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学生街の四季 第2章《夏》 13 [学生街の四季]

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健作は車を降りると、圧迫感を感じるほどの南国の力強い日差しに、思わずめまいを感じるほどだった。
聡は車の後ろに回ってバックドアを開けると、健作、修、智子はそれぞれの荷物を手に取った。

「あら、荷物が一つ残ってるけど?・・・」智子が言うと、
「あ、それ私のです。」と典子が後ろから声をかけた。
「トモちゃん一人じゃ寂しいだろうから、私も今日から一緒にここに泊まります。」
「えっ、ほんと? よかったぁ。」智子は嬉しそうに典子の荷物を取ると、後ろに立っていて典子に渡した。

聡はバックドアを閉めた。
「それじゃあ行こうか。
ここは、去年まではうちのダイビングショップの従業員が住込んでいたんだけど、ショップの近くに新しく部屋を借りたんで、今は使っていないんだ。」

目の前には芝生に囲まれて、真っ白に塗られた小洒落た平屋建てのコンクリート住宅が建っている。
典子は扉の鍵を開けると、中に入った。

玄関ホールに入るとリビングが広がっているが、玄関ホールに段差はない。

典子はみんなに声をかけた。
「スリッパに履き替えたら、荷物はひとまずリビングの隅にでも置いてください。
この建物は、建ってから40年ほど経ってる外人住宅です。」
「ガイジンジュウタク?」修は思わず聞き返した。
「はい、戦後米軍関係者のために造られた住宅です。
アメリカ風の概観と間取りは、戦後復興途上にあった沖縄県民の憧れの対象でもありました。
ここは、もともと基地の住宅エリアになっていたんだけど、返還されたときに建物はそのままの状態で返還されたので、そのまま使っているんです。」

「ふ~ん、だからこんな素敵なアメリカ風の建物なんだ。」智子は関心して見回した。
「寝室は3つあるんですけど、左手の寝室にはバストイレがついているので、私とトモちゃんが使わせていただいていいですか?」
「ああ、もちろんかまわないよ。それで俺たちはどこ使えばいいかな?」健作は典子に聞いた。
「右側の寝室はどちらも使えるけど、手前の部屋が南向きですから、そちらをどうぞ。」

2012.11.13外人住宅2.jpg

「アイアイサー」修は敬礼すると、自分の荷物を取り上げて、右手の寝室に消えていった。

「それじゃあ荷物を置いて一休みしたら、みんなで近くのスーパーに買い物に行きましょう。
きっと、内地のスーパーには見られない面白いものも結構ありますよ。」

「じゃぁ、仕事があるから失礼するよ。」聡はみんなに声をかけた。
「あっ、今日はありがとうございました。お昼までごちそうになっちゃって。」
健作は頭を下げると、目の前に聡の右手が伸びてきた。
二人はしっかり握手すると、聡の暖かく力強い手に心和むものを感じた。

 

エクセルで記憶にある外人住宅の間取り図を描いていたら、思いのほか時間がかかってしまい、本文は短く終わってしまいました。

できればスーパーでの買い物の様子なども書き込みたかったのですが、それはまた次回にでも。


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学生街の四季 第2章《夏》 12 [学生街の四季]

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真栄田岬を出発すると、車は一路宜野湾市へと向かって国道58号を南下した。

健作は過ぎ去っていく景色を何か考え事でもしているのか、心ここに在らずというような顔をして眺めていると、隣に座っている修が肘でつついてきた。
「おい健作、何考えてるんだよ!!」
「えっ、ああ・・・うん、何も考えてなんか無いよ。ただ景色見てただけだよ。」
「ふ~ん、なんか飛行機に乗ってたときのような顔してたぜ!」
「えっ、そんなこと無いよ。」健作は窓の外を眺めたまま気のない返事をした。

「まぁそういうことにしておこうか。ところで健作、さっきみんなで海岸線まで崖を降りた時に、なんで一緒に来なかったんだい?」
健作は、ちらっと運転席の方に目をやると修の方に目をやった。
「あの時は、ノリのお父さんと話ししてたのさ。」

助手席で健作と修の話しを聞いていた典子は、きらきらと目を輝かせながら振り返った。
「あら健作さん、お父さん、どんな話してたんですか!?」

車を運転している聡は、前をむいたまましゃべり始めた。
「健作君とね、『夢』の話しをしたいたんだ。みんな若いんだから、でっかい夢持てよ!!」

車は嘉手納ロータリーをぐるっと回ると嘉手納基地の西端のフェンスにそって南下を続けた。

「みんなは、牛島中将のことは知ってるかい?」
智子がイの一番で手を上げた。
「知ってます。確か沖縄戦の時の日本軍の司令官で、最後に自決して沖縄戦は終わったんじゃなかったでしょうか。」
「ほう、智子さんはよく勉強しているね。
それじゃあ、この嘉手納基地の中に、牛島中将を顕彰した碑があるのを知ってるかい?」
「えっ、アメリカ軍の基地の中に敵国の将軍の碑を残しておくなんて考えられません。」
智子はびっくりしたように答えると、みんなはうなずいた。

「いやいや、戦前の日本軍が立てたのではなく、戦後アメリカ軍の手によって『初代基地司令官ジェネラル牛島』と記された碑が建てられたんだよ。
牛島中将は、沖縄戦で多くの一般市民を巻き込んで犠牲を増やしてしまったという評価が定着しているが、本当にそうだろうか。
1944年9月に牛島中将は沖縄に赴任すると、まず最初に沖縄県知事と話し合った議題は、沖縄県民の疎開のことだ。
沖縄が戦場になることはもうすでに十分予想されていたため、30万人以上の暮らしていた人たちの安全を如何に確保するかということが喫緊の課題だったんだ。

そして、8万人以上の人たちが本土や台湾に疎開した。
さらに米軍の上陸が目前に迫ると、一般市民を本島北部へ避難させたが、それも間に合わず多くの市民が南部の激戦地帯に取り残された。
牛島中将は激化した戦闘の中、米軍総司令官のバックナー中将の下に軍使を送った。

「一般市民保護のため、南部の知念半島を非戦闘地域にした」ことを認めるように求めたんだ。
そんな牛島中将をアメリカ軍は非常に高く評価しているのさ。
だから、嘉手納基地の中に牛島中将を顕彰する碑が建っているんだ。」

聡は、運転しながらバックミラーにちらりと視線をやり、健作たちの反応を確認した。

「戦後、戦争に負けた日本人は、第二次世界大戦にふたをしてしまった。
本来なら、きちっと評価反省し、正すべきところは正し、評価すべきところは評価されなければならなかった。
そのいい例が、数年前アンビリーバボーで取り上げられた第二次世界大戦中の日本海軍の駆逐艦「雷(イカヅチ)」の話だよ。
日本海軍の砲撃により沈没したイギリス海軍の巡洋艦エクゼターと駆逐艦エンカウンターの乗組員422名を工藤艦長が率いる駆逐艦「雷」が救助したんだ。
助けられたイギリス兵の中に、後に外交官となって活躍したフォール卿がいた。
フォール卿が平成になって、死ぬまでに工藤艦長にお礼が言いたいとその消息を尋ねて初めて日本の駆逐艦がイギリスの海兵を救助したことが世に出た。

残念ながら工藤艦長は、1987年(昭和62年)に他界されていた。
生前はいっさいその話はせず、家族は誰もその話しを知らなかったそうだ。

当時のイギリス海軍は「戦時においては、友軍の将兵が漂流していても助ける必要はない」という内部規定があった。敵潜水艦からの攻撃を恐れての事だった。
イギリス海軍には、第二次世界大戦開戦後に日本海軍の毅然とした武士道の話が多々伝わり、「沈没したら日本の軍艦に向かって泳げ。必ず助けてくれる。」といわれていたほどなんだよ。」

「へ~、そんなことがあったなんて知りませんでした。」
健作が口を開くと、みんなの口からため息にもにた空気がもれた。

車は、陽光燦々と降り注ぎ露出オーバーで白く光っているような国道を切り裂くように進んでいく。
聡は続けた。
「君たちはまだ若い。何が真実で、何が造り事なのか判断する目を養わなければいけないよ。
たとえば報道されることは、新聞社なり、テレビ局の、いや新聞や番組を作った人の考えが織り込まれている。
その中から、『事実』だけを取捨選択して自分の意見を持つことが大切だ。
・・・おっと、なんかオヤジくさい話しをしてしまったね。もうすぐ着くよ。

車は国道58号から左に折れると、普天間基地のゲートに続く道へと入った。
カーブしながら登っていくと、ゲートの手前の細い路地へと入っていった。

聡は、数十メートル進み道に面した駐車場に車を止めると、イグニッションを切った。

 

前回、今回と、ちょっと教訓めいたお話になってしまいました。
書き込みすぎであることは重々承知の上です。
本来は、もっとテンポ良く話しを進めるつもりでしたが、なぜか自分自身沖縄への特別な思い入れがあるためか、さらっと書き流すことができずに、色々書き込んでしまっています。
本当は聡の口から、もっと語らせたいことがあったのですが、なんとか自重しました。
ひょっとすると書いてしまうことがあるかもしれませんが、まぁ付き合いください。

最近色々とストレスのたまることがあり、普段だったら見る夢はそれこそ冒険活劇のような楽しい夢ばかりなのに、悲しい夢、つらい夢ばかり見ています。

そんなこんなで、ついつい聡の口を借りていいたい放題言っているのかもしれません。
面白いもので、この学生街の四季を書いているときは、すっかりこの物語の世界に浸かってしまっています。
あるときは健作の目を借りて、あるときは聡の目をかりて、あたかも自分が今見ていること、体験していることを書いているような錯覚に陥ることがあります。

そういう意味では、もう私の手を離れて一人歩きしている物語を、書き取っているということでしょうか。


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学生街の四季 第2章《夏》 11 [晴れ] [学生街の四季]

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交差点を左折して駐車場に車を止めると、そこはまるで米軍基地の中に入ったような雰囲気だったが、実際のゲートは駐車場の先にあった。
みんなが車を降りると、聡の後に続いてレストランの入り口へと向かった。
入り口を入って廊下を進むと、両側の壁にはたくさんの色紙が飾られている。

典子は歩きながら説明した。
「ここは昔は将校クラブだったそうです。
今はディナーショー中心のレストランで、今まで来られた歌手の皆さんの色紙を飾っているんですよ。」
健作、修、智子は立ち止まって壁にかかっている数枚の色紙見たが、彼らの知っている名前は無かった。

「なんか知らない名前ばっかじゃん。」
食い入るように見つめていた修は、そう言うと一人取り残されていることに気づいて、あわてて後を追った。
「おーい、ちょっと待ってよ!!」

入り口には、ここは骨董屋さんかと思ってしまうような時代物のキャッシャーが置いてある。
聡がランチバイキングの支払い・・・お一人様750円×5人分=3,750円・・・を済ませると、みんなはトレーを取って並んだ。
バイキングとはいえ、料理の後ろに立っているお店の人が取り分けてくれた。
チャーハンやメンチカツは和風だが、マッシュポテトや豆料理はいかにもアメリカンだ。

席につくと、楽しい会話がはずんだ。
「沖縄返還前は将校クラブだったのが、レストランとして残ったのには面白い話があるんだ。」
と聡が話し始めた。
「実は沖縄が返還されて数ヵ月後、当時の防衛施設庁から突然地主に「リージョンクラブの土地は、本土復帰の数ヶ月前に返還されている。」と通知があったんだそうだ。

びっくりした地主は、米軍と防衛施設庁に建物の撤去を含めた原状回復を求めたが、「本土復帰前の返還には原状回復義務を負わない」と拒否されてしまった。

そこで当時リージョンクラブを運営していた人達と地主は話し合って、レストランとして再出発したんだよ。
このレストランの前にあるパチンコ屋さんは、将校クラブ時代はスロットマシンが並んでいたそうだ。」

「へ~、お父様は物知りなんですね。ノリはこんな素敵なお父さんがいて羨ましいな。」
智子は隣に座っていた典子の肩をたたいた。
「ははは、トモちゃんありがとう。自慢の父です。」典子は笑った。

「どうだろう、ちょっと海でも見て帰るか。」と聡はみんなをみまわした。
こういうことには反応の早い修はすぐに手をあげた。
「賛成~!! 行きましょう。着陸態勢に入った飛行機から見た海岸は、あるところはグリーンで、あるところはブルーで、あるところは深い藍色で、とっても綺麗でした。早くみてみたいです。」
「よし、じゃぁ真栄田岬にでも行くか!」と聡は言うと席を立った。

車は、国道58号に戻って嘉手納ロータリーを経て真栄田岬へと向かった。
「あれ、軒先にバナナつるしてる!!」修が指を指した先には、道路沿いの店先に、ちょっと小振りの黄色くなったバナナが吊り下げられている。 「あれは、島バナナです。沖縄産で、フィリピンや台湾のバナナよりちょっと小振りですが、甘くて美味しいんですよ!!」
典子が説明してくれた。
国道の前方に青い大きな表示板が現れると、真栄田岬は左折を示していた。

「マエダ岬って、こういう漢字を書くんですね。北海道の地名も難しいけど、沖縄も難しいなぁ。」
健作は関心したようにつぶやいた。
やがて真栄田岬の駐車場に車を停めると、みんなは車から降りた。
一歩外に出ると、力強い陽光に目眩を感じるくらいだ。

岬の駐車場は断崖絶壁の上にあり、下に降りていく遊歩道があった。
突端まで行くと、コバルトブルーの海が広がっていて、息を呑むほどの美しさだ。
波打ち際ではダイビングをしている人たちがたくさんいる。

「ここはツバメ魚の群生にであったりして、なかなかいいポイントなんだ。洞窟もあって潜るには楽しいところだよ。」
「ダイビングかぁ。ノリちゃんもやるんだったね。俺もいつかやりたいな。」健作は興味津々に潜っている様子を眺めている。
「沖縄にいる間にライセンス取りましょうよ。今度は私がお教えする番です。」と典子は答えた。

「下まで行ってみないか!」と修が言うと智子はうなずいた。
「それじゃあ、私が案内してあけますね。」典子は先頭に立って遊歩道を下へと歩き始めた。

健作はついていこうかどうしようか迷っていると、聡が声をかけてきた。
「健作君、君の『夢』はなんだね。」
「えっ、俺の『夢』ですか!?」

突然の質問にちょっと驚いた顔をして聡をみると、聡はにこやかに微笑みながら話し始めた。
「私の夢はね、一人でも多くの人にこの美しい沖縄の海を知ってもらうことなんだ。
今日はやさしく微笑んでいるように見えるけど、この沖合いには潮の早いところがあって、よくダイバーが流されて事故になったりするポイントもあるんだよ。
また、台風がくるととんでもない波が打ち寄せて、まるで牙をむいて襲い掛かってくるようだ。
そんな人間の力ではどうすることもできない自然の偉大さを、一人でも多くの人に知ってもらいたい。」

「それは簡単そうで、とっても難しいですね。」健作は続けた。
「俺の夢は、音楽を通して一人でも多くの人に感動と生きる喜びを感じてもらいたい・・・っていうとちょっとおおげさでしょうか!?
音楽って、国境や人種の壁をも超越して人々に勇気と感動を与えられると思うんです。」

「なるほど、すばらしい夢だね。
夢の大きさは、人の器の大きさを測るものだよ。健作君はとっても大きな器をもってるんだ。
その『夢』をかなえるためには目標を持たなきゃいけない。
目的と目標の違いはわかるかい?」

聡の質問に、健作は答えに窮してしまった。
「えっ、目的と目標ですか?・・・」

「そう、夢は目的だね。つまり、君の人生の到達点だよ。そして目標は、到達点に達するまでの道しるべさ。
目的は大きければ大きいほどいい。しかし目標は、着実に一つ一つステップアップしていく為の道標であり、最初から大きな目標を掲げてしまうと、途中で息切れしてたどり着けなくなってしまう。
だから、目標はちょっと背伸びすれば手が届くくらいのところにおくものだ。人生は、その繰り返しだね。

そして、夢がかなったかどうかは、人生最後の瞬間を迎えて、自分の歩んできた道を振り返って満足できるかどうかだと思う。
もし人生半ばで夢がかなってしまったら、それ以降生きていく意味を失ってしまうだろう。
だから夢は大きければ大きいほどいいんだ。
そして、一瞬一瞬、一日一日を精一杯生きていくことが、目的を達成するためには必要じゃないかな」

崖下から吹き上げてきた一陣の潮風が健作と聡を優しく包み込むと吹き抜けていった。


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学生街の四季 第2章《夏》 10 [学生街の四季]

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車は明治橋を渡り、そのまま直進して国道58号へ入った。
一瞬典子は怪訝そうな顔をしたが、車は次の旭橋の交差点も直進すると、声をあげた。

「ちょっと、お父さん! チャーリーレストランに行くんじゃないの!?」
「おっといかん、ちょっと考え事していたらうっかり曲がりそびれた。」
「まったく、お父さんらしくないね。どうしちゃったの?」

後席には、健作、修、智子が三人並んで座っていたが、助手席の後ろに座っていた健作は、運転席と助手席の間に身を乗り出した。
「ノリちゃん、お父さん、どうしたんですか?」
典子は、健作の方を振り向いた。
「チャーリーレストランへ行くんだったら明治橋渡ったところの交差点を右折するか、次の旭橋の交差点を右折して、与那原の方に行かないといけないんです。」

「いやー、ごめん、ごめん。チャーリーレストランは、またそのうちドライブがてら行ってくればいいさ。
今日のところはリージョンクラブにしておかないか。私がおごるからさ!」
聡はちょっと顔を赤らめると、いつも冷静な聡に似合わずやや緊張したような表情をみせた。

後席の中央に座っていた修も身体をのりだすと
「えっ、お父さんいいんですか? いやー、悪いなぁ~ ありがとうございます。」
調子のいい修の一言で、座が和むと、典子が口を開いた。
「それじゃあ普天間のリージョンクラブにレッツゴー!!
しばらくはこの国道58号を走っていきますよ。
沖縄返還前は、米軍が管理する軍用道路1号線だったので、今でも『1号線』って呼ばれたりしています。」

右手には川の上に併走してモノレールが走っている。
両側にビルの立ち並ぶ市街地は、東京の街とあまり変わらない。

「皆さん、この国道58号線って、日本で二番目に長い国道だってしってましたか?」
後席に座っていた3人は、「え゛っっ!」と声をあげた。
それを聞いていた聡は微笑むと後ろの3人に説明した。
「国道58号の終点はさっき渡った明治橋なんだけど、起点は鹿児島市にある西郷さんの銅像の前の交差点なんだよ。
その起点から東に700m、NHKの鹿児島放送局の手前で地図からは消えてしまうんだ。
次に地図に現れるのは、種子島、そして奄美大島と続き、沖縄本島の最北端、国頭村奥で再び現れると、本当の西海岸沿いを下って、那覇まで来ているんだ。
陸上の距離は、延べ255kmしかないんだけど、海上が600kmあるから、合計855kmの道のり・・・おっと海上もあるから道のりとは言わないかな。
ちなみに日本で一番長い国道は、東京の日本橋から青森県青森市まで続く国道4号線で886kmもあるんだ。」

「へ~、さすがお父さん、博学ですね。」運転席の後ろに座っていた智子は感心したように言った。
「それじゃあ、あと12km・・・糸満をぐるっと回って延長すれば日本一になるじゃん!」
すかさず修は口をはさんだ。

「ともちゃん、国道58号には、まだ面白いことがあるんですよ。
1965年(昭和40年)の道路法の改正以降新設された国道の番号は、三桁なんです。
1972年(昭和47年)の沖縄返還時に、国道58号は鹿児島から那覇までを指定されたんだけど、本来なら三桁の番号か付くはずなのに、特例で二桁の『58』が与えられたんだそうです!!」

「さすが地元の人は地元のことを良く知ってるね。」
今度は健作が関心したように声をあげた。

車は、那覇市街を出て浦添市に入ると、内地とは少し違う雰囲気の街並になってきた。
歩道と車道の間には、ハイビスカスが植えられていて、色とりどりの花を咲かせている。
やがて、右手に小高い丘が見えてくると聡はみんなに説明した。

「あの丘の上が今話題になっている普天間基地だよ。
みんなに泊まってもらう家は、国道58号から普天間基地のゲートに向かう道に入ってすぐだけど、先にこのままリージョンクラブに向かうね。」

やがて国道58号に別れを右にそれて、坂道を登ってしばらく走ると、左手に三丁目の夕日に出てきそうな時代物のネオンサインが見えてきた。

「おい健作、ちょっとあれみてみろよ!」修が指差して声をかけると、
「ん、何? ずいぶん年代物のネオンサインじゃないか。
『沖縄リ ― ジョ ン ク ラ ブ 』・・・って書いてある!!」

典子は後ろを振り返った。
「そう、あれがリージョンクラブです。昔からディナーショーを中心に営業しているレストランで、ランチはバイキングなんですよ。
チャーリーレストランはパイで有名なんだけど、ここのアップルパイもまずまずかな。」

聡は、基地の一角のような場所に立っているレストランの駐車場に車を止めると、イグニッションを切った。


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なんと悲しい出来事 [学生街の四季]

学生街の四季をアップしようと打ち込んでいたら、ほとんどうち終わってバックアップをする直前に、ソネットが固まってしまい、すべて消えてしまいました・・・

18、19日と都内某所で講演をしていることもあり、いまさら書き直す時間も無く、前回目的地とご紹介した「チャーリーレストラン」のストリートビューだけご紹介します。


大きな地図で見る

実は、一同は空港を出ると、チャーリーレストランとは逆方向の那覇市内に向かってしまいました。

そこで、行く先を急遽変更して、リージョンクラブにさせていただきます。
いずれ書き直すときには、前回のくだりを修正させていただきます。

ふ~、それにしても悲しい[ふらふら]
いったいこの数時間はなんだったのか[爆弾]


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学生街の四季 第2章《夏》 9 [学生街の四季]

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健作はターミナルビルを一歩外に出ると、真上から降り注ぐ陽光に押し戻されるような圧力を感じるとともに、どっと汗が噴出した。

「ひょえ~、あちちちぃ・・・、なんて暑いんだ!!」
修は、悲鳴をあげた。
それを聞いて、みんなはどっと笑い出した。

「おいおい、健作、お前だって暑いだろう!!」
「ははは、俺だって見てみろよ、こんなに汗噴出してるだろう!!」
「あれ、ともちゃんぜんぜん汗かいてないじゃない!?」
「うん、修ちゃん、暑いんだけど不思議と汗が出てこないんだ。」
「ともちゃん、暑さに強いんだね!!」修は感心したように言った。
それを聞いていた聡は一同をせかした。
荷物を積み込むのももどかしくみんなが車に乗り込むと、聡はエンジンをかけクーラーをつけて温度調節のノブをマックスまで回した。
蒸し風呂のような車内は、ガンガン冷えていく。

「智子さん、暑いところ慣れてないでしょう。普段から冷房の効いたところにいるんじゃないかな?」
「はい、よくお判りですね。学校は冷房効いてるし、バイト先のレストランも冷房入ってて、あまり暑いところには出ません。」
「そうだろうね。智子さんが汗かかなかったのは、暑さに強いからじゃなくて、普段の生活で汗をかく必要が無い生活を送っていたから、汗腺が退化しちゃってるんだよ。
この状態で暑いところにずっといると熱中症になっちゃうから要注意。
しばらくはクーラーの効いた部屋でのんびりして、まずは暑さに身体を慣らしていってね。
そのうちしっかり汗かくようになるから。
それまでは、喉が渇いたなぁ・・・と思う前にポカリでも飲んでおくといいよ。」
「はい、ありがとうございます。ノリのお父さん、すごいんだぁ!! まるでお医者さんみたい。」
「いやいや、私はダイビングショップやってるから救命救急の講習を日赤で習ったんだよ。
人の命を預かるんだから、それくらいのことは出来ないとね。」と聡は言った。
「すぐに汗が噴出した修さんと、健作さんは、さしずめ野生児ってところですね。」
と典子が言うと、みんなは大笑いした。

空港を出てまもなく、大きな川が見えてきた。
「これが国場川。この国場川にかかる橋が、明治橋です。」典子はみんなに説明を始めた。
「1883年(明治16年)に初めて木造の橋がかけられたので、『明治橋』って呼ばれるようになったんですよ。
この橋は4代目で、1987年(昭和62年)に完成した橋です。」

「昭和に出来た橋なのに、明治橋とはこれ如何? 」修はおどけた調子でいうと、みんなを笑わせた。

「典子さんさすが地元だけあって、よく知ってるね。」と健作が感心したように言うと、
「健作さんとおなじ一夜漬けです。」と典子は健作をみてウインクした。

突然、智子は前方を指差して声をあげた。
「ねぇ、ねぇ、あのビルに大きく『めんそーれ うちなー』って書いてあるよ!! 
そういえば、さっきノリと会ったときにあれと同じように『メンソーレ ウチナー』って言ってたよね。
それってどんな意味なの?」

「琉球方言で、『いらっしゃいませ、おきなわ』って言う意味です。
『参(まえ)り候(そうら)え』が変化した言葉だと言われることがあるけど、本当は琉球方言の『イメンセーン(いる、行く、来る)』が変化した言葉みたい。」
「へー、沖縄の言葉って難しいね。」健作は感心したようにうなずいた。

「さぁみんな昼ごはんは未だだろう!? チャーリーレストランでも寄ろうか、典子。」
「ああ、そうだね。ちょっと変わってて面白いかもしれないね、お父さん。
みんなどう、お腹空いてるでしょう?」
「そう、さっきからお腹なりっぱなしだよ。なんでもいいから早く食べに行こうよ~」修が泣きそうな声で答えると、またまた車の中は笑いで包まれた。

もう少し先まで書きたかったのですが、今日はこれくらいにさせていただきます。
こんなペースで書いていると、『夏』の章が終わるのが来年の夏になっちゃったりして(^^;

季節はもう秋・・・我が家の庭のマンサクが狂い咲きしています。
春ほど満開ではありませんが、結構咲いています。

どうしちゃったんでしょうね。

2トキワマンサク.jpg


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学生街の四季 第2章《夏》 8 [学生街の四季]

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学生街の四季 第2章《夏》 7

是非次のYoutube を聴きながらお読みください。

健作は、耳がつんとしてきたので窓の外を見ると、それまで蒼穹の空に雲海しか見えなかったが、いつのまにか群青色の海に手が届きそうなくらいまで高度を下げてきている。

シートベルトの着用サインが点灯すると、まもなく着陸するとの機内アナウンスがあった。
倒していた座席を元に戻してシートベルトを付けると、修が健作に話しかけてきた。

「いよいよだなぁ、健作!! 俺さぁ、沖縄初めてなんだ。超楽しみ。」
「あ、ああ・・・」
健作はどこか遠くを見つめているような顔をして、気のない返事をした。

「なんだ健作、心配事でもあるのか? 元気ないじゃないか。」
「・・・えっ、そんなこと無いよ・・・」
「あー、わかった。 典子さんのお父さんが迎えに来るって言うんで、緊張してるんだろう!」
「ち、違うよ。」健作は、ちょっとむくれたように返事をした。

「ははは、わかった、わかった。まぁそういうことにしておこう。」

そんな話しをしているうちに、「コン」という軽い振動が伝わると、逆噴射のゴォーというエンジンの響きとともに急減速した。
やがて機内は静寂を取り戻すと、機体は大きくカーブして誘導路を進み始めた。

窓の外に目をやると、海上保安庁、航空自衛隊の格納庫の前を通り過ぎて、ターミナルビルが見えてきた。
やがて機体は止まると、乗客たちは一斉に手荷物を降ろす為に立ち上がった。

通路側に座っていた健作は、ベルトを外して席を立つと頭上の荷物棚の蓋を開けて智子と健作の荷物を取り出して二人に渡した。

「健作さん、ありがとう。いよいよだね!!」智子は、元気の無い健作を励ますように声をかけたが、健作は相変わらず浮かない顔をしている。

「さぁ、行こうか。」健作は、足元から楽器ケースを取り上げると、出口へと向かった。
丁寧に挨拶をするキャビンアテンダントに見送られてボーディングブリッジへ一歩踏み出すと、一瞬にしてムッとした熱気に包まれる。

再び空調の効いた快適な空間に入ると、階段を降りて1階の手荷物受取所へ向かいベルトコンベアーの前に陣取った。

無口になってしまった健作に釣られて、修も智子も会話が少なくなってしまった。
やがてベルトコンベアーが動き出すと、健作は、何か思いつめたような顔をして、一心不乱に荷物が出てくるところを凝視している。

やがて三人の荷物が並んで出てくると、三人はそれぞれ取り上げた。

「為せば成る。為さねば成らぬ何事も・・・」とつぶやくと、健作は自分のほほをパンパンとはたいた。
修は、健作の背中をたたくと、
「はは、本番に強い健作君。どうだい、気持ちは落ち着いたかい!?」
振り返った健作の顔には、笑顔が戻っていた。

「さぁ、沖縄が僕達を呼んでいる!!」健作はそう叫ぶと颯爽と出口へと向かった。
健作の後ろでは修と智子が顔を見合わせて笑うと、後につづいた。

到着口の扉を抜けてロビーに出ると、正面で典子は手を振っている。
隣には、背が高くがっちりした男性が立っていた。
ビーサンを履いて、短パンにTシャツからはみ出した手足は、筋肉が盛り上がっている。
髪の毛は潮風で赤茶に焼けていた。

「あれ、典子さんにお兄さんはいたんだっけ?」
修は小さい声で智子にささやいた。
そこに典子は走り寄ってきた。
「健作さん、修さん、ともちゃん、メンソーレウチナー。これがうちの父の聡です。」といって、後ろからついてきた男性を紹介した。

「げっ、兄貴じゃなくてお父さん? 随分若いんだぁ!!」
修は智子にささやくと、智子も修にびっくりしたような目を向けた。

「皆さん、ようこそ沖縄へ。」真っ黒に日焼けした顔に、微笑むと白い歯が印象的だ。
聡は右手を差し出すと、健作も右手を差し出した。
がっしりした手で力強く握手をされて視線を向けられると、健作は心の底まで見透かされているような気になった。
健作は、そんな気持ちを振り払うように力強く握り返した。
「健作です。よろしくお願いします。」
「おっ、君が健作くんだね。典子から話は聞いてるよ。君の素晴らしいサックスを一度聴いてみたいものだ。」
「今回は、宿泊先をはじめ色々とお世話になりありがとうございます。機会があったら、俺のサックス是非きいてください。」
「ああ、そうさせてもらうよ。君が修君かな、よろしくね。」聡は修と握手した。
「私が智子です。今回はお世話になりますが、よろしくお願いします。」
智子は右手を差し出すと、聡は軽く握手した。
「智子さん、いつも典子が色々とお世話になって、ありがとう。
それじゃあ、荷物を車に積んで出発しようか。

一同は駐車場へと向かった。

 

今日は早朝から夕方までボーイスカウト講習会に奉仕していたため、皆様方のところにお邪魔できず、申し訳ありません。
講習会終了後は、12月2日に谷保天満宮で開催される旧車祭の申し込みなどがあり、66食房さんにお邪魔しました。
皆さん、よろしかったら、次のイベントは12月2日です。
100台以上のクラシックカーが勢ぞろいしますので、よろしかったらお越しください。


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学生街の四季 第2章《夏》 7 [学生街の四季]

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⇒学生街の四季 第2章《夏》 5 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 6

健作はボストンバッグと楽器のケースをそれぞれの手に持つと、浜松町から東京モノレールに乗り込んだ。
モノレールは、意外と振動が大きくよく揺れる。

 

やがてモノレールは、空港の南端をぐるっと回りこんで走っていく。

滑走路に目をやると離陸準備をしている旅客機が見える。
上空には、着陸態勢に入った小さい飛行機がまるでラジコンの飛行機のようにゆっくり飛んでいる。

「もっと見ていたい。」という気持ちも虚しく、モノレールは地下に潜ってしまう。

 

程なくしてモノレールは、終点の羽田空港第2ビル駅のホームへと滑り込んだ。

健作はモノレールを降りると、修と智子との待ち合わせ場所であるANAの出発カウンターへと長いエスカレーターに乗り込んだ。

 

時計を見ると、待ち合わせの時間に20分の余裕を持って到着した。
座る場所を探して辺りを見渡すと、遠くで手を振っている修の姿が見えた。

 

「健作、遅かったじゃないか!!

修は笑いながら健作の肩をたたいた。

「なんだ、お前こそ集合時間前にくるなんて、どういう風の吹き回しだよ。」

健作はそういうと笑った。
「智子さん、こんにちは。修がこんなに早くこれたのは、智子さんのお力ですね!!

智子は隣の修の顔を覗き込むと、健作の方を向いて笑いながら答えた。

「はい、もちろんです。」

 

修はちょっと頬を膨らませると、智子と健作の間に割って入ってきた。

「ところでさ、健作は京急で着たんだろ?

「いや、モノレールだよ。京急は景色がよくないし、空港の手前から地下に潜っちゃうだろ。

京急で来る方が早いかもしれないけど、モノレールは運河沿いの高いところを走るから、景色が好きなんだよね。

整備場駅を出るとちょこっと地下を走るけど、再び地上に出て空港の南端をぐるっと回るときに、飛行場の様子が良く見えるんだ。」

「なんだ、健作は『オコチャマ』っていうことだ!!

「そういうお前は、どっちできたんだ?!

「ははは、俺もお前と同じさ!!

3人は大笑いをした。

 

「さぁて、チェックインするか。」と健作は促すと、カウンターへ向かいチケットを三枚取り出すと、窓側から三席を取った。
「はい、それじゃあ窓側に智子さん、それから修、通路側が俺だ。」

というと健作はチケットを渡した。

 

3人はセキュリティーを抜けると、登場口の近くに座った。
登場開始までは、まだ30分ほど時間がある。

 

智子は席を立って何処かに歩み去ると、戻ってきたときには、トレーに紙製のカップを3つ乗せていた。

「はい、コーヒーをどうぞ。一足先に帰った典子はどうしてるのかしら?
「おっ、サンキュートモちゃん!」

「智子さん、ありがとう。

 さっきノリにメールしたら、空港で待っててくれるって!!
「あーよかった。空港出たら見知らぬところで三人どうやって宜野湾までいくのか心配だったんだ!!

「実はノリだけじゃなくて、ノリのお父さんがダイビングショップで使ってる送迎用のワンボックスカーで迎えに来てくれるんだって!」

「えっ、そうなんだ。なんか俺緊張しちゃうな。」

 

搭乗が始まると、飛行機に乗り込んでボストンバックなどを頭上にしまい、健作は楽器ケースを足元の前の座席の下に押し込んだ。
やがて飛行機は移動を開始し、誘導路から滑走路に入ると一気に加速した。

最初は背中に押し付けられていた身体は、やがて下に引っ張られるような感覚を覚えると、窓の外の地上はどんどん小さくなっていく。

14川上村.jpg

 

飛行機は、蒼穹の彼方へと吸い込まれていくように上昇を続けると、窓の外の空は真っ青に限りなく透き通っていた。


一ヶ月以上空いてしまいました。
季節はもう秋色に染まり始めていますね。

でも物語は、まだ夏真っ盛り!!
秋はもう少し先になりそうです。

秋には一度沖縄に行ってこようと画策していたのですが、先日キャンセルしてしまったのは既にお話したとおりです。

なので、しばらく沖縄の話しなのに沖縄の写真は・・・昔撮った写真の整理が悪くて、あまりお見せ出来るものは無いと思います。

さて、次回からはいよいよ沖縄の地で物語りは進みます。


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学生街の四季 第2章《夏》 6 [学生街の四季]

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一行は西武門につくと、広いテーブルについた。
ジョッキが配られると、みなは乾杯した。

「今日のチャックマンジョーネをフューチャーしたのはいいアイデアだったね。」
中村先生が話すと、すぐに渡邊先生が続いた。
「そうそう、なかでもLand of Make Believeは出色の出来だったよ。
あのトランペットは早苗さん・・・だったかな、彼女のトランペットも良かったが、健作君、君のアルトサックスは最高だったよ。」

「えっ、そうですか。いやー、大御所の先生にそう言っていただけると、舞い上がっちゃいます。」
健作はちょっと顔を赤く染めたかに見えた。

美味しい料理と美味しいお酒、そして楽しい会話で、皆はすっかり打ち解けて時はどんどん過ぎていく。

話が一通り落ち着くと、健作はさっきから疑問に思っていたことを切り出した。
「ところで中村先生。今日はなんで渡邊先生とご一緒なんですか?」
「うん、実は前々から渡邊先生には、『将来有望な若者がいるよ。』っていう話をしていたんだ。
今日はたまたまにんじんのマスターのところに集まって打ち合わせをしていたんだが、早く終わってね。
それで、今日が君達のコンサートだってにんじんのマスターに言われて、みんなで聴きに来たわけさ。」

「そういうことだったんですね。それにしても私、渡邊先生が聴きにこられて・・・というよりも、あの日光でのご夫婦が、渡邊先生ご夫妻だったなんて、びっくりしちゃいました。」
と典子が日光でカメラのシャッターを押すのをお願いしたこと、渡邊先生ご夫妻が数十年振りの修学旅行をしていたことなどを、みんなに話した。

特に、渡邊先生の奥様との馴れ初めを知る者はなく、それを聞いた皆は一様に「へ~」と感動の声を漏らした

「ははは、こんどは私が照れる番かな。」
渡邊先生はくったくなく笑うと続けた。
「ところで健作君、今日にんじんのマスターと打ち合わせていたのは、沖縄での仕事の話しだったんだ。」

にんじんのマスターは外国訛りで話し始めた。
「そうなんで~す。私の友人が沖縄で興業のプロデューサーやってるんですけーど、夏休みにホテルや米軍のクラブで演奏してもらうために、アメリカからバンドを呼んでいたら、ドッタキャ~ンなんでーす。」

変な抑揚にみんなは笑い転げた。
中村先生が話しを続けた。
「そう、それでマスターから相談されて、渡邊先生とにんじんで話し合っていたのさ。
どうだい健作君、修君、夏休みを沖縄で過ごす気はないかね。」

思わず健作と典子は顔を見合わると、健作は改めて中村先生の方を見た。
「先生、実はノリは沖縄出身で、夏休みは帰省するんです。
もし俺も沖縄に行けるんだったら嬉しいなぁ。」

「修君はどうだい?」中村先生は修の方に顔を向けた。
「俺は就職も決まったからいいけど・・・」
修は元気なく語尾が聞き取れなかった。
「どうしたんだい、修君! 嫌かね?」渡邊先生は、心配そうに修の顔を覗き込んだ。

修は智子の顔を見つめると、再び中村先生の方に顔を向けた。
「あ、ぃゃ、その・・・ともちゃんが・・・」修は蚊の泣くような声でぼそぼそと答えた。
「あっ、智子君のことかね。
それじゃあどうだろう、智子君と典子君さえ良ければ二人はマネージャーとして来ないかい?」
中村先生がそういうと、智子も典子も嬉しそうに「はい、よろしくおねがいします。」と答えた。

「わぉ、やったぜ!!」
急に元気になった修は大きな声で叫んだ。

ますます会話は弾み、夜も更けていった。

13夕日.jpg

 

本日から訪問を始めましたが、なにせ一週間もサボっていたので、なかなか思うように訪問も進みません。
徐々に追いついていきたいと思います。

学生街の四季もどんどん書いていかないと季節は夏を通り越してしまうので、今日は立山のお話を置いて学生街の四季をアップさせていただきました。
いよい第2章《夏》は舞台を沖縄へと移していきます。

先日アップした『駅員3の妄想』と学生街の四季は関係ありません。
あの話は、あくまで駅員3が見た夢の世界を書き下ろしただけです。

その後喉の調子は、一週間素晴らしい山の空気を吸ってきたせいか、痛みもとれてまずまずの調子です。

立秋もすぎて、夕方以降はちょっと空気の質が変わったように感じたのはわたしだけでしょうか?
まだまだ暑い日が続くと思いますが、皆様お身体にはご自愛くださいませ。


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駅員3の妄想 [学生街の四季]

夜8時を回ったというのに、西の空は茜色に染まっていて気温は27度を下らず蒸し暑い。
健作は、足早に県庁前を抜けると、左に折れて薄暗い小さな路地へと入っていった。
レインボーホテルの裏手の鬱蒼とした木々からは、うるさいようにセミの大合唱が鳴り響いている。

再び二中前の広い通りにでると、いつしかセミの大合唱は遠くに過ぎ去って車の行き交う音へと変わり、薄暮は街灯の灯りへと変わって、健作はほっと一息ついた。

しばらく大通りを歩くと健作は再び薄暗い路地へ入り、すぐ脇にある建物の階段を上り始めた。
階段の上をみあげると、コンクリートの壁にはヤモリがへばりついている。

鉄格子のはまった窓の並ぶ廊下を進むと、一番奥の錆の浮いた扉に向き合った。

「ただいま!!」
健作はそういいながら扉をあけると、柔らかな灯りが健作を包み込むのと同時に爽やかな声が返ってきた。

「けんちゃん、お帰りなさい!」
典子の明るい声が聞こえると、健作は思わず微笑んだ。

靴を脱ぐのももどかしく、カバンは玄関に放り出したまま、玄関脇のキッチンにいる典子の脇に立つと、典子は調理していてぬれた手を手ぬぐいで拭いながら振り向いた。

そこは、玄関を入るとすぐに4畳半ほどのダイニングキッチンがあり、その奥に6畳二間が続く古くて狭いアパートだった。

二人は向き合うと、唇と唇を合わせた。

「今日はけんちゃんの大好きなナス味噌だよ。ご飯はジューシーにしたから。」
「えっ、ホント!? それはうれしいな。何か手伝うよ!」
「ありがとう、でも大丈夫。もうすぐできちゃうから。先にシャワー浴びてきたら?」
「うん、じゃお言葉に甘えて、そうしようかな。」

健作はカバンを取り上げると、奥の居間に行って着ていた服を脱ぎ捨てると、タオルを取って風呂場へと向かった。
お湯のカランを回すと、外でポンッとボイラーが点火する音がして、ほどなく暖かいお湯が流れ出した。

湯温を調節して、ちょっと強めに出して背中に当てると、しばらくシャワーに打たせるに任せた。
今日一日の疲れが汗とともに流れ落ちて、典子の待つ我が家に無事帰れたことに嬉しさがこみ上げてきた。

風呂場からでると、典子がにっこり微笑みながらバスタオルを差し出した。
「おっ、サンキュー。」
健作はバスタオルで濡れた身体を拭うと着替えて、居間のテーブルの前に座った。

テーブルの上には、健作の大好物のナス味噌とジューシー、そしてイカ墨汁が並び、オリオンが2本並んでいた。

二人はオリオンのプルトップを開けると、プシュッと良い音がした。

「ハナハナハナ・・・」二人の楽しげな声は長三度でハモると、お互いに微笑んだ♪

二人は缶を合わせると、キュッと冷えたビールを、喉の奥に流し込むと、口の中から鼻に抜けるホップの香りが爽やかさを醸し出す。

開け放たれた窓からはどこからか三線(サンシン)にあわせた歌声が流れてくる。

「けんちゃん、今日も一日お疲れ様でした。」
「う、うん、ノリだって今日一日働いて帰ってきて、晩御飯の支度までしてくれて大変だったね。」
「なんくるないさー、私はお仕事は定時で終わるしさ。」

健作は、ナス味噌を一口ほおばると甘すぎもせず、辛すぎもせず絶妙の味加減に舌鼓をうった。
「ノリの作るナス味噌は、ゆうなんぎいのナス味噌より何倍も美味しいよ。」
「けんちゃんありがとう。けんちゃんが喜んでくれるの見ると、とっても幸せ感じちゃうな。」


・・・最近よく喋るお風呂と、よく喋るガスコンロを手に入れた駅員3が見た超リアルな総天然色の夢でした。

今日も真っ暗な玄関を開けると、昼間の熱気が蒸し風呂のようこもった家に入り、クーラーをつけて、お風呂掃除をしてお湯を張ると、もう晩御飯なんか作ってられません。

お風呂から出てきて、出来合いのものでビールをグビしてパソコンに向かい合うと、夜も更けていくのでした。

うちなー口が飛び出したりしてわからない部分があれば、お問い合わせくださいな[ウィンク][手(パー)]

DVC00469.jpg


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学生街の四季 第2章《夏》 5 [学生街の四季]

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中村先生は、初老の男性と健作の間に立った。
「健作君、こちらは編曲家の渡邊先生だ。」

「こんばんは、この前は日光でありがとうございました。」
健作は改めて渡邊先生と握手しなおした。
「いや、健作君こちらこそ。あの後素敵なドライブを楽しめたかね?」

中村先生は、ちょっと驚いたように二人の顔を交互に見比べた。
「なんだ、君たちは知り合いだったのか!?」

健作はちょっとテレながら中村先生に向かい合った。
「あ、いや、この前日光へドライブに行ったときに、東照宮でお会いしたんです。」

そこに修、智子、そして典子がやって来た。

典子は初老の男性を見止めると、すぐに誰だか分かったようだった。
「あら、先日はありがとうございました。」

「おー、あのときのお嬢さん、今日はまた一際お美しいねぇ。」というと、微笑んだ。 
「私は典子です。よろしくお願いします。」
典子は右手を差し出すと、渡邊先生はその手を両手で包み込むように、応えた。
中村先生の手は暖かく力強かった。
「私は渡邊です。改めてよろしく!!」

今までことの成り行きを見守っていたにんじんのマスターは、外国人らしい訛りで
「さてさて、皆さん、積もる話もあるだろうし、お腹も空いたろうし、晩御飯食べに行きましょう!!」

健作は、修、智子、典子を見渡すと一様に首を縦に振っているのを確認すると、口を開いた。
「ありがとうございます。それではご一緒させてください。
先生たちはどこか、行くあてはありますか?」

中村先生は、皆を見回した。
「さぁて、何処に行きましょうねぇ。今日はマスターのお店は臨時休業だし・・・
誰かアイデアはありますか?」

「先生!」健作は、その問いに応えた。
「今日は修たちと無国籍料理の西武門で打ち上げをしようと思っていたんです。
よろしかったら、みんなで行きませんか?」

「ほっほっほー、それはいいアイデアですね。
中村先生、マスター、いかがですか?」
渡邊先生は、嬉しそうに問いかけた。

マスターは中村先生に異論のないことを確かめると、
「それじゃあ皆さん、西武門にシュッパ~ツ!!」

 

 

今日はちょっとお疲れモードで、思うように筆が進まずかなりのショートストーリーで終わってしまいました。
今回書きたかったことは、もうちょっと先にあるのですが、それはまた次回にでも。

冒頭のJAYWALKの曲はあまりメジャーにならなかったのではないかと思いますが、中々いい曲ではないでしょうか。

写真は、物語とは全く関係ありません。
何か画像がないと寂しいなぁ・・・と思って、こんな画像をアップしました。

101防衛大学.jpg

さぁて、明日の夜は恒例となった勉強会です。
ここのところできる限り喉をいたわってきたのでだいぶ楽になりましたが、明日120分も話すのがちょっと不安です。

でも明日も70人近くの若者達が求めるものがあって自主的に集まるわけですから、そのニーズに応えなければなりません。

カッターは一人では漕げません。
また、たくさんいても皆の息が合わないと操船できません。
明日はみっちりカッターの漕ぎ方を特訓しましょう。


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学生街の四季 第2章《夏》 4 [学生街の四季]

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⇒学生街の四季 第2章《夏》 3

☆★☆★☆よろしければ上のYouTubeを聴きながらお読みください★☆★☆★

「さぁて、最後のチューニングだ。
B♭をくれるかな。」
健作はキーボードのタダシに向かって声をかけた。

皆が思い思いにチューニングすると、健作は大きく息を吸った。
「早苗、いいか!?」
「はいっ!!」
早苗は小さく、しかし力強く答えた。
健作はメンバーをぐるっと見渡すと、顔に緊張感が溢れている。
どんなに練習しても、最初の第一声は緊張するものだ。
「よしみんな、そろそろいこうか。
リハーサルは最高の出来だったぜ。
でも僕たちはプロじゃない。だから技術では負ける。
でも僕たちは誰にも負けないものを持っている。」

そういうと、健作は右の手のひらで胸を叩いた。
「そうさ、ハートは誰にも負けない。
さぁみんな、今日来てもらった人たちに心で感じてもらって、感動を持って還ってもらおう。」

メンバーは、健作の話に小さくうなずいた。
健作は、袖の係員に合図を送ると、客席は暗転して緞帳が音も無くゆっくり上がり始めた。

センターに健作と早苗が立つと、早苗にピンスポットが当たった。
早苗はそっと目を閉じると大きく深呼吸をして静かに優しく、しかし力強く吹き始めた。

Feel So Good の幕開けだ。
早苗の透き通るような素直な音色は、ワンフレーズで聴くものをひきつけた。

続いて健作にピンスポットが当たると、マイクを持って歌い始めた。
子守唄のように優しく歌い上げると、会場からは割れんばかりの拍手が沸き起こった。

「皆さんこんばんは、STARGAZER ORCHESTRAのコンサートにお越し頂き、ありがとうございました。」
会場からは拍手が沸き起こった。
一呼吸おくと健作は続けてた。
「さて、今日は Chuck Mangion をフューチャーしてお送りしたいと思います。
最初の曲は Feel So Good ! トランペットソロは早苗、ボーカルは私健作がお届けしました。

それでは、今年はオリンピックイヤーでもあることから、レイクプラシッドで開催された冬季五輪のテークソングであるGive It All をお聞きください・・・・」

曲を重ねる毎に盛り上がっていき、いつしか最後の曲になっていた。
「それでは、名残惜しいこのひと時の最後に Land of Make Believe です。
この曲も最初にボーカル入りの Feel So Good が大変受けたので、ボーカル入りでお届けします。
ボーカルは私が、トランペットソロは秀人が担当します。

 ⇒Land of Make Believe

曲が終わると、割れんばかりの拍手が鳴り止まなかった。
メンバーはみんな晴れ晴れとした顔をしていている。

礼をすると、一度下手の袖にみんなは引き上げたが、拍手は鳴り止まない。
「よし、みんなこれが本当に最後だ。高揚した気持ちを和らげて、静かな感動を持って還ってもらおう!!」
健作はメンバー皆に声をかけて、再び舞台へと上がった。

健作がマイクを取り上げてセンターに立つと、鳴り止まなかった拍手は水を打ったように静けさが訪れた。
「皆さん、ありがとう。
今宵ひと時、楽しんでいただいたことと思います。
アンコールのこの一曲で高揚した気持ちを和らげて、心地よくこの感動をお持ち帰りいただきたいと思います。
それでは、Bellavia お聴きください。」

bellavia3.jpg再び割れんばかりの拍手が起こった。
しばらく拍手は続いたが、緞帳が静かに下りると客席は明るくなった。

メンバーは控え室に引き上げると、ペットボトルの飲み物で疲れた喉を潤した。

「みんな、今日はお疲れ様でした。
最高の出来だったね。細かい点は、来週の月曜日に反省会をやって今回の演奏会の評価反省をしたいと思うが、ともかく今日はよかったよ。
特に早苗、オープニングのプレッシャーを跳ね返して、よくあんなに素晴らしい演奏してくれたね。」
早苗はチラッと秀人の顔を覗くと、すぐに健作の方に目を向けて頭を下げた。
「ありがとうございました。」

健作は嬉しそうにうなずくと続けた。
「Land of Make Believe の秀人も最高だったね。急な思いつきで、練習時間も取れない中、よくあそこまで仕上げてくれたよ。
正直言って、幕開けのボーカルは前から決めてたけど、『幕開けがボーカルいれたら、最後のトリだってボーカル入れたらいんじゃないか』なんて思いつきを、よくここまで頑張ってついてきてくれたね。
二人だけじゃない、みんなそれぞれの持ち場でベストを尽くしてくれたからこそ、こんな素晴らしいコンサートになったんだと思う。
さて、今日は遅いし楽器を片付けたら解散だ。」

それぞれ皆が楽器を片付けているとにんじんのマスターと中村先生が控え室に入ってきた。
「やぁ健作君、今日は素晴らしい出来だったね。」
そう声をかけてきた中村先生の後ろからもう一人の男性が現れて、右手を差し出した。

「健作君、今日の演奏は魂が揺さぶられたよ。」
健作は、手を差し出しながらどこかで会ったことがあるのに思い出せないもどかしさを感じながら握手した。
「あ、ありがとうございます。」
とその瞬間思い出した。
「あ、あなたはあの時の・・・」

・・・・・・つづく

写真は、僕がまだ20代でステージに上がっていた頃の写真です。
この頃は、いろいろな曲をやりましたが、Belavia は僕の十八番のうちの一曲でした。


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学生街の四季 第2章《夏》 3 [学生街の四季]

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早苗は部室を飛び出すと、扉の外にいた秀人の胸に飛び込むようにぶつかって、倒れるところを秀人に抱きかかえられた。
早苗は、そのまま秀人の腕の中で泣き崩れた。

早苗には、いつ果てるともしらない位の時間が過ぎたように感じたが、やがて秀人は優しく語りかけた。

「早苗ちゃん・・・・さぁ、行こう。」
秀人は優しく早苗の肩に手を回すと、歩き始めた。

「早苗ちゃん、ごめんな。
実は忘れ物を取りに戻ってきて、早苗ちゃんと部長の話しを聞いちゃったんだ。」
早苗はうつむいたまま身体を秀人に任せてゆっくり歩いていた。

秀人はポツリポツリと語った。
「早苗ちゃん実はね、僕も振られちゃったんだ。」
秀人は、早苗が一瞬肩をビクッと震わせたように感じた。

「僕さぁ、入学したときから一目ぼれって言うのかなぁ、とっても気になってる子がいたんだ。
その子のこと考えると、なんかこう・・・胸が切なくなってね。
その子が、この前ある男の人と楽しそうに歩いているのを見て、このまま黙って見てられないと思ってさ、『付き合ってくれ』って告白しちゃったんだよな。」
早苗はうつむいたまま歩き続けていた。

「・・・その結果は、あっさり振られちゃったよ。
その瞬間『奈落のそこに落ちる』っていうのはこのことかと思うくらい、目の前が真っ暗になっちゃった。」
秀人は歩みを止めると空を見上げて大きく深呼吸した。
この時季には珍しく満天の星空が広がっている。

「おっ、早苗ちゃんほらあれ!」といって秀人は空の一角を指差した。
「ほらほら見てご覧!  流れ星のように動いている光の点が見えるだろ!!」
早苗は秀人の指差した空を見上げると、光の点が目で追えるくらいのスピードで動いていくのが見えた。

2010.11.21 26.jpg「あれ人工衛星だぜ!!
宇宙って、果てしないよな。
振られて途方にくれていたときに星空を見上げて、思ったんだ。
『こんなちっぽけな地球に70億の人間が住んでいて、その半分が女性なんだから、きっとその中にはもっと自分にお似合いの素晴らしい女性がいるんだ。』ってね。
きっと、今回は神様がお前の探している伴侶じゃないよって教えてくれたんだ。
そう思ったら気が楽になってね。」

秀人は一筋の涙が流れ落ちたのを腕で拭うと続けた。
「人工衛星が飛んでいるのを見つけると、願いがかなうんだ。
さあ、向こうの山に消えてしまう前に、しっかりお願いしなくっちゃ!」

再び早苗の肩を抱き寄せると、街灯のともる人気の無い道に歩みを進めた。

「なぁ、振られたもの同士、ヤケ酒でも飲みに行かないか!?」
というと、早苗は小さくうなずいた。

しばらく二人は無言で歩いていたが、秀人が口を開いた。
「早苗ちゃんは何を願ったのかな?
僕はね、『早苗ちゃんが早く元気になって、今度のコンサートで素晴らしい演奏してくれますように。』って願ったよ!」

早苗は、思わず歩みを止めて秀人の顔を覗き込むと、ぎこちなく微笑えんで秀人の胸に顔をうずめた。
やがて小さな声でささやいた。
「秀人さん、ありがとう。」


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学生街の四季 第2章《夏》 2 [学生街の四季]

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⇒学生街の四季 第2章《夏》 1 

「Feels So Good はだいぶ形になってきたね。
今日の練習はこれくらいにしておこうか。」
健作は、椅子から立ち上がると、皆に告げた。

「あ、早苗はなんか用事あるのか?
よかったら、もう少しボーカルと合わせたいんだけどいいかな?」
「はい、分かりました。」と早苗は軽くうなずいた。

いつしか部室には練習を続けている健作と早苗の二人だけになっていた。
「早苗、この曲はこのコンサートの開幕の大事な曲だ。
今回のコンサートは、いきなり爆発するんじゃなくて、静かに夜が明けると、だんだん太陽が高くなっていくように盛り上がっていくんだ。
この夜明けの部分が一番大切なんだよ。
もっと歌って欲しい。でも力が入っちゃいけないよ。
目を閉じてご覧!! 遠くに薄暗く見えている山々に、音が吸い込まれていくような感じを思い描いて!!
さあ、もう一度やってみよう。肩の力を抜いて・・・そうそう、リラックス、リラックス。
ワン、ツー、スリー、フォー・・・」健作は、ささやくような声で合図を送った。

早苗は静かに目を閉じると吹き始めた。
ワンフレーズ終わると、健作のボーカルが後に続く。

「お疲れ様、だいぶ良くなってきたけど、もうちょっとだな。」
健作は、譜面から顔を上げると、そこには大粒の涙をためた早苗がいた。
涙声になった早苗は、
「先輩・・・」というのがやっとだった。
「ああ、分かってる。お前の気持ちは本当に嬉しいし、早苗には何でも応援したい。
でも、それは男女の仲ではなくて、このオーケストラの一員として、俺が部長として応援できることだけだ。」

「わ、分かりました・・・。 失礼します。」
そういい残すと、早苗は部室から走り去った。

2011.04.20 2.jpg

 

いかがでしたでしょうか。
ちょっとこのコンサートが成功するかどうか心配になってきましたね。

冒頭の『別れの予感』はテレサテンさんの大ヒット曲ですが、色々な方がカバーされています。
中でも、中森明菜さんのこの歌い方は、最高だと思い、今日の話の冒頭にもって来ました。

 


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学生街の四季 第2章《夏》 1 [学生街の四季]

学生街の四季1~22のリンクは、次のページからご覧ください。
⇒1~22のリンクページ

「今日も練習お疲れ様。」
部長の健作は立ち上がると、前にでて皆に向かって話し始めた。

「今度のコンサートの出だしは、Feels So Good でいこうと思うんだ。
夏らしくていいんじゃないかな。
ただ、オリジナルのカバーだと面白くないから、バラード調でボーカルの入ったので静かにスタートしたいんだ。
みんなどう思う?」

修が手を上げた。

「部長、ボーカルは誰がやるんだ?」

「ボーカルは、俺がやるよ。」
健作は答えると、みんなは「ほー・・・」と低く声をあげた。

健作は続けた。
「ボーカルの入ったFeels So Good のCDがあるから、次の練習までには譜面を配れるようにしておくよ。
トランペットのソロは早苗、やってくれるかな!
バラード調だから、早苗の素直で透き通るような音色が合うと思うんだ。」
下を見ていた早苗は一瞬はっとしたように背筋をのばして、うつむき加減に小さくうなずいた。

健作は、それを見ると続けた。
「外に質問は? じゃあ、今日はこれくらいにしておこう。」

「健作、久しぶりに西武門に行かないか!」
健作が楽器を片付けていると、修がやってきて声をかけた。
「そうだな、飯でも食っていくか!」

花3.2.jpg

二人は校門を出ると、駅の近くにある西武門へと向かって歩き始めた。
「なぁ健作、今度のコンサートのアレンジは大丈夫かい?」
「えっ、なんだ、大丈夫に決まってるだろう。
あと一曲、頭のFeels So Good を書けばおしまいさ。」

「違うよ。そういことじゃなくて、健作は就活どうしてるんだい?
俺さ、朝日銀行から内定もらったよ。
お前はどうなんだい?」

「ははは、俺はあんまり就職する気がなくて・・・真剣に就活には取り組んでないな。」
「まったく金持ちのお坊ちゃまときたひにゃ、しょうがないなぁ。 家業でも継ぐのかよ?」
「あ、いや・・・ただ漠然とだけど、このまま音楽の道に進みたいんだ。」

そうこう話しているうちに西武門に着くとカウベルを鳴らしながら木製の扉を開けて中に入った。

「いらっしゃいませ! あら、シュウちゃんに健作さん、こんばんは。」
智子が身に付けた白いエプロンが、まぶしいくらいはつらつとした声で出迎えてくれた。
「トモちゃん、俺いつものやつね。」と智子に言うと、唖然としている健作を残して奥の指定席に座った。

健作は、一瞬固まっていたが、「ああ・・・っ、智子さん、僕も修と同じものください!」
というと修の前に座るなり、修に訊いた。

「おい、お前いつから『シュウさん、トモちゃん』ていう間柄になったんだい?
「えっ、なんだい自分のこと棚に揚げといて!
トモちゃんから聞いたぜ、お前と典子さんだって、『ケンちゃん、ノリちゃん』じゃないか。」
というと笑った。

「ところで健作、さっき言ってたボーカルをお前がやるって話、お前がカラオケ上手いのは誰もが認めてるけど、コンサートで歌うなんて大丈夫かい?」

「ああ、CDを耳にたこができるくらい聴いてるから大丈夫だよ。
あとは、早苗のペットと息が合うかどうかだね。」

「その早苗のことだけどさぁ・・・」
と修は声を低くして話し始めた。
「ここのところ早苗は元気が無いようだけど、あいつ大丈夫かな?」
「ああ、早苗のことならちょっと心当たりがあるから、今度話してみるよ。」

そこへ智子がいつものやつ・・・南インド風ダールチキンカレーを持ってきた。
「智子さん、今度のコンサートも聴きに着てね。」
「はい、シュウちゃんから聞いてます。ノリと一緒に聴きに行きますね。」

「ねっ、ねっ、コンサートが終わったら、また皆でどこかに遊びに行こうよ。」
修が突然大きな声で割って入ってきた。

「ああ、そうだね。じゃあ、今度は修、お前何処に行くか考えろよ!」
「了解しやした、部長殿」といって修はおどけた敬礼をすると、智子と健作は大笑いした。


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学生街の四季 第2章《夏》 0 [学生街の四季]

学生街の四季1~22は次のリンクからご覧ください。
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今年の2月5日にふとしたきっかけがあって書き始めた学生街の四季 第1章《春》は、いかがでしたでしょうか?

未だ読んでないという方は、よろしければ上のリンクから、遡って1から見ていただくと、第2章の話が分かりやすいと思います。

第1章を書いているときは、多くの方から「フィクションなの? それとも実体験に基づいたノンフィクションなの?」とよく訊かれました。

実はこの小説を書き続けるうちに、何がフィクションで、何がノンフィクションなのか自分自身でわけが分からなくなってしまいました。

今同じ質問を受けたら、答えは「これはすべてノンフィクションです。」と答えるでしょう。
学生街の四季に書いていることは、全て僕の中では実体験なんです。

さて、いよいよ第2章《夏》の開幕です。
第2章の途中から舞台を沖縄に移して物語りは展開します。

公私ともに多忙を極める中、今第2章《夏》を書き始めなければ、《夏》を《秋》に書き始めては洒落にならないと、筆を取り・・・いやキーボードをたたき始めました。

第2章《夏》を書き始めるに先立って第1章《春》を読み返してみると、色々書き直したいところなどが出てきました。
第2章を読んで、「あれ、第1章と違うよ。」と言うことが出てくるかもしれませんが、第1章を書き直すことがあれば、そのときには修正したいと思います。

最後に物語のメーキングストーリーを一つ。
ある方から「主人公の名前は、何故健作なのか?」ということを訊かれた事があります。

実は学生時代によく「駅員3は『健作』・・・今は何処かの県の知事をしているようですが・・・に似てるよ。」といわれたので、物語の主人公を『健作』としたのでした。(本物の健作さん、ゴメンナサイ(^^;っっ)

次の写真は、健作と典子・・・ではありませんが、学生時代にインドネシアを放浪したときのものです。

インドネシア4.jpg

それでは皆さん、健作と典子の関係は進展するのか、それとも・・・どうなるのか、ご期待ください。


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学生街の四季 22 [学生街の四季]

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⇒学生街の四季21

健作は、林道がちょっと開けて広場のようになっているところに車を止めて、イグニッションを切った。 
「さぁ、ここで車を降りるよ。」
「えっ、湖はここからは見えませんが・・・」
「この先のちょっと歩いたところにあるんだけど、ここからは見えないんだ。
小さな川を越えた先が西ノ湖だよ。」

健作は車の後部座席から、バスケットと楽器のケースを取り出した。
「あら、健作さん楽器も持っていくんですか?」
「うん、せっかくだからこんな大自然の中で吹いたら気持ち良いだろう!」

二人は西ノ湖を目指して歩き始めた。
「西ノ湖は、太古の昔は中禅寺湖と一つの湖だったんだよ。
ところが堆積した土砂がいつしか林になって、中禅寺湖と西ノ湖が分離されたんだ。
782年(天応2年)に、日光山の開祖である勝道上人が男体山の登頂に成功したときに、中禅寺湖、湯ノ湖とともに発見されたんだって。後にその話を空海が書き残しているんだよ。」
「さすが健作さん、それも一夜漬けですか?」
「ピンポーン、あたり」と答えると、二人は笑った。

小さな清流にかかった丸太の橋を渡って、少し進むと突然視界が広がった。
「わー、凄いです。
この湖の色は・・・そう、まるでエメラルドグリーンですね。
透明感のある深い緑色。周りには何も無くて、誰もいないし静寂そのものです。」
「この神秘的な湖はお天気や太陽の光の当たり方によって、様々な表情を見せてくれるんだ。」

健作は、シートを取り出すと、砂浜の上に広げてバスケットと楽器を置くと、二人は座った。

「この森の爽やかな香りは、熱帯雨林の沖縄では味わえません。なんて清々しいんでしょう。
健作さん、お昼どうしますか?」
「そうだね、今日は朝早かったからお腹空いたね。
頂こうかな!!」
「はい、じゃあこのお手拭使ってください。」
典子はお手拭を取り出すと健作に渡して、バスケットからお弁当を取り出して並べた。
「はい健作さん、まずはこのおにぎりをどうぞ。」
「えっ、これがおにぎり・・・なんか握りずしの馬鹿でかいものみたいだけど、上に載っているのは何なの?」
「これは、ご飯を握った上にふりかけをかけて、薄焼きたまごを載せた上に軽く炒めたランチョンミートを載せて、海苔の帯を巻いたものです。」
「ランチョンミート・・・???  ・・・って何?」
「豚肉の缶詰です。沖縄では、このまま炒めたものを食べたり、チャンプルーに入れたり、色々な料理に使われます。」
「へ~、どれどれ・・・ん、美味しい。これは初めての味だけど、最高だね。また食べたいなぁ。」
「いつでも作って差し上げますよ。
次は、これをどうぞ。フーちゃんです。」
「えええっ??? フーちゃん・・・またまた分けのわからないものが出てきた。
これは野菜炒めかな。」
「『フーちゃん』は、『フーチャンプルー』を短く言ったものです。『フー』は、お味噌汁なんかに入れる『お麩』のことで、豚肉、ニラ、にんじん、もやし、車麩、卵を炒めたものです。
ゴーヤチャンプルーを作ろうかとも思ったんですけど、ゴーヤがお好きかどうか判らなかったので、これにしました。」
「あ、俺ゴーヤは大丈夫、好きだよ。
どれどれ、いただいてみますか。」

健作は、一口ほおばると、にこっと笑った。
「これも美味しい。沖縄料理ってこんなに美味しいものだったんだね。」
「ありがとうございます。ゴーヤはお好きだったんですね。じゃあ今度はゴーヤチャンプルーをお作りしますね。
このフーちゃんにこれをかけるとまた味がぐっと変わるんですよ。」
典子は小さな小瓶を取り出して栓を開けると健作に手渡した。

健作は受け取ると香りをかいだりしたが、フーちゃんに一振り、二振りすると、恐る恐る口に入れた。
「え"っ、こっ、これはなんと深みのあるピリ辛な味に変化したんだろう。
まるで手品みたい。」
「これは泡盛に島唐辛子を漬け込んだもので、『こーれーぐすー』って言うんです。」
「なんと、これははまるよ。
あれ、これはなんの天ぷらかな?」
「これは『島らっきょ』を沖縄風の衣をつけて揚げたものです。
シママースをつけて食べてみてください。」
「ははは、知らないものばっかり出てくるけど、なんか異国に行ったみたい。」
「あっ、ごめんなさい。『シママース』は沖縄で作られた『塩』のことです。」

沖縄の話で盛り上がって、楽しい食事は続いた。

「いやー、沖縄の人がうらやましくなっちゃったよ。」
「えっ、何でですか?」
「何でって、こんな美味しいものを毎日食べられるなんて幸せ者だなって思ってさ。」
「健作さん、面白いことを言いますね。最近は東京でも沖縄の食材は手に入ります。
もっとも、かなり割高ですけどね。
沖縄ではランチョンミートなんか特売日に近くのスーパーに行くと、一缶198円で売ってるのに、こちらのスーパーでは一缶500~600円もするんですよ。だからいろいろなものを実家から送ってもらってます。」
「なるほど、沖縄から送ってもらわないと、こんな素敵なお弁当作れないよね。
典子さんありがとう・・・」
「あっ、健作さん、『のりこ』でかまいません。」
「えっ、ああ、それじゃあ・・・『ノリちゃん』で良いかな?
でも、交換条件だよ。ノリちゃんは、俺には敬語は使わない。
どう?!」
「は、はい、わかりまし・・・あ、あの、努力しますっ。」
「ははは、ボチボチね。
ところで典子さん・・・あいやノリちゃん、さっきは車の中で、とっても素敵な曲をありがとう。
あの歌詞にはジンときちゃったね。
今度は俺からノリちゃんに一曲贈らせてもらうよ。」
と言うと、健作はアルトサックスをケースから取り出すと、立ち上がった。

Once in your life you will find her

Someone that turns your heart around

And next thing you know

You’re closing down the town

Wake up and it’s still with you

Even though you left her way cross town

Wonderin’ to yourself

Hey what have I found

 

When you get caught

Between the moon and New York City

I know it’s crazy but it’s true

If you get caught

Between the moon and New York City

The best that you can do

The best that you can do

Is fall in love

 

Arthur, he dose as he pleases

All of his life his master’s toys

 

And deep in his heart he’s just

He’s just a boy

Living his life one day at a time

He’s showing himself a pretty good time

He’s laughing about the way

They want him to be

 

When you get caught

Between the moon and New York City

I know it’s crazy but it’s true

If you get caught

Between the moon and New York City

The best that you can do

The best that you can do

Is fall in love


誰もいない静かな湖畔に健作のアルトサックスは New York City Serenade を奏でると、典子はうっすら涙を浮かべながら健作の演奏に合わせて口ずさんでいた。

Between the moon and New York City

The best that you can do

The best that you can do

Is fall in love

第一章『春』・・・完

・・・・・~~☆~~☆~~☆~~・・・・・

健作と典子の出会いの章『春』は、これにて完了です。
見ず知らずの二人が出会い、いつしか二人の距離はぐっと縮まっていくまでをお届けしました。
次回からは、第二章『夏』が始まります。
文字通り暑くて『熱い』夏の始まりです。二人の関係は、進展するのか、早苗は、秀人は・・・そして修と智子のカップルはどうなるのか、請うご期待!!


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学生街の四季 21 [学生街の四季]

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健作と典子は華厳の滝、龍頭の滝を廻り、車は国道からそれて林道へと乗り入れた。 

「華厳の滝は、すごい迫力でしたね。でも滝よりもエレベーターを降りてトンネルを歩くのがちょっと怖かったかな。」
典子は、運転する健作を気遣うように見つめて話をしていた。
「うん、そうだね。トンネルは白く塗られて照明も明るかったけど、なんかちょっと普通じゃない何かを感じたね。
でも、あの観瀑台に行くエレベーターが1930年に完成したというから、今から80年以上も前に作られたことを考えると、今とちょっと違う雰囲気があってもおかしくないかな。」
「そうかもしれませんね。トンネルの途中に慰霊碑があったりして、やっぱり何か感じちゃいました。
龍頭の滝も中々のものでしたね。きっと紅葉の頃に来たら最高なんでしょうね。
健作さん、あの・・・このCDかけてもらっても良いですか?」
典子は、かばんの中から一枚のCD-ROMを取り出すと、健作は車を路肩に寄せて停めるとイグニッションを切った。

「ああ、いいよ。なんの曲かな?」
「へへ、キイテカラノオタノシミです。走りながら聞いていただければ良いですよ。」
「いや、せっかく典子さんが持ってきたCDだから、集中して聴きたいな。」

健作は典子からCD-ROMを受け取るとカーステレをに入れて、シートの背もたれを少し倒した。

I heard he sang a good song,

I heard he had a style.

And so I came to see him to listen for a while.

And there he was this young boy, a stranger to my eyes.

Strumming my pain with his fingers,

Singing my life with his words,

Killing me softly with his song,

Killing me softly with his song,

Telling my whole life with his words.

Killing me softly with his song,

 

I felt all flushed with fever, embarrassed by the crowd,

I felt he found my letters and read each one out loud.

I prayed that he would finish but he just kept right on,

Strumming my pain with his fingers,

Singing my life with his words,

Killing me softly with his song,

Killing me softly with his song,

Telling my whole life with his words,

Killing me softly,

 

He sang as if he knew me in all my dark despair.

And then he looked right though me as if I wasn’t there.

But he was there, this stranger, singing clear and loud,

Strumming my pain with his fingers,

Singing my life with his words,

Killing me softly with his song,

Killing me softly with his song,

Telling my whole life with his words,

Killing me softly with his song,

健作は、じっと目をつぶって曲に聞き入っていた。
典子はどこか遠くを見ているような眼差しで正面を見ている。

やがて曲はフェイドアウトすると、森からは鳥のさえずりがかすかに聞こえてくる以外は静寂が訪れた。
数分も過ぎただろうか、健作が口を開いた。

「この曲はRoberta Flack の『やさしく歌って』だね。
大好きな曲の一つだけど、このCDはRoberta Flack じゃないね。」
「はい、これはAnne Murray が歌ってます。」

健作は典子を見つめると、典子は顔を赤らめると恥ずかしそうに下を向いた。
健作は、シートを戻してエンジンをかけると、車を走らせた。

「典子さん、もう一度『やさしく歌って』を聴いても良いかな?」
「はい、どのボタンを押せば良いですか?」
「あ、そこの丸い大きなダイヤルの下のボタン・・・」
再び、曲は流れ始めた。

・・・つづく

先日もお知らせしたとおり、現在西ノ湖へ通じる林道は一般車両は通行止めとなっています。
小田代ヶ原まではハイブリッドの路線バスで行くことが出来ますが、西ノ湖までは、徒歩で行くしかありません。
まぁ小説ですから、気にせず書き進めます。

通行禁止になる以前は、たまに出かけました。

もう少し先までお話しを書きたかったのですが、今日は帰宅が遅くなり時間もなく、ちょっとロキソニンを飲みすぎた胃が悲鳴を上げているので、これくらいにして休ませていただきます。

昨日途中まで書いたお話は、今日書いたものとは全く違った場面でした。
昨日途中でパソコンがダウンしてしまったおかげで、お話しを今日一日じっくり再構築することが出来ました。
まぁ、ケガの功名といったところでしょうか。

典子の思いの詰まった曲を聴いた健作は、その思いにどう答えるのか・・・請うご期待(^_-)☆!!


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学生街の四季 20 [学生街の四季]

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「健作さん、今のご夫婦、とっても素敵でしたね。」
「そうだね。幼馴染が結婚するってちょっと想像付かなかったけど、意外と良いもんかもしれないね。」

二人は陽明門をくぐると、本殿へと向かって歩いていた。

「あら、健作さん、そんな幼馴染がいらっしゃるんですか?」
「ははは、いない、いない。そういう典子さんはどうなんだい?」

典子は立ち止まると、ほっぺたを膨らませて、健作をにらみつけた。

「私もそんな人いませんでした。」
というと、健作の手をぎゅっと握った。

「おっとごめん、ごめん。ちょっと聞いてみただけ。」
「あら、お互い様でしたね、ゴメンナサイ。」

どちらからともなく笑い出すと、再び歩き始めた。

「さっきのご主人、どこかで会った・・・いや見たことがあるような・・・なんか喉まで出掛かってるんだけど。
喉に魚の小骨がひっかかって取れないようなもどかしさなんだ。」
「お知り合いだったら、あちらの方も気がついたでしょうから、お知り合いというほどじゃないのかもしれませんね。」
「そうだね。・・・まぁそのうち思い出すかな。
おっ、あそこ見てご覧。」
典子は、健作が指差すほうを見上げると、嬉しそうな声をあげた。

「あっ、眠り猫ですね。」
「うん、左甚五郎作の眠り猫。国宝だよ。
ここら辺にある建物はすべて国宝か重要文化財なんだよ。」
「復元された首里城も、素晴らしい彫刻で一杯ですが、回廊の彫刻なんかホントに見事ですね。」
「首里城かぁ・・・また沖縄で行ってみたいところが増えちゃった。」
「はいはい、健作さんの行きたいところは何処でもご案内します。」
「じゃ、よろしくお願いします。」
健作は、仰々しく芝居じみた格好をして頭を下げた。

「さて、これから華厳の滝に行こうか。」
「これからいろは坂を登るんですね。楽しみです。」
「まだじっくり東照宮をはじめ周辺を散策しても良いんだけど、目的地はもっと先なんで、今日は東照宮はさわりだけね。」
「これだけたくさん素晴らしいものを見たら、満足です。
ところで、モクテキチ・・・ってどこなんですか?」
「それはね、・・・ヒ・・・ミ・・・ツ!!」
「え~、じらさないで教えてください。」
典子は健作の行く手を塞ぐように立ちはだかると、健作の顔を覗きこんだ。
「わかった、わかった。」
健作は直立不動の姿勢で『気をつけ』をすると、
「それでは発表します。
これからの予定です。いろは坂を登って華厳の滝を鑑賞した後は、中禅寺湖沿いに進み龍頭の滝を見学します。
そして、戦場ヶ原の南端の林道を通って小田代ガ原を抜けると、中禅寺湖の奥にある西ノ湖にでます。
そこが目的地であります。以上!」
「健作さん、了解しました。」
典子はおもちぉの兵隊さんのように敬礼すると健作の腕に自分の手を絡ませて、歩き始めた。

・・・つづく

昨日の記事には多くのniceとコメントありがとうございました。
ナイアガラは祐天寺駅すぐそばにあるカレーレストランです。
私はそこの厨房に不定期的に乗務しています。

「・・・ん、乗務?!」
はい、乗務です。その理由は、お越しいただければすぐにわかります。

今日の賄いは最近定番になりつつあるキーマカレーにナスとポテトを軽く素揚げして軽く塩をふったものをキーマカレーの上に乗せてみました。

キーマカレー.jpg

今日はこのカレーを食べた以外は10時から19時まで厨房に立ち尽くしていました。
さて、明日も早いのでここら辺で失礼します。


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学生街の四季 19 [学生街の四季]

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二人は車を降りると、杉木立の間を拝殿の方へと向かって歩き始めた。
「私が沖縄から出てきて最初に驚いたのは、4月から5月にかけての山々の新緑の鮮やかさでした。
沖縄では、この清々しい新緑の季節感がありません。」
「俺は沖縄に行ったことないからよく判らないけど、新緑の季節は大好きだよ。」
「沖縄は、季節感っていうと夏と冬の二つで、その中間の春と秋ははまり感じません・・・
あっ、五重塔だ。」
「沖縄には五重塔は無いの?」
「沖縄には・・・神社はありますが、古いお寺は・・・そう、那覇市内に崇元寺っていう臨済宗のお寺さんの跡があります。
たしか16世紀にたてられたものが、沖縄戦で焼失して、城壁のような石門が残ってるだけなんですよ。
ちょっと内地のお寺さんとイメージとは違うかなぁ。」
「へー、そうなんだ。沖縄に行ってみたいところがまた増えちゃった!」
「是非いらしてくださいな。大歓迎します。」
「そうだね・・・あっ、ここ、ここ。ちょっとあそこ見てご覧!」
健作は、立ち止まると軒先を指差した。

典子は、見上げるとしばらく見回していたが、やがて一点を見つめると、嬉しそうな声をあげた。
「あっ、写真でみたことあります。『見ざる、言わざる、聞かざる。』ですね。」
「うん、三猿って言うんだ。これ日本が起源だと思っている人が多いけど、古代エジプトにもあって、シルクロードで中国を経由して日本に伝わったって言う説もあるんだよ。実際、世界各地にこの三猿の伝承があるんだ。」
「へー、そうなんですか。私はここ日光の三猿が起源だと思ってました。健作さん、何でも知ってるんですね。」
「ははは、これも夕べちょっと調べた付け焼刃だよ。」

32花.jpg健作は、付け焼刃の東照宮の由来など話すうちに、陽明門の前までやってきた。
「典子さん、ほらあそこ。あれが陽明門だよ。」
「うわー、すごいきらびやかですね。これが何百年も前につくられたなんて信じられない。」
「そうだ、陽明門の前で記念写真を撮ろうか!」
と健作は言うと、近くにいた老夫婦に話しかけた。
「あのー、すいませんシャッター押していただけますか?」
「ああ良いよ。」と夫の方がカメラを受け取った。
「シャッター押すだけで良いのかい?」

「はい、お願いします。
それじゃ典子さんここが良いかな。」
二人は階段の前にならんだ。

「はい、チーズ。」といって夫はシャッターを押すと、妻はカメラを覗き込んだ。
「まー、仲良く取れてるわ。あなた達、どちらからいらしたの?」

「はい、私達は東京から来ました。
おじさま、おばさまはどちらからいらっしゃったんですか?」
「あら、奇遇ね。私達も東京から来たのよ。」
と妻が答えると、夫が後を継いで答えた。
「私達は小学校の同級生でね。昔小学校の修学旅行で日光に来たのさ。」
「そうそう、もう60年も前のことでしたね、あなた。」
「ははは、その修学旅行を二人でやり直しているのさ。
修学旅行の時期がインフルエンザの流行った直後で、クラスでかからなかったのは私だけ。
ところが、修学旅行の朝からなんか調子が悪くなり始めて、無理して参加したんだけど結局宿に直行して、修学旅行中ずっと宿で寝て過ごすことになってね。その時宿に残って面倒見てくれたのが、学級委員だったこいつなんだ。」
「あなたは、39度近い熱をだしてうんうんうなっていたのに、修学旅行が終わって帰るときには、熱も平熱に戻って、いったい何しに日光に来たのか判りませんでしたね。」
老夫婦は、顔を見合わせると、にこやかに笑った。

「あら、とっても素敵な馴れ初めですね。」
典子は感動したように老夫婦をみつめた。
妻は典子のそんな視線を感じると微笑んだ。
「あなた達は、恋人同士なの?」
「あ、いや、僕達は友達同士です。」
と健作は答えると、夫は言った。
「そうかい、お二人ともとてもよくお似合いだよ。
これから山あり、谷あり、決して平坦じゃないだろうけど、自分の心にうそをつかずに真っ直ぐに生きていくんだよ。」
「あなた、ちょっと。」といって妻は夫の手を握った。
「おっと、説教じみたこと言って悪かったね。年寄りの悪い癖だ。
それじゃあ、お二人さん、またどこかでお会いしましょう。」
「はい、ありがとうございました。」と健作は言うと、二人は深々と頭を下げた。

老夫婦は腕を組むと、ゆっくり去っていった。
老夫婦の後姿を見送った二人はどちらとも無く手を繋ぐと、陽明門に続く階段を上り始めた。

・・・つづく

日曜日の登山は、私にとってはちょっと無茶なペースだったことから、ちょっと足が筋肉痛になっています。
めったに筋肉痛にはならないのですが・・・おっと、筋肉痛になるほど運動してないのかも(^^;っっ

冒頭の曲はオリジナルではなくて、本田路津子さんのものです。
この素晴らしい歌唱力は感動的でさえあります。
オリジナルバージョンとはまた一味違った『あの素晴らしい愛をもう一度』をお楽しみください。


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学生街の四季 雑感2 [学生街の四季]

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2012.04.19日比谷公園シャガ2.jpg昨晩の記事には、多くのコメントをいただきありがとうございました。
ちょっと重たいお話で大変申し訳ありませんでした。

ちょっと可愛らしいチャックマンジョーネの曲を冒頭に持ってきたので、ぜひBGMに流しながら読んでいただければと思います。

色々暗い話題の多い中、この『学生街の四季』は、明るく爽やかな物語にしていきたいと思っています。

エンディングも考え付かないまま、凍てつくような寒さの日々が続く中で書き始めたこの小説は、何時しか桜の咲く季節を迎えて第一章『春』が終わろうとしています。

ある方との会話から物語のエンディングが天啓を頂いたようにひらめき、あとはそのエンディングに向けて、どう話しを繋いでいくか悩ましいところです。

今後、物語は第二章『夏』へと突入します。沖縄を舞台に移して、どのような話が展開されるかご期待ください。
その後第三章『秋』、第四章『冬』と続いて、最終章はある海外の都市を舞台に考えています。

(写真は、4月18日早朝日比谷公園の朝日に輝くシャガを携帯で撮ったものです。) 


今月に入って静岡まで出かけましたが、その際とても多くの方との素晴らしい出会いがありました。
そのときに感じたことは、人は皆それぞれ様々な『業』を抱えて生きているが、それを乗り越えて人生とひたむきに向かい合っているからこそ、友との語らいを心のそこから楽しみ、笑うことが出来るのだと。

2012.04.19日比谷公園シャガ1.jpg

そんな人生って素晴らしいですね。
私の目の前には、いくつか越えなければいけない山がありますが、巻き道を通るのではなく正面からぶつかって乗り越えて行きたいと思います。

きっとその先には友と美味しいお酒を酌み交わし、心のそこから楽しみ、語らえる時が待っているでしょう。

2012.04.19日比谷公園シャガ3.jpg


学生街の四季 18 [学生街の四季]

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軽快なChuck Mangione の心地よい響きを聞きながら、車は東北道を北上していた。

「あら、この曲可愛らしいですね。」
カーステレオからは、ピッコロソロの曲が流れだした。
「ああ、これね。『I've Never Missed Someone Before』っていう曲だよ。」
「『私は今まで誰もいなくても寂しくなかった・・・』ですか?」
「うん、そんな感じかな。この曲は色々なバージョンがあって、もっとアップテンポのもあるけど、これくらいだとチークタイムに良いかもしれないね。」
「なんか、高原の静かな夜明けの清々しい空気を感じますね。」
「そうだね~。これから夜が明けてこようとする直前のような感じがするね。
この曲をBGMに、モーニングコーヒーを飲みながら太陽が昇ってくるのを眺めていたいなぁ・・・。」
「健作さんって、ロマンティストなんですね。」

春爛漫.jpg

「ははは、そうかなぁ。」
「ええ、そう思います。
ところで健作さん、健作さんは今まで誰もいなかった・・・お付き合いしていた人とかいないんですか。」
「え゛っ、あ、いや・・・」突然の典子の質問に、思わず健作はびっくりして息を呑んだ。
「あっ、ごめんなさい、ヘンナ質問して。」
「いや、いいんだよ。
今まで特定の人とお付き合いはしたこと無いよ。」
「ホントですか? よかったぁ。」
典子は思わず外の景色に目をやり、微笑んだ。
健作は、チラッとそんな典子に目をやると
「じゃあ、典子さんにも同じこと訊いていい?」と切り替えした。
典子は、運転する健作の方に向き直ると答えた。
「はい、私も今まで一対一でお付き合いしたことはありません。」
「そうなんだ、典子さんみたいな可愛らしい人が今まで一人だったなんて、奇跡だね。」
「I've Never Missed Someone Before.」と典子が答えると、二人は大笑いした。

「あっ、健作さん! 大きな川ですね。これはなんていう川ですか?」
「この川は『坂東太郎』っていうんだ。」
「えっ、『バンドウタロウ』・・・ですか。初めて聞きました。」
「ははは、この川は『利根川』だよ。『坂東太郎』は昔の人がつけた愛称さ。
次男、三男までいるんだよ。次男は『筑紫次郎』で筑後川のこと、三男は『四国三郎』って言って吉野川のことなんだ。」
「へ~、健作さんは何でも知ってるんですね。」

楽しい話は続くうちに東北道から日光宇都宮道路へと進み、日光インターで一般道に出た。
「この国道は、『日本ロマンチック街道』っていうんだよ。」
「えっ、日本にもロマンチック街道があったんですか。確かドイツにあったんじゃなかったかなぁ・・・」
「おっ、典子さんよく知ってるね。
そう、ドイツのロマンチック街道を真似して・・・というか姉妹提携して、日光から長野県の小諸まで230kmのルートを呼ぶようになったんだけど、日本で一番ロマンチックでドイツの風景に似ていることから、ドイツにあやかったらしいよ。」
「さすが健作さん、どうしてそんなことまで知ってるんですか?」
「ははは、種明かしをすると、夕べ地図を見ていたら『ロマンチック街道』って書いてあったから、ちょっと調べといただけだよ。」
「そうなんですか。でも興味を持って調べるところがすごいです。」

車は神橋の交差点を国道とは逆に右に曲がると、東照宮の裏手の駐車場に到着した。

・・・つづく

月曜日、火曜日と20代の若者たちと研修をしてきました。
この二日間、全身全霊を尽くして語り合ったので、ヘトヘト。
幸い参加者からは高い評価を頂き、一生懸命やらせていただいた甲斐があったというものです。

今日も少し早めに帰宅をしましたが、なんと京王線で乗り過ごしてしまいました。
『寝過ごして』しまったのではありません。『乗り過ごして』しまったんです。

研修の疲れに加えて、今日は非常に『重たいもの』を見学させていただいたためにちょっと悲しくなってしまい、色々なことを思い巡らせるうちに気がついたら、とっくのとうに降りる駅を過ぎていました。

そのお話は、また別にアップさせていただきます。


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学生街の四季 17 [学生街の四季]

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健作は梅ヶ丘北口駅前のロータリーに向かっていた。
カーステレオからは、Chuck Mangione の軽快な音楽が流れ出ている。

6時少し前に着くと、ロータリーの脇にあるコンビニの前で、典子は大きなバスケットを持って待っていた。

2012.04.04 3.jpg「典子さんおはよう!」
「健作さん、おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「いや、こちらこそ。
随分大きなバスケットだけど、ひょっとしてそれ全部お弁当?」
「はい。夕べ・・・っていうか、0時に作りました。」
「え~、そんな大変な思いさせちゃったんだ。悪いなぁ。
お弁当の後は、僕が美味しいコーヒーを入れてあげるよ。」
「えっ、お湯とかどうするんですか?」
「大丈夫、いつも車にアウトドアでコーヒー飲めるようにお茶セットを積んでるんだ。」
「へー、それは楽しみです。」
「まぁ、バスケットを後ろに置こうか。」
健作は、典子からバスケットを受け取ると、後部座席のドアを開けて、シートの上に置いた。
そして、助手席のドアを開けると、
「典子さん、どうぞ。」
「はい、おじゃまします。」
健作はドアを閉めると、運転席に乗り込んで、車を発進させた。

健作が乗り込むのを待っていたかのように、典子は口を開いた。
「健作さん、この車は健作さんのですか?
座席の位置が高いから、見晴らしが良くて気持ち良いですね。」
「このハイラックスは、僕のだよ。一生懸命バイトして、中古の安い奴を買ったんだ。」
「へー、とても素敵です・・・
あれ、この曲フルートソロが入ってますね。」
「これ、実は今日典子さんに聞かせたくて持ってきたんだけど、よく気がついたね。
Chuck Mangione の Bellavia っていう曲だよ。
もう一度最初から聞こうか!」
健作は、Play Back ボタンを押すと、最初からかけなおした。

2012.04.04 2.jpg曲が終わるまで、典子は静かに聞き入っていた。
健作は、車を環七から甲州街道を右折して、初台で首都高に乗った。

「いいですね、こんな曲私も吹けるようになりたいな。」
「大丈夫、典子さん練習熱心だから、すぐにふけるようになるよ。」
「はい、頑張って練習します。
ところで健作さん、今日は何処に向かってるんですか。」
「ははは、何処だと思う?
今どっち方面に走ってるか判るかな?」なんとなく北のほうに向かってるのは判りますが・・・何処だろう。
全く見当もつきません。」
「ピンポン、北に向かってるのは正解。ヒントは東京近郊に住んでる大部分の小学生は林間学校か、修学旅行で行くところだけど、沖縄出身の典子さんは多分行ったことないところ。」
「う~ん、健作さん降参です。教えてください。」
「目的地は、日光さ。」
「え~、そんな遠くに行くんですか?」
「いやいや、意外と近いんだよ。梅ヶ丘から日光東照宮まで160kmだよ。」
「へー、そうなんだ。行ったことないんで楽しみです。」

軽快な?Chuck Mangione の音楽に乗って、車は東北自動車道を北上した。

・・・つづく

4月3日の春嵐はすさまじい風が吹き荒れて、桜の花が散ってしまうのではないかと心配しましたが、4月4日早朝の出勤途上に日比谷公園の雲形池湖畔に行くと、無事咲き誇っていました。

2012.04.04 1.jpg

Chuck Mangione の Bellavia は、昔まだ私がバンドをやっていた頃の十八番でした。
練習に明け暮れたあの頃が懐かしく思い出されます。


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学生街の四季 16 [学生街の四季]

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「それじゃあ、いつものとおりロングトーンからはじめようか。
上のB♭から、半音づつ下がってきてね。」

春休みに入ってキャンバスは人気が少ない。
典子と、健作は、Stargazer Orchestra の部室でフルートの練習をしていた。

「そうそう、その調子。しっかり半音を感じて!
頭のてっぺんから出た音が、真っ直ぐに伸びていくよな気持ちで。
指に力が入ってるよ。もっと身体の力抜いて!」

「ふぅーっ!」
といって典子はフルートをおろすと一息ついた。
「力抜いて吹くってむつかしいですね。
ついつい力がはいっちゃって。」
「そうだね、力が入ると音が硬くなって響かなくなるんだ。
随分楽器が鳴るようになって来たよ。
力を抜くことを覚えたら、今度は腹筋でしっかり音を支えることを覚えようか。」
「はい、健作さん!」
「典子さん、ちょっと疲れただろう。
ちょっと一休みしようか。」
健作は、カバンからCDを取り出すと、部室にあるCDラジカセを出してきて、電源コードをコンセントに差し込んで電源を入れた。
「フルートと違うんだけど、これちょっと聞いてくれるかな?
Chuck Mangione の Feels So Good だよ。」
プレーボタンを押すと、トランペットよりも柔らかなフリューゲルホルンの音が飛び出してきた。
「伸ばした音がゆれることなくしっかり響いているだろう♪
音の響き方はフォルテでも、ピアノでも一緒だよ。」
「うわー、本当だ。伸ばした音がぜんぜんゆれてませんね。
でも、ビブラートがかかってるけど・・・健作さんのフルートも素敵なビブラートがかかってますね。」
「ビブラートは、腹筋を使って息をコントロールすることによって、音に微妙なアンジュレーションを作るんだ。
ちょっと立ってごらん!」

典子と健作は立ち上がると向かい合った。
「ろうそくを消すときに『ふっっ』と息を出すだろう。ちょっとやってごらん。」
典子はほほを膨らませて、『ふぅっ』と吹いた。
「ははは、それじゃあ火は消えないよ。ほほを膨らませちゃだめ。お腹の腹筋を使ってこうやるんだ。」
健作は、見本を示すように『ふっっ、ふっっ、ふっっ』と何回か続けた。
「これを『ふっっ』じゃなくて、『はっっ』で出来るようになったら、何回も続けてやると最後はビブラートになるんだ。
それじゃあ、ロングトーンの練習に加えて、息を出す練習もしようね。」
「う~ん、これちょっと難しいですね。」
「毎日練習してれば、そのうち出来るようになるよ。
それじゃあ、今日はこれくらいにしてちょっとお茶して帰ろうか。
今夜はにんじんでライブのお手伝いがあるんだ。」

20100723.jpg典子と健作は、スタバに入ってホットコーヒーを注文した。
店内は空いている。二人は、テラスに座った。
「典子さん、随分上達が早いよ。毎日練習してるんだろう!」
「はい、一日20分~30分ですけど。
せっかく大切な楽器をお預かりしたんだから、しっかり練習しないと。
いつか健作さんとデュオするのが目標です。」
「おっと、それじゃあもっと練習しなくちゃね。」
健作は、真顔で典子を見つめると、どちらともなく二人は笑い出した。

「今度のライブを今企画してるんだけど、前回はクラシックジャズだったから、今度はチャックマンジョーネをカバーしようと考えているんだ。それで、さっきチャックマンジョーネのCD持ってたんだよ。
ライブのときのアンコールのFeel So Good が好評だったから、その流れでやってみようと思ってるんだ。」
「やっぱり私はマンジョーネのフリューゲルホルンより、健作さんのフルートの方がしっくりきます。」
「えっ、ホント! 嬉しいねぇ。でも今回はフルートじゃなくて、うちの部員にフリューゲルホルンを吹いてもらおうとおもってるんだ。」
「へー、それは楽しみ。次のライブって何時ごろですか?」
「6月を予定してるんだけど・・・色々準備を考えるとぎりぎりだよ。」
「日にちが決まったら教えてくださいね。トモちゃんと一緒に聞きに行きますから。」
「もちろん、決まったらイの一番で知らせるよ。
ところでさぁ、典子さんは春休みに沖縄へ帰らなかったけど、どこかに行ったりする予定あるのかな。」
「ちょっとバイトに行くくらいで、特に予定はありません。」
「そっか、じゃあドライブにでも行こうか。」
典子は手にしていたコーヒーカップを置くと目を輝かせながら健作の方に顔を向けた。
「えっ、ホントですか。行きます、行きます。」
健作は、タブレットを取り出して日程を確認した。
「じゃあ、来週の木曜日あたりはどうかな?」
典子も手帳で日程を確認すると、にこっと微笑んだ。
「OKです。よろしくお願いします。」
「それじゃあ、木曜日の朝6時に駅まで迎えに行くよ。
6時じゃ早すぎる?」
「いいえ、大丈夫です。それで、何処に行くんですか?」
「何処に行こうか・・・典子さんは東京近郊はあまり行ったことないよね。
海は沖縄の綺麗な海に勝る景色のところはないし・・・
山方面かなぁ。」
「行く先はお任せします。あ、私がお昼用意していきますね。
健作さんは、何か食べられないものありますか?」
「ありがとう。特に、食べられないものは無いよ。
場所はちょっと考えてみるね。
それじゃあ、ボチボチ帰ろうか。」

・・・つづく

今日は強風が吹き荒れる中、雨が降ったり止んだりでしたが、開店前からお並び頂く状況でした。
さて、明日も早いのでここら辺でおやすみなさい。


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学生街の四季 15 [学生街の四季]

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「黒木! 」
秀人は、校門から出てきた典子を呼び止めた。

典子は立ち止まると振り返った。
「あら、秀人君じゃない。どうしたの?
今日はもう部活終わったの?」
「あ、ああその、黒木はだれか付き合ってる奴いるの?」
「えっ、なに言うのいきなり!」
典子は驚き、秀人の顔を覗き込んだ。
「あっ、いやごめん、その・・・俺と付き合ってくれないかな。」

しばらく無言で見つめ合うと、典子は口を開いた。
「秀人君、ごめんなさい。
私にはそういう気持ちはありません。それじゃ。」
と典子は言うと、駅へと向かって歩き始めた。

秀人は、返す言葉も無くただ典子の去っていく背中を見つめているだけだった。

2012.03.29.jpg

「こんばんは~」
智子のバイトしている西武門の木製の大きなドアを開けて中に入っていくと、中は比較的空いていた。
「いらっしゃいませ。」
張りのある大きな声で智子が声をかけた。
「やぁ、こんばんは。今日は一人なんだけど。」
「こんばんは、修さん。こちらへどうぞ。」

奥の窓際の席に案内されると、修はカバンからさっき健作から預かった封筒をとりだした。
「はいこれ。先日の城ヶ島の写真を健作がプリントしてくれたんだ。」
智子は封筒から写真を取り出すと、嬉しそうに見つめた。
「へー、なかなか上手く取れてますね。
今日はどうします?」
「ああ、いつもの奴お願いします。」
「はい、かしこまりました、オキャクサマ。」
智子は、ちょっとおどけてバカ丁寧に言うと、修にウインクして厨房に入っていった。

・・・つづく

この小説も、もう15回目を迎えることとなりました。
前回『もしも・・・』というifの世界のことを書いたら、皆さん意外とそれについての反響が大きくちょっとびっくりしました。
でも考えてみれば、皆さん誰でも『あの時、右ではなく左に行っていれば・・・』ということを考えるものなのですね。

ちょっとここに来て糸がもつれて、書きにくくなってしまいましたが、まぁ青春ドラマにはなんでもありと勝手に思って、楽しく書いています。
乗っているときはとても楽しく書けるのですが、ひとたび詰まるともう何をしてもいい言葉は浮かんできません。
そんなときはあっさりあきらめて、一旦筆をおくと不思議とアイデアが浮かんでくるものです。 

写真は、3月29日午前6時頃の日比谷公園の定点観測しているソメイヨシノの蕾です。
2010年のこの桜は、3月21日に花を咲かせました。
2011年は、3月31日に咲いています。
今年は私の当初の開花予想は、3月28日だったのですが、この調子だと4月に入った来週くらいかなぁと思います。


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学生街の四季 14 [学生街の四季]

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「あの、部長!」
健作は授業に向かおうとキャンパスを歩いていると、Stargazer Orchestra でトランペットを吹いている一年後輩の早苗が追いついてきて声をかけた。

「おう、早苗じゃないか。どうしたんだい?」
振り向くと、健作は答えた。
「えっと・・・」
早苗は一瞬言いよどんだが、すぐに意を決したかのように続けた。
「あの、今日部活終わってからでも少しお話しできませんか?
ちょっと相談したいことがあるんです。」
「どうしたんだい、急に・・・
今日は・・・バイトも無いから、いいよ。
じゃ、部活終わってからでもマックする?」
「はい、よろしくお願いします。私先にマックに行って待ってます。」
早苗は頭を下げると、走り去って行った。

シンガポール11.jpg健作は、授業が終わってグランド脇にあるプレハブの部室に行くと、ドラムスの音が部室から漏れてくる。
健作が部室に入ると、修の他に数名来ていた。
「おう修、お前今日は早いじゃん。」
「今日は最後の授業が休講だったんだよ。
一度家に帰ろうかとも思ったんだけど、図書館に行ってから部室に来て練習してたのさ。」
「ははは、雨が降らなきゃ良いけどな!
そうだ、この前の城ヶ島の写真プリントして来たぜ!」
健作はカバンから封筒を取り出すと、修に渡した。

「おっ、サンキュー!」
修はドラムセットから立ち上がって、健作のほうに歩いてきて受け取った。
嬉しそうに微笑みながら封筒から写真を取り出した。

「智子さんの笑顔が輝いてるじゃん、なぁ健作。」
「ああ、そうだな。それに比べて修は、目をまん丸にしてちょっとびっくりしたような顔してるじゃないか。」
健作が笑いながら言うと、修は頭をかきながら答えた。
「あっ、いや、その、あの時はだってびっくりしたんだよ。
だって急に・・・」

その時、秀人が修の脇から覗き込んできた。
「修先輩、あれ、海行ったんですか。良いですねぇ。
隣にいる人は先輩の彼女ですか?
あれ、これは・・・」
健作が渡した封筒には、修と智子のツーショットの他に、もう一枚食堂のおやじさんが撮ってくれた4人が写っている写真があった。
「あぁ、健作と俺と、智子さんと典子さんの4人で城ヶ島行ってきたんだよ。
タカアシガニ美味しかったぜ~」
修は自慢するように説明を始めた。
秀人は、それまでの元気が何処へ行ったのか、急に暗い顔になった。
「部長。すいません、今日の部活休ませていただきます。」
と言うと、部室から出て行ってしまった。
「えっ、俺なんか拙い事でもいったかなぁ・・・秀人どうしちゃったんだ?」
修は両手を挙げて肩をすくめた。
健作もわからないというよに首を振った。

「お疲れ様、今日はこれくらいにしておこう。
今次回のライブの企画中なんだけど、たたき台を作ったので、来週のミーティングで皆で話し合おう。
それじゃぁ、お疲れ様。」
健作が締めると、皆は楽器をしまい始めた。
「健作、今日智子さんとこのレストラン行かないか?」
「あ、悪いな。今日はちょっと早苗と話ししてくから、お前一人で行ってこいよ。
そうそう、これ智子さんの分。」
健作はそういうと、カバンの中からもう一つの封筒を取り出すと修に渡した。
「え、早苗ちゃんとなんの話だい?」
「いや、何か相談事でもあるみたいなんだ。」
「そうかい、じゃぁな。」
修は部室から出て行った。

健作は、マックに着くと店内を見渡した。
早苗は、客席の一番奥に座ってコーヒーを飲んでいる。
健作が入ってきたのを見つけると、早苗は手をあげた。

「ごめんね、待ったかな?」
「いえ、私も今来たばっかりです。」
早苗はうつむきかげんで答えた。
「なんか早苗、今日は元気ないなぁ。どうしたんだい。
今度のライブでは、早苗に頑張ってもらおうと考えてるんだ。
早苗は、フリューゲルは吹いたことあるかい?
この前のライブは、クラシックジャズだったから、今回はもうちょっと新しいのをやりたいんだ。
アンコールでやったチャックマンジョーネが好評だったから、次はマンジョーネでいくよ。
だから、早苗にはフリューゲルを吹いてもらおうと思ってるんだ。」
「ありがとうございます・・・」
早苗の語尾はだんだん小さくなってしぼんでしまった。
「早苗、どこか具合でも悪いんじゃないのか?」
健作は心配そうに早苗を覗き込むと、早苗は下を向いたまま首を振った。
「ところで相談ってなんだい?」

「あの、先輩!」
ちょっとの沈黙の後、早苗は急に顔を上げて健作の顔を見つめた。
「あの、私とお付き合いしてくれませんか。
それとも、あの・・・他にお付き合いしてる人いるんですか?
この前ライブに来られてた方は、先輩の彼女なんですか?」
一気にまくし立てると、早苗は下を向いてしまった。
「えっ、あっ、いゃ・・・急に言われても・・・」
健作は、びっくりしてしまい言葉が出てこなくなってしまった。

早苗は顔を上げると、大きな目をして健作を見つめた。
「先輩は私のこと嫌いですか?!」
「ちょっ、ちょっと待って、好きとか嫌いとかじゃなくて・・・
いきなり言われて、ちょっとびっくりしたんだ。」
「そ、そうですよね、ごめんなさい。
あの、お返事・・・いつでも良いです。私待ってます。
さよなら。」
と言うと、早苗は席を立ち小走りに店を出て行った。

今まで早苗の気持ちに気がつかなかった健作は、驚いたような顔をして早苗の後姿を無言で見送った。

・・・つづく

 

冒頭の『告白』は、色々考えたのですが、鈴木美和さんのものにしました。
告白と言えば竹内まりやさんのものが有名ですが、これも中々のものです。
特に間奏のアルトサックスが、感動的でさえあります。
まぁ、健作のほうが上手いと思いますが・・・

写真は、健作くらいの年齢でシンガポール大学に行ったときの写真です。
今振り返ると、この時代は書きかけのデッサンが描かれたキャンバスだったと思います。
無限の可能性の中から今につながる一本の糸をたどってきたわけですが、別の糸を手繰り寄せていたら・・・などと実現しなかった未来のことを想像したりするのは、オヤジになってきた証拠でしょうか?


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学生街の四季 13 [学生街の四季]

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「うまかったねー、タカアシガニ。
健作の言うとおり、ここにきて、このカニが食えて最高!
もう腹がはちきれそうだよ。」

4人は、海辺に面した食堂の窓際に面した座敷に座って、食卓を囲んでいた。

「私もこんな美味しいカニを食べたのは初めてかも!
ノリは、沖縄で美味しいカニ食べてたの?」
「沖縄ではこんな大きなカニはいないわよ。
生きてて良かった!・・・って思っちゃうくらい美味しかった!」
「皆に喜んでもらってここに来た甲斐があったね。」
健作は嬉しそうに言った。

そこに奥から食堂のオヤジさんが出て来た。
「どうだ、うまかっただろう。」
「はい、今みんなで『生きてて良かった!』って話してたんです。おれたち、オヤジさんの御蔭でこんなうまいもの食べさせてもらって最高です。」
と健作は言い、深々と頭を下げると、他の3人も健作にならって頭をさげた。

智子は、頭を上げると、
「こんな美味しいものなのに、スーパーとかで売ってるの見たことないです。
タラバガニとか、ズワイガニとかはよく売ってるのに何故なんですか?」
とオヤジさんに聞いた。
「ああ、タカアシガニは、ズワイとかタラバとちがって死ぬと不味くなるんだ。
食べる直前まで生簀で生かしておかなくちゃ美味しくないんだよ。
また、冷凍したものもだめだね。解凍するときに美味しさが解け出ちまうんだよ。」
「へ~、だから東京では売ってないんだ。食べたくなったらここまで来て、オヤジさんに頼んで茹でてもらわなくちゃならないんだね。」
修は感心したように言った。
オヤジさんは、にこやかに笑った。
「ははは、これは茹でたんじゃないんだよ。判るかい?」
「えっ、これって茹でたんじゃないんですか!? とすると・・・え、え???」
健作は、皿に乗っていた殻を取り上げてしげしげと眺めた。
「あっ、判った。これ蒸したんですね。」
智子は、手を上げて答えた。
「ほー、ねぇちゃんよく分かったね。
そうだよ。タカアシガニは、茹でると旨さがみんな溶け出して、肉はパサパサで不味くなるんだ。
だから、街では食べられない味なんだ。」
「へ~、カニにも色々あるんですね。
トモちゃんはレストランでバイトしてるから、料理に詳しいんだ!
海の中で、小さいカニはよく見かけるけど、一度こんな大きなカニがいる中を潜ってみたいです。」
「おっと、ねぇちゃんタカアシガニは水深200~300mに棲んでるから、人間は潜れねぇや。
タカアシガニは、大味で水っぽいっていう奴もいるけど、採れたてをすぐに蒸して食べると、こんなにおいしいものはないんだよ。地元でしか味わえない味だね。」

伊勢町7.jpg「さて、そろそろ行くか。」
といって健作が皆に目配せすると、立ち上がった。
「オヤジさん、色々ありがとうございました。
また、カニ食べたくなったらよらせてもらいます。」
「おう、いつでも待ってるよ。」

4人は、見送るオヤジさんに手を振るとまた海に向かった。
海岸線を暫く散策すると、バスに乗って三崎口駅に向かった。

始発の快速特急に乗り込むと、また座席を来た時のようにボックス席にして座った。

「健作さん、今日はありがとうございました。とっても楽しい一日でした。」
典子が隣に座った健作の方に顔を向けて言った。
「うん、僕も楽しい一日だったよ。久しぶりに見た海はキラキラ輝いて気持ちよかったね。
典子さん、朝も早かったから疲れたんじゃない?」
「ええ、でも美味しいものも食べられたし、大満足の一日でした。
トモちゃんもちょっと疲れたみたい。」
いつしか前に座っていた智子と修は居眠りしていた。
「品川まであと1時間位はかかるから、典子さんも良かったら寝るといいよ。」
「ええ、ありがとう。」

健作と典子はその後はしばらく話していたが、いつしか典子は健作の肩に頭を預けて寝ていた。
健作は、何を考えているのか車窓を過ぎ去さるはるか彼方の茜色に染まった雲を眺めていた。

・・・つづく

行きの電車の中では典子と智子、健作と修が並んで座ったのが、気がつくと帰りは典子と健作、智子と修が並んで座っているようです。
この二組のカップルの行くへは?

今しばらくこのお話にお付き合いいただければ幸いです。


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学生街の四季 12 [学生街の四季]

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4人はバスを降りると、駐車場の先に続く土産物屋の間を灯台へと向かった。
途中何軒か店先に大きな生け簀を置いて、地物の魚が泳いでいる。

サザエが網袋に入れられて、海水に付けられているのを典子は見つけると、駆け寄った。
「ねえねえ、健作さん! ここのサザエは角が付いていますよね。角の付いているさざえと、付いていないサザエの違いってご存知ですか?」
一斉に皆覗き込むと、修が顔を上げて答えた。
「典子さん、そりゃぁ決まってるじゃん! 角のあるのが雄、無いのが雌だよ。」
智子も覗き込んでつぶやいた。
「えー、そんな簡単な違いかなぁ?」
覗き込んでいた健作も、お手上げという表情をして顔をあげて言った。
「典子さん、降参。 答え教えて!」

「へへ、サザエの角の有無は雌雄の違いではありません。
波の穏やかなところで育ったサザエは角がなく、波の荒い海で育ったサザエは角があるんです。
角のあるサザエを波の穏やかに海に連れて行くと、角は次第になくなってしまうんですよ。
きっと、流されないように考えられているんでしょうね。」
「へ~、さすが海人(うみんちゅ)典子さん。」
健作は感心したように典子を覗き込んで続けた。
「典子さん、沖縄でもサザエは採れるの?」
「はい、沖縄では内地のサザエとちょっと違う種類で、チョウセンサザエが採れます。
沖縄の方言で『マーンナ』といって、味は濃厚で美味しいんですよ。」
「今度うちのマスターに言って、沖縄料理作ってもらおうかな!」
智子は遠くを見つめるように言った。

周りをきょろきょろしていた修は突然健作を小突いた。
「そうそう、健作! お前の言ったタカアシガニはどこにいるんだい?」
「ああ、子供の頃来たときは、この生簀にうじゃうじゃいたんだけどなぁ・・・」

店先の話し声を聞きつけて、奥から店主のオヤジが白い上着を着て出てきた。
「もうここ十数年水揚げが少なくなってねぇ。昔は兄さんの言うようにたくさん採れたんだがなぁ。」
「なぁんだ、そうなんだ。残念だなぁ。」
修は恨めしそうに水槽をのぞきこんだ。
「どうしても食べたいかい? ちっと待ってな。」

オヤジは携帯を取り出すと電話を架けだした。
「おお、うんうん、そうかいそうかい。じゃあとでな。」
電話をズボンのポケットにしまうと健作たちに言った。
「今朝の漁で少し水揚げがあったみたいだ。手に入るかどうか分からねぇけど、ちょっくら漁港まで行って来っから、そこ辺散歩して帰りにでも寄ってくんな!」
と言い放ちカブにまたがると、エンジンをかけるや走り去った。

観音崎1.jpg「おっと、忙しい親父さんね。」
智子はくすくすと笑うと、つられてみんな微笑んだ。
「さぁ、ちょっと灯台まで行ってみよう!」
健作の言葉に一同は岩場を登り始めた。

「おー、水平線が見えるぞー!!」
健作は叫ぶと残りの数メートルを駆け上がった。

明るい日差しに海面はキラキラと輝き、遠くには米粒のような船が浮かんでいる。
潮風に吹かれながら4人は並んで立った。

典子は両手を上に上げて伸びをすると、気持ちよさそうに言った。
「アー気持ちいい。やっぱり海は最高!
潜りたくなっちゃった!」
「ノリはいいなぁ、沖縄育ちで。私沖縄行きたくなっちゃった。」
「トモちゃん、沖縄の海は綺麗だよ~。
でもここの海も意外と水が澄んでいるんでちょっと驚き。
でもね、沖縄はここと違って、砂浜は珊瑚砂だから真っ白。
そして、潮が引いた後のタイドプールで遊ぶだけでも楽しいよ。」
修は怪訝そうな顔をして典子に訊いた。
「『タイドプール』って何?」
「あっ、タイドプールって、潮溜まりのことです。さんご礁で潮が引くと、あちこちに海水が残って水溜りが出来るの。
そこには結構魚なんかがいて、網で簡単にすくえるんですよ。」
健作は、目を輝かせて典子を覗き込んだ。
「へ~、そんな話を聞くと、沖縄って理想郷みたい。」
「沖縄では、遠く東の彼方に『ニライカナイ』っていう理想郷があって、魂はニライカナイからやってきて、ニライカナイに帰るといわれています。」
「じゃあ、本土のニライカナイが沖縄で、沖縄のニライカナイは東の彼方だ!」
と修がおどけた調子で言った。

穏やかな陽光に包まれると、ちょと冷たい潮風がむしろ心地よくほてった顔を冷やしてくれる。
しばらく4人は潮風に吹かれながら、ぶらぶら歩いた。

浦賀水道1.jpg修は灯台の後ろの海のよく見えるところに4人を引っ張っていった。
「なあ、皆で記念撮影しようぜ!」
「ああ、そうだな。携帯しかないけど・・・
じゃあまず修、智子さんと一緒に撮ってやるよ。智子さん、入って!!」
「はぁーい。」
智子は修にぴったり寄り添うと、修はびっくりしたようにちょっと離れて顔を赤くした。
「こら、修! ちゃんとしろよ。
ほら修、智子さんの肩に手を乗せて! いいよね智子さん。」
「はい、どうぞ修さん。」
智子はにっこり笑うと、修は恐る恐る右手を智子の肩に回した。
「はい、チーズ[カメラ]

「おーし、今度は健作と典子さんの番だ。」
修は見違えるように生き生きとして嬉しそうに言った。
健作と典子は、入れ替わって立つと典子はそっと健作の手を握った。
あまりにも自然だったので、健作に全く違和感はなく、一瞬何が起こったのかわからなかったが、典子の暖かさが伝わってくると、思わず典子の顔を見た。
典子はおかしそうに微笑んで健作を見つめ返すと、健作は自分の顔が赤くなるのが分かるくらい顔がほてった。

「よーし、いくよ。はい、チーズ[カメラ]

そこにさっきの料理屋のオヤジがやってくると、
「よし4人で並びなさい。俺が撮ってやろう[カメラ]
4人が並んだところをパチリとすると、にこにこ笑いながら言った。
「いいのが1杯入ったよ。」
修はびっくりしたように言った。
「えっ、俺達1匹でいいですよ。一杯あったって食べられない。」
修以外のみんなは顔を見合わせると、大声で笑った。
智子は、笑いながら修の耳元でそっと言った。
「修さん、カニの数え方は、1匹、2匹ともいうけど普通は1杯、2杯って数えるのよ。」
修はけろっとして、言い放った。
「なぁーんだ、別に間違えたわけじゃないじゃん。さぁ、うまいもの喰いに行こうぜ。」
4人は、オヤジさんの後について店に向かった。

・・・つづく

城ヶ島の写真はあるのですが、スキャンする時間もなく、観音崎灯台の写真を流用させていただきました。
船の写真は浦賀水道を出て行くものです。

城ヶ島はたくさんの思い出を築いてきましたが、振り返ってみるともう何年も行ってません。
暖かくなったら、M38でドライブに行きたくなりました。


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学生街の四季 11 [学生街の四季]

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4人は品川でJRから、京浜急行の快速特急三崎口行きに乗ると、健作は座席一つを回転させてボックス席にした。
「あら、この電車こんなことできるんですね。」
と典子は驚くと、智子は、
「健作さんて、何でも知ってるんですね。」
と言った。
健作は、ちょつと照れたような顔をして、
「新幹線や在来線の特急なんかもほとんどこういう構造になってるんだよ。
さあ、座ろうぜ。」と席を進めると、典子、智子と、健作、修が対面するように座った。

「品川駅始発だから、空いてて良かったね。」
と修は言うと、目を輝かせながら子供のように窓にかぶりついて外を眺め始めた。
「典子さんは京浜急行に乗るのは初めてだよね。
この電車で三崎口まで1時間13分かかるんだ。」
「へー、ちょっとした旅行ですね。
那覇から羽田まで飛行機で2時間ちょっとだから、その半分もかかるんだぁ。
那覇から鹿児島まで行けちゃう!!」

外ばかり観ている修に智子は声をかけた。
「修さん!」
「な、何、智子さん?!?」
鳩が豆鉄砲を食らったように修はビックリして智子の方に振り向いた。
「外ばっかり見てるけど、何が見えるの?」
「え~、何が見えるって・・・そうそう、景色が見えるよ!
お寺さんとか、お墓が多いかな・・・」
智子と典子は思わずふきだした。

「うん、ここら辺はね・・・」と健作は話しを続けた。
「江戸時代に江戸の中心部にあったお寺さんが幕府の命令で、郊外に移転させられたから多いんだよ。」
修、智子、典子の三人は、健作の顔を見つめると感心したように一斉に「へ~」とうなった。
なんと、この『へ~』が三度の和音になっていたのには、4人で顔を見合わせると大笑いしてしまった。

会話は弾んで、楽しい時間は車窓の変わりゆく景色のように瞬く間に過ぎていく。
気がつくと、車内放送で三崎口へ到着することを告げていた。

2012.03.06日比谷公園.jpg改札口を出ると、駅前ローターリーから城ヶ島行きの路線バスに乗り込んだ。
「終点まで乗るから、一番後ろに行こうぜ!」と健作が言うと、バスの最後部の席に横一列になって座った。
澄み渡る空から春の暖かな日差しがバスの中にも差し込んできて暖かい。
健作は窓を開けると、潮の香りとともにひんやりした風が流れ込んでくる。

健作は窓の外を眺めながら、いつしか『岬めぐり』を口ずさんでいた。
「健作さん、なにを歌ってるんですか?」
「あ、いや、昔懐メロで聞いたこの曲が好きになっちゃったんだよ。
山本コータローとウィークエンドの『岬めぐり』。典子さん知ってる?」
「いいえ、初めて聴きました。とってもいい曲ですね。」
そこに修が割り込んできた。
「まさに今日の小旅行にぴったりだな。」

そのとき、智子は窓の外を指差して叫んだ。
「あっ、海が見えてきた。」
正面に城ヶ島大橋が見えてくると、海が見えてきた。
城ヶ島大橋は海面から20m前後もあって、見晴らしがいい。

春の日差しにキラキラ輝く海がまぶしく、4人の気分は否が応でも高揚した。

・・・つづく

私の中では、この『岬めぐり』の曲は、三浦半島を走るバスに乗ったときの風景とぴったり一致します。
どうしてもこの『岬めぐり』と路線バスを結び付けたくて、今回はドライブではなく電車・バスでの小旅行となりました。

写真は、いつも定点観測している日比谷公園雲形池湖畔の桜の蕾の3月6日の様子です。
日中の日比谷公園は16.8度もあって暖かく、蕾はだいぶ膨らんできていて、早いものはもう先端が少し黄色くなり始めました。


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学生街の四季 10 [学生街の四季]

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「いい音出てるよ。もっと口の力と肩の力を抜いて。そうそう、その調子。」
週一回、部活のない日の典子とのフルートのレッスンは、今日で二回目だった。

「ついつい力が入っちゃうんですよね。力をいれずに吹くってとっても難しいです。」
典子はフルートを下ろすと一息ついた。
「うん、身体に力が入ると、音も硬くなって響かなくなっちゃうんだよね。
いい音で響かせようと思ったら、とにかく力を入れないことだよ。」
「はい、先生!」
典子がおどけた調子で返事をすると、健作は笑った。
「そうそう、そのくだけた感じで肩の力を抜いて吹くといいよ。
さて、今日はこの位にして晩飯でも食べに行こうか?」
「はい、ご一緒します!」

二人は部室を出ると駅のほうに向かった。
「典子さん、何食べたい?」
「私はなんでもいいですよ。健作さんにお任せします。」
「そうだなぁ、それじゃあ智子さんのバイトしてる西武門に行こうか?」
「あ、それいいですね。
ところで健作さんは、ご出身は東京なんですか?」
「ああ、『三代続くと江戸っ子』って言われるけど、実家は文京区の白山にあって、江戸時代は直参旗本だったらしいよ。
え~と、おじいちゃんのおじいちゃんのお父さん・・・だったかな、彰義隊で上野の山で討ち死にしたんだとかって聞いたよ。」
「へ~、そうなんだ。じゃぁ世が世なら健作さんは裃に羽織袴で刀をさしていたんですね。」
「明治になっておじいちゃんのお父さんは、乳母に手を引かれて幼稚園に通ったって言ってたよ。」
「健作さんはお坊ちゃまなんですね。音楽以外の趣味はあるんですか。」
「そうだなぁ、音楽以外って言われるとちょっとつらいかもしれないなぁ。
まぁ、好きといえば車かなぁ。車はおじいちゃんの代から車好きだよ。」
「そうなんですね。じゃあよくドライブとか行くんですか?」
「ああ、たまに気持ちが落ち着かないときなんか、夜中でもぶらっと小一時間何処にいくともなく、走ってくることがあるね。
典子さんは、車好きなの?」
「ええ、ドライブは好きです。今度どこか連れて行ってくれますか?」
「えっ、・・・あ、ああ、良いよ。」
「あ、ごめんなさい。無理なさらなくて良いです。」
「いや、違うよ。喜んでご一緒させていただきます。」
「ホントに良いんですか? 楽しみだなぁ。」
典子は瞳を輝かせて微笑んだ。

2012.03.03.jpg西武門に着いて扉を開けると、カラ~カラ~とカウベルがなった。
中にはいると、客席は半分くらい埋まっていた。
二人は何処に座ろうかと見回すと、奥のほうで手を振っている修を見つけた。

「なんだお前来てたのか。」
健作は修の肩に手を置いて、話しかけた。
「あ、典子さんこんばんは。まぁ座れよ。」
「良いのかい?
それじゃぁ典子さん、いいかなここで。」
「修さんこんばんは、ご一緒させていただきます。」
「どうぞ、どうぞ。」
そこに智子が注文をとりに来た。
「健作さん、こんばんは。ノリ、いらっしゃい。
何になさいますか?」
「そうだなぁ、俺はまたこの前の南インド風何チャラカレー。」
「はい、南インド風豆とチキンのカレーですね。ノリは?」
「そうだなぁ、ビーフシチューにします。」
「了解しました。」
智子は、厨房へと向かった。

「健作、この前話した海見に行く件だけど、今度の土曜日なんかどうかな?
典子さんは都合どう?」
「私は良いですよ。健作さんはどう?」
「俺も良いよ。海かぁ、久しぶりだなぁ。」
そこに智子が料理を運んできた。
修は、目を輝かせて智子に向かって微笑むと
「智子さん、海に行く件だけど、今度の土曜日皆都合良いって言うんだけど、智子さんはどう?」
「ええ、私もOKよ。」
というとピースサインをだした。
健作は、突然大きな声で言った。
「そうだ、城ヶ島に行かないか?
ちょっと季節が早いかもしれないけど、春先は相模湾でとれた高足ガニが美味しいぞ!」
「決定!!
それじゃあ、今度土曜日城ヶ島だ!」

・・・つづく


今日はひなまつり。
デパートに行くと、コージーコーナーの前は黒山の人だかりでした。
皆さんひな祭りのデコレーションケーキを買って帰っています。
一人用の小さなデコレーションケーキもありましたが、それを一個だけ買うのもはずかしかったので、モロゾフで写真のようなチーズケーキを購入しました。
ちょっとレモン風味がして大変美味しくいただきました。

明日はハーレーダビッドソン昭和の森に行って来ます。


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