈もうとしていた。
「うわぁー、綺麗な夕日だ!!」
健作はそう叫んで波打ち際に向かって駆け出すと、典子がその後をつづく。
典子は、息を切らせながら波打ち際の健作に追いつくと、両手で健作の背中を「ドン」と突いた。

バランスをくずした健作は、倒れまいとして典子にしがみつくと、二人はその場に崩れ落ちた。
永遠とも見紛うばかりの真っ白な時間が過ぎ去って、二人は目を開けると、顔と顔を突き合わせている。

健作は、典子に「大丈夫!?」とささやくと、典子は「ええ」と微笑んだ。
二人には、波が寄せては砕けて引いていく、心地よい音しか聞こえない。
すべてが茜色のベールに覆われると、健作はそっと典子の唇に自分の唇を重ねた。

二人は、この瞬間が永遠に続くことを願わずにはいられなかった。

 

前回書いたのが1月12日ですから、もう2ヶ月も書かずじまいでした。
12日に続き13日も飲み会だったのですが、帰宅して書き始めると、一気にここまで書いてしまいました。
ただ、軽く読み直しただけで推敲していないので、変なところがあればお許しください。

また、私の知っているシーメンズクラブは、返還前の施設です。
現在新たにスタートしたシーメンズクラブは、私の想像の賜物であり、現実のものとは全く異なる点、ご理解ください。

今少しづつ今まで書いたものを推敲しながらちゃんと読めるものにまとめつつあります。

話は変わりますが、3月23日土曜日から西武園遊園地で恒例の春のイルミネーション『創造を絶するイルミ』というイベントの初日になります。

今回、その会期初日を盛り上げるためにクラシックカー展示のオファーが、私の所属するオートモービルクラブジャパンにありました。
急な話だったので、何台集まるかわかりませんが、私も参加することになりました。
お時間のある方は、ぜひ西武園遊園地で開かれる『創造を絶するイルミ』にお越しください。


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学生街の四季 第2章《夏》 19 変化 [学生街の四季]

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健作達の始めた島唄とJazzの融合は、口コミで評判となった。
やがてその評判が地元ローカルテレビ局の耳に入って地元番組で放送されると、健作たちのバンドが出演するリゾートホテルのプールサイドのオープンカフェは、観光客のみならず地元ウチナンチュで賑わうようになった。

健作達4人は、宿にしている宜野湾の外人住宅のリビングでテーブルを囲んで寛いでいた。
テーブルの上には、オリオンビールの缶にポテトチップスなどの肴が並んでいる。

「最近オープンカフェは満員ね。」
智子はそういうと、机の上のポテトチップスをつまんだ。

典子は飲んでいたオリオンを机の上に置いた。
「そうね、今日なんかライブ直前に入り口をみると、入りきれないお客さんが並んで順番待っていたようよ。」

「最近お客さんはしっかり耳を傾けてくれて、演奏していて・・・」
健作が話し始めると、壁際においてあるサイドボードの上の電話が突然鳴りしだした。

一番近くにいた修は立ち上がると、受話器を取った。
「もしもし・・・」
「・・・ ・・・・ ・・・・・・」
「うっ、うっ、うえいと!! プリーズ ウエイト!!  お、お、俺、英語ダメなんだ!!」
修は、電話を健作に押し付けると、智子の後ろに小走りで逃げ去った。

健作は一瞬受話器をみつめると、やがて意を決したように耳に当てた。
「Hellow・・・」
「・・・ ・・・・・・」
「Yes ・・・・」
「・・・・・・ ・・・・」


「ねーねー、修君、誰からなの?」
智子は立ち上がって振り返ると、声をひそめて修に聞いた。
典子も音を立てないように智子と修の脇にやってきた。
「し、し、知らないよ。俺、自慢じゃないけど英語アレルギーなんだ!!」


「・・・ ・・・・・ ・・・・」
「Ok,See you tomorrow.」
健作は電話を切った。

3人は、興味津々な顔をして健作を覗き込んだが、健作はそれを無視してテーブルの前に座ると、飲みかけのオリオンを手に取り、ぐっと飲み干した。

 

今日は、ベリーショートで終わってしまいました。
もう少し書こうかとも思ったのですが、時間と区切りのいいところで、今日はここまでです。
さて、いったい誰から電話がかかってきたのか・・・

乞うご期待(^_-)☆!!


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学生街の四季 第2章《夏》 18 調和 [学生街の四季]

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⇒学生街の四季 第2章《夏》 17

今日もプールサイドのオープンカフェのステージで演奏していた。
客席を見渡すと、空席が目立つ。

バンドは数曲スタンダードナンバーを演奏したが、反応はいつもの通りBGMの域を出なかった。
健作は曲が終わるとセンターマイクの前に出て行った。

「皆さん、こんばんは。沖縄でのバカンスを楽しんでますか?」
テーブルについている人々は、食事や仲間との語らいに忙しく、健作の呼びかけに反応するものはいなかった。

健作は、ステージの袖に合図をすると、典子が三線を持ってステージに上がると健作の脇に立った。
健作はマイクを握る手にグッと力を入れると、話し始めた。

「さて、ここ沖縄では中国でもない、大和でもない、独自の文化が育ちました。
中でも音楽は、琉球音階といって西洋の音楽の7音階から「レ」と「ラ」を取った5音階で構成されます。」

典子は、三線で5音階を奏でた。

「これが琉球音階です。そして、これにちょっとリズムを付けると島唄になります。」

典子が三線を弾き始めると、修がリズムを刻んだ。
そこに健作がサックスで5音階を抑揚をつけて奏でた。

客席に座っている人々のざわめきは低くなり、健作たちに耳を傾けるものが出始めた。

「いかがでしょうか、非常にシンプルで美しい音楽になりますね。」
健作はマイクを握る手を降ろすと、海を渡るさわやかな風が優しくステージ上の健作達のほほを撫でていった。

「音楽は、「音」を「楽しむ」と書きますが、Jazzはまさにそんな音を楽しむものです。
そのときの気分、雰囲気で主旋律を自由に表現していく即興演奏が、Jazzの真髄ともいうべきものです。
このJazzと沖縄の島唄が出会ったらどんなふうになるのでしょうか?」

いつの間にか客席の人々は、健作の話に聞き入っていた。

「そのJazzと島唄の融合、お聞かせしましょう。
島唄のスタンダードナンバーである『六調』にどんなJazzのスタンダードナンバーが融合していくのか、お聞きください。

典子が三線を構えると、合いの手を入れながら弾き始めると、修のドラムスがリズムを刻み、ベースが被っていった。
プールサイドのすみでは地元スタッフがカチャーシーを踊っている者もいる。

健作は、六調がワンフレーズ終わるのを待って、アルトサックスを吹き始めた。
健作が演奏し始めたのは、Take Five だった。

演奏が終わると、客席は一瞬水を打ったような静けさが訪れたが、間をおかずに割れんばかりの拍手の音に変わった。

ロビーのスタッフも手を休めて拍手している。
拍手の音は、いつしか客席の人々の心を一つにまとめて、「アンコール! アンコール!」という連呼に変わっていった。

健作は、センターマイクに歩み寄ると、マイクを手に取った。

「皆さん、ありがとう。それじゃあ沖縄出身の多くの歌手がカバーしている喜納昌吉の『花』をお届けしましょう。」

健作がアルトサックスのソロで花は始まった。
むせび泣くような情緒豊かなサックスの音色が宵闇に包まれたプールサイドに響き渡ると、客席の人々は聴き入った。

ドラムスが重なり、三線が重なり次々に音が重なっていくと、いつしか客席の人々も口ずさんでいた。
ステージと客席が一体となった瞬間だった。

演奏が終わって、挨拶をすると健作達がステージを降りても、しばらく拍手は鳴り止まなかった。


前回と同じYouTubeをアップしてしまいました。
今日も帰宅してお風呂に入ると日付が変わっていました。
もうちょっと先まで下書きはあるのですが、今日はここら辺にしたいと思います。

 


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学生街の四季 第2章《夏》 17 琉球音階 [学生街の四季]

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「ノリちゃん、沖縄の音楽って音階が独特だね・・・」
健作は、どこか遠くを見つめるようにつぶやいた。

「ええ、琉球音階は、南西諸島から奄美群島まで昔から伝わる琉球の伝統的な音階です。
西洋の音楽は七音階ですが、琉球音階は七音階から『レ』と『ラ』を抜いた五音階です。
最近、沖縄の音楽を『島唄』と呼ぶことがありますが、本来の『島唄』は、奄美群島に伝わる民謡のことをいうんですよ。」

「ノリちゃんありがとう。『島唄』が奄美の民謡をさすなんて知らなかったなぁ。」
健作は振り返った。
「渡邊先生、中村先生、琉球音楽を、ジャズに取り入れて演奏したら、面白くないですか?
ちょっとやってみましょう。」

アルトサックスを取り出してマウスピースを付けると典子に近寄った。
「ノリちゃん、この前みかけた盆踊りでみんなが踊ってた陽気な音楽・・・なんだっけ・・・阿波踊りのような・・・」

「踊りは『カチャーシー』ですね。あの時みんながカチャーシー踊ってたのは『六調』だったかな!?」
典子は三線を奏でた。

「そうそう、それ。それを最初からずっと弾いてくれるかな。
俺が途中でサックス吹くけど気にせず最後までね。」

曲が始まると、修は箸で空き缶やコップをたたいて軽妙なリズムを奏ではじめた。

典子の六調がワンフレーズ流れたところで、健作は『Take Five』をかぶせて演奏を始めた。

聴衆となった智子、渡邊先生、中村先生はあっけに取られたように口をぽかんと開けて聞き入っていた。

演奏が終わると、健作は典子に向かってにやっと笑った。
「ノリちゃんの三線上手だね。
しっかり僕に合わせてくれてたのが、よくわかったよ。」

「先生、どうでしたか?」
健作は、渡邊先生と中村先生にの方を振り返った。

「いやー、すばらしい演奏だったね、感動したよ。」
渡邊先生は、健作の右手を両手でしっかり包み込んで握手した。

中村先生はにこやかに微笑えみながら口を開いた。
「典子君の三線もすばらしかったね。」

 

最近YouTubeを聞きながら作業していると、ブルーバックエラーが出てしまいます。

今日もこの学生街の四季を書いている途中で、ぶっ飛んでしまいました。
途中まで保存していたところは助かったのですが、時間もなく今日はこんなところでちょっと尻切れトンボになってしまいました。

続きはまた後日・・・お楽しみに[わーい(嬉しい顔)][手(パー)]


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学生街の四季 第2章《夏》 16 三線(サンシン) [学生街の四季]

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⇒学生街の四季 第2章《夏》 13 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 14
⇒学生街の四季 第2章《夏》 15

ステージが終わって楽屋を出ると、典子の父親が経営しているダイビングショップのワゴン車に乗り込んだ。
「渡邊先生と私も、今日から一週間お邪魔させてもらうよ。」
といいながら、渡邊先生と中村先生も乗り込んできた。

典子が運転してホテルの駐車場を出ると、一路宜野湾の宿にしている外人住宅へと向かった。

健作は、深々とシートに身を沈めると押し黙ったままで、カーラジオからは琉球民謡が流れている。

途中のスーパーでオリオンビール、泡盛、惣菜を買い揃えて帰宅した。

リビングの真ん中に置かれた四角いテーブルを囲むように絨毯の上に座ると、オリオンのプルトップを開けて乾杯した。

「ハナハナハナハナ~!」

テーブルの上には、海ブドウ、ミミガー、ジーマーミー豆腐、スーチカー、ヒラヤーチーが並んでいる。

「ノリちゃん、さっきガスレンジで焙ってたけど、これ何?」
智子は箸をのばして、皿の上の肉を取り上げると、恐る恐る口に運んだ。
「え~、これ美味しい!」

「トモちゃん、スーチカーね。これ、豚肉の塩漬けよ。
『スーチカー』の『スー』はお塩のこと。『チカー』は漬けるって言う意味かな。
豚ばら肉のブロックを島マース・・・沖縄で取れたミネラルタップのお塩に漬け込んで作るの。
ソーキソバにのせたり、チャンプルーに入れたり、このように焙って食べるのよ。
泡盛と相性は抜群!」

「どれどれ、私もいただいてみましょう。」
渡邊先生も手を伸ばして一切れ口に運んだ。
「おー、これはこれは! 豚肉の旨味が口の中から溢れそうだ。沖縄料理は、奥が深いねぇ。」

修はヒラヤーチーを手で一切れ取ると口に運んだ。
「えっ、なんだこれ、ピザかと思ったらお好み焼きみたいな味だね! これもなかなかいけるよ!」

「『ヒラ』は平らなという意味で、『ヤーチー』は焼いたっていうことです。
沖縄風お好み焼きって感じかな。食事っていうよりも、おやつで食べたりします。」

渡邊先生と中村先生を囲んで話は盛り上がっていったが、健作は心ここにあらず・・・という感じで、話には参加してこなかった。

「典子さん、あそこにおいてあるのはサンシンですか?」
中村先生は、立ち上がるとサイドボードの上においてあった布の包みを取り上げた。

「はい、私のサンシンです。」
「ほー、何か弾いていただけないかな?」

中村先生は、サンシンの包みを典子に渡した。

典子はサンシンを布の袋から出すと、調子を合わせた。
「それじゃあ、安里屋ユンタでもいきましょうか。」

典子がサンシンを奏で始めると、今までうつむいていた健作は突然顔をあげて、典子のサンシンを食い入るように見つめている。

演奏が終わると、健作は突然立ち上がった。
「これだっ!」

みんなは唖然として、健作の顔を見上げた。

 

もう『冬』を迎えて、もうすぐ新年を迎えようとしているのに、依然とこのお話は『夏』のままです。
ストーリーのエンディング・・・冬から春は見えているのですが、秋の展開がいまひとつイメージできずに、夏で引っ張っています。

細かく書き込みすぎているのは十分にわかっているのですが、沖縄のこととなると、どうしても力が入ってしまいます。

まぁ、僕の小説なんだから、僕の好きなように書けばいいのかな?
『夏』の章に今しばらくお付き合いいただけると幸いです。

Youtubeは、お気づきの方も多いことと思いますが、桑江知子さんです。
久しぶりに見た桑江さんの姿に、思わずこれをアップしてしまいました。


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学生街の四季 第2章《夏》 15 [学生街の四季]

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午後7時を過ぎて真っ赤な太陽が地平線に沈むと、朱から群青色までの見事なグラデーションが刻一刻と変化していく様に、プールサイドで食事やお酒を楽しんでいる人たちは、うっとりと眺めていた。

健作たちは、たそがれていく東シナ海をバックに、プールサイドのオープンカフェのステージで演奏していた。
10人程度の Big Band で、健作と修以外はみなプロのミュージシャンだった。

The Shadow of your Smile・・・健作のむせび泣くようなソプラノサックスは、迫りくる夕闇に溶け込んでいくように、人々の耳のしみこんでいった。

小一時間ほど演奏して、今日の最終ステージが終わって楽屋に引き上げると、典子と智子は、中村先生、渡邊先生とテーブルを囲んで話し込んでいた。

「やぁ、健作君、修君、お疲れ様でしたね。」
中村先生が右手を差し出すと、健作も右手を出して握手をした。

「健作君のThe Shadow of your Smile は素晴らしかったね。
かげりゆく夕焼けにぴったりで、まさにこの時のために作られた曲じゃないか・・・っていう感じだったよ。」
渡邊先生もそういうと健作と握手した。

「中村先生、渡邊先生、ありがとうございます。」
健作はパイプ椅子を引き出して座った。
「あれ、俺の座るとこ無いじゃん!!」
修は、壁際に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて、みんなの輪に加わった。

健作は疲れたのか、肩を落として、深々と座るとため息をついた。
「健作さん、お疲れですか?」心配そうに典子が健作の顔を覗き込んだ。

健作は、ちょっと躊躇したようなそぶりを見せてから、ポツリポツリと話し始めた。
「先生、僕はそんなに悪い演奏しているとは思わないんですが、どうもお客さんの反応がしっくり来ません。」

中村先生と、渡邊先生は、顔を見合わせるとにやりと笑った。
「健作君!」中村先生は、微笑みながら話し始めた。
「君の言わんとするところは、よくわかるよ。
今まで君が相手してきたお客さんは、君たちが奏でる『音楽』を聴きにきてくれていた。
でも、今日のお客さんはそうなのかな?
君たちの演奏は、この素晴らしい夕焼けと、おいしい料理、おいしいお酒を楽しみに来た人たちの雰囲気を盛り上げるものだ。
あっても無くても多くの人たちは気がつかない。
でもあるのと無いのとでは大違い・・・そんな存在なんだよ。」

修はちょっとおどけたように言った。
「それじゃぁ、俺たちは刺身のツマみたいなものですね!」

健作は、ちょっと怒ったように修をにらみつけると、また先生たちの方に向かい合った。

「俺、最近自分の『夢』についてよく考えるんです。
音楽には国境がありません。
また、人種も関係なければ、金持ちも、貧乏人も関係ない。みんな等しく平等に楽しめるものです。
そんな素晴らしい音楽を通して、一人でも多くの人に感動と生きる喜びを感じてもらいたい。

音楽を愛する心に争いはありません。
感動と生きる喜びを感じてもらうことによって、争いの無い、平和な世の中にすることができるんじゃないでしょうか。」

しばらくみんなは驚いたように健作の顔を見つめていたが、やがて渡邊先生が口を開いた。
「参ったな、今日は健作君に教えられてしまった。
われわれプロは、演奏してなんぼだ。ギャラを払ってくれる人のリクエストに答えればいい。
大切なことを一つ忘れていたようだよ。」

 


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学生街の四季 第2章《夏》 14 [学生街の四季]

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リビングでテレビを見ていた健作と、修は大笑いしていた。
テレビからは、若者数名がコントを繰り広げている。

左の寝室の扉が開くと、典子と智子が出てきた。
「賑やかだと思ったら、笑築過激団を観てたんですね。」
「えっ、松竹歌劇団?」健作は振り向きざま答えた。
「あ、あの東京の松竹歌劇団ではなくて、沖縄の笑築過激団です。
この人たち、沖縄ではとっても人気があるんですよ。」

修は立ち上がると
「あー、面白かった。名前までパロディーなのかな。」
「そうですね、さぁ、お買い物に行きましょう。
歩いていけるところにスーパーがありますから。」

路地を抜けると、パイプライン通りに出た。
「この道は、那覇軍港から、普天間や嘉手納まで油送管が埋設されていて、その上が道路になっているんです。
あ、見えてきましたよ。」
典子が指差す先には、オレンジ色の看板に白い文字で「Jimmy's」と書いてあった。
レンガ色のお店は、パイプライン通りと国道58号にはさまれて建っている。

冷房が心地いい店内に入るとさすが南国、果物売り場には、スターフルーツやマンゴーが並んでいる。
店内を進むと、ワゴンに山積みになっている缶詰を見つけると、修は手に取った。
「何この缶詰、コンビーフのでかい版?」
健作も手に取ると、
「あっ、これいつかおむすび造ってくれたやつだね!」
「そうですよ、これがランチョンミート・・・豚肉の缶詰です。」

智子も手に取ると、
「えっ、これが一缶198円なの? 東京のスーパーじゃ確か300円から400円位いじゃなかったかな。」
「ともちゃんよく知ってるのね! そう、東京じゃ高くて買えません。
今日は特売みたいだから、特別安いけど、普段200円ちょっとで買えるかな。」

「またランチョンミートのおむすび食べたいなぁ。」健作は典子に向かって訴えるような目をすると、
「はいはい、作りますよ。でも今晩は、ちょっと違うものを作ります。
今晩のご飯は、フーチバジューシー・・・ヨモギの炊き込みご飯と、ナス味噌にしましょうね。」

「コーヒーに入れるミルクは、これが美味しいですよ。」
典子が取り上げたのは、ミルクの缶詰だった。
智子が、典子から受け取るとしげしげと缶を見つめた。
「へ~、カーネルのミルクかぁ、東京じゃ見たこと無いなぁ。・・・あ、ここに小さい文字で『沖縄専用物資』って書いてある。」
「私もその意味はよく知らないの。でもとっても濃厚で美味しいのよ。」

「そうそう、牛乳も買わなくちゃ。」
典子が牛乳パックを手に取ると、みんなに見せた。
「この牛乳パックは、何ml入っているか知ってますか?」
修はその牛乳パックを取り上げた。
「えっ、1000mlに決まってるじゃん!!」
修は、牛乳パックの表示を探してパックを回した。
「げっ、946mlだって!!」
典子は、みんなにも表示部分を見せながら説明した。
「沖縄の牛乳は946mlなのは、ガロン計算だからなんです。
1000mlに一番近いのがクォーターガロン・・・946mlなんですよ。
もともと、この紙の牛乳パックはアメリカで開発されたもので、容量は950.6mlしかないんです。
内地では、この950.6mlの容器に1000ml詰め込むから、内地で牛乳パックを見ると、胴の部分が丸く膨らんでいるでしょう。」
智子は小さい容器を取り上げると、
「なるほど、この小さいほうは500mlじゃなくて、473mlなんだ。それにしても牛乳高いんじゃない?
美味しいのかな?」
売り場の牛乳は数種類うられていたが、いずれも230円~250円前後の値段が付けられている。
「そうですね、牛乳は内地のスーパーよりやや高めかな。なかなか濃厚で美味しいですよ。」

「そうだ、今晩飲むビール買っとこうぜ。」
修は、飲料売り場へと向かった。
「おっ、俺はこれにしようかな。ルートビアって読むのかな。輸入品だね。」
「俺はやっぱり沖縄に来たんだから、沖縄のビールにしとくよ。」
健作は、オリオンビールを取ると、典子も智子もオリオンビールを買い物籠に入れた。
典子は、ちょっと笑いをこらえるような表情をしたが、それを飲み込むと
「さあ、それじゃあ帰って晩御飯を作りましょう。」
といって、レジへと向かった。

帰宅すると、典子と智子はキッチンで晩御飯を作り始めた。
「何か手伝うけど・・・」健作は、キッチンに行って典子と智子の肩越しに声をかけた。
典子と智子が振り向くと、智子が右手を突き出した。
「お食事作りは、マネージャーに任せといて!!」

健作と修がテレビを見ていると、智子が呼びに来た。
「ご飯出来たわよ。」
キッチンに入ると、美味しそうな沖縄料理が並んでいる。
みんなが席に付くと、典子が料理の説明をした。
「これはゴーヤチャンプルーです。この四角い肉みたいなものが、さっきのランチョンミート。
そして、これがナス味噌。ご飯はフーチバジューシー。
あと、イカ墨汁作ったんだけど、ビール飲んだらよそってきますね。
さて、乾杯しましょうか。」

みんなは、ビールのプルトップを開けるた。
「そうそう、沖縄式の乾杯をお教えしますね。
掛け声が『カンパイ!』じゃなくて、『ハナハナハナハナ~』っていうんですよ。
花を散らしてにぎやかに・・・というような意味かな。」

缶をカチッとあわせると『ハナハナハナハナ~』と声を上げて缶を口に運んだ。
「ゲッェェッ・・・!!」
修は突然叫び声を上げ取る椅子から飛び上がった。
「何これ!! ・・・これビールじゃないよ。そ、そ、それにこの味・・・・トイレの防臭剤を・・・飲んだみたい。」
修は咽び、目から涙がでてきた。
それを見たみんなは大笑い。
智子は修の背中をさすると、修の飲んだルートビアを手に取った。
缶にはA&W ROOT BEER と書いてある。
缶の裏に張られたシールには、『清涼飲料水 原産国アメリカ合衆国』と書いてある。
智子は恐る恐る缶に口をつけると、
「えっ、これ美味しいじゃん。」と笑った。

「そう、ルートビアってビールじゃないんですよ。アメリカの炭酸飲料水です。
人によって、好き嫌いが極端な飲み物なんですよね。」
「ひどいなぁ、典子さん、知ってたんだったら教えてくれなきゃ。」
修はむくれたような表情をすると、典子は立ち上がって冷蔵庫から新しいオリオンビールを出してきた。
「はい、これをどうぞ。」
修はむくれていた表情が、オリオンビールを手にするとニコニコ顔に変わった。
「さすが典子さん、ちゃんと用意してくれてたんだ。」

健作はナス味噌に手を伸ばして、一口食べると
「これ、超うまい!!  おれナスが大好物なんだけど、こんな美味しいナス料理食べたの初めてだよ。
この炊き込みご飯も最高!」
「うんうん、これはうまいね。」修も舌鼓を打った。
「私沖縄にいる間に、ノリにしっかり沖縄料理の作り方を教えてもらうんだ!」

楽しい食事は終わってまったりしていると、健作は口を開いた。
「今日真栄田岬でさ、ノリのお父さんから『君の夢は何だ』って、聞かれちゃった。」
「へ~、それでお前はなんて答えたんだい?」
「音楽を通して一人でも多くの人に感動と生きる喜びを感じてもらいたい・・・って答えたよ。」
「素敵な夢ですね。」智子は感心したようにつぶやいた。
「お前の夢はどでかいなぁ。」修は椅子の背に深くもたれると両手を頭の後ろで組んだ。
「ああ、ノリのお父さんには、『夢は大きければ大きいほどいい』って言われたよ。」

みんなは、それぞれの夢を語りながら、夜は更けていった。


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駅員3の妄想 2 [学生街の四季]

今日は再び駅員3の白昼夢をお届けしましょう。

以前のものは次のリンクでお読みください。
 ⇒駅員3の妄想

健作はボーディングブリッジを抜けると、携帯を取り出して電話をかけた。

「今空港についたよ。これからタクシーで帰るから。」

午後から市ヶ谷で行われた会議に出席するための日帰り出張だったため、預けた荷物は無い。
ロビーを抜けると客待ちしていたタクシーに乗り込んだ。
「二中前。」
行き先を告げると、シートに身をゆだねて静かに目を閉じた。

タクシーは、明治橋を渡って旭橋を右折し壷川通りに入ると、すぐにハーバービュー通りへと分岐した。

那覇高校の前まで来ると、健作は口を開いた。
「あっ、そこを右に曲がってくれるかな。」
右折して200mほど進んだところでタクシーを止めて精算すると、目の前のマンションへ入っていった。

マンションのドアを抜けると、管理人さんが声をかけてきた。
「こんばんは、今日は遅かったですね。」
「こんばんは、ちょっと東京まで行ってきました。そうそう、これ奥さんと食べてください。」
健作は、持っていた紙袋からお土産を一つ取り出すと差し出した。
「えっ、いつも悪いねぇ。」
「いえいえ、こちらこそいつもお世話になっていますから。」
健作は頭を下げるとエレベーターに乗り込んで、10階のボタンを押した。

エレベーターを降りてまっすぐ進むと、突き当たりの部屋の扉を開けた。
「ただいま。」
典子が奥から小走りで玄関までくると、靴を脱ごうとしている健作からかばんを受け取った。
「お帰りなさい、あなた。」
二人はお互いの存在を確認しあうようにしっかり抱き合うと唇を合わせた。
「龍樹はどうした?」
「『お父さんが帰ってくるまで起きてる。』っていってたのにソファーで寝ちゃったわ。
ご飯できてるわよ。」
「ああ、ありがとう。先にシャワー浴びてこようかな。」
健作は子供部屋を覗いて龍樹が寝ているのを確認するとシャワーを浴びに行った。

照明が落とされたリビングの窓の外には遠く那覇港の明かりが瞬き、その先は真っ黒な東シナ海が広がっている。
片隅には明るく照らされた大型の水槽が、薄暗いリビングの中に浮かび上がって、大きな白いイソギンチャクやクマノミのほか色とりどりの海水魚が泳いでいた。

健作はシャワーから出てきて水槽の前に行くと、棚から餌を取ってぱらぱらと水槽の中に入れた。
水槽の中はざわめきたって水面に散った餌を争うように魚たちは餌をついばんでいる。

典子は、料理を並び終えると声をかけた。
「あなた、できたわよ。」
「あ、ありがとう。」
椅子に座ると、オリオンを開けた。
「ハナハナハナハナ!」二人はグラスをあわせて乾杯すると、のどを潤した。
健作は、なす味噌に箸を伸ばして味わうと口を開いた。
「う~ん、おいしい!! 
ノリの作るナス味噌は、最高だね。
今でも、初めて沖縄の地を踏んだその夜に食べたなす味噌の味と、語りあった夢のことは忘れられないよ。」
「あれから何年たったのかしら。・・・早いものね。」

ビールを飲み終えると、典子はキッチンでご飯をよそってきた。
「はい、あなたの大好きなフーチバジューシーよ、どうぞ。」

駅員3の白昼夢は、ここで終わりです。
ここのところへんな夢ばかり見ます。
昨晩は、息ができなくなり、窒息しそうになってもがき苦しむ夢を見てしまいました。
普段何事も無いように呼吸しているのに、その呼吸ができなくなる恐怖・・・

僕の精神状態を表しているのでしょうか?
今まで大冒険活劇的な夢しか見たことがなかった・・・というか記憶に無かったのですが、どうしちゃったんでしょうね。

18日日曜日は朝早く出て、袖ヶ浦のサーキットに行ってきます。
またその様子は、別途アップさせていただきます。


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