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学生街の四季 第2章《夏》 20 黄昏 [学生街の四季]

 

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健作は、受話器をそっと置くとほっと大きく息を吐き出した。
ゆっくり振り返ると、3対の瞳が射るような視線を放っている。

ピンと張った糸のような静寂を破ったのは、典子だった。
「電話は誰からだったの?」
「あ、ああ、シーメンズクラブってなに?」
「Seamen’s Club NAHA って、以前はアメリカ海兵隊の将校クラブだったのよ。
1945年、奥武山公園入り口に海兵隊のレストランとして開業したの。
米軍施設だから基地と同じで、日本人は米軍関係者のゲストとして同伴じゃないと入れなかったのよ。
確か平成7年に日本に返還されると、空港近くのフリートレードゾーンの隣で会員制レストランとして新たにスタートしたんじゃなかったかしら。
そんな歴史があるから、今でも米軍関係者の利用が多く、観光客がぶらっと行って入れるところではないわ。」 

「ふ~ん、 今の電話はそのSeamen's Club の支配人からだよ。
われわれに出演して欲しいって。」
「へ~それってすごいじゃない。今までの観光客向けと違って、耳の肥えた人たちが来るわよ。」

「そっかぁ・・・明日電話かけてきた支配人が打ち合わせに来るそうだ。」
「わぉ、おっお、俺、そ、そんなすごいところで本場のステーキたべてみ、み、みたいい。」
修は、興奮してろれつが回らず変なしゃべり方をしたために、笑いの渦が爆発した。

笑いの渦が収まるのをまって智子が口を開いた。
「ねぇノリちゃん、Seamen's Club に出演するのが、そんなにすごいことなの?」
「そうねぇ、いらっしゃるお客様は外国人が多いから、音楽も『ホンモノ』じゃないと通用しないんじゃないかしら。」
「なんと、俺今からドラムスたたくの楽しみだな。」

翌日一同が宿泊していた外人住宅に、アメリカ人支配人と日本人スタッフがやってきた。
話はトントン拍子に進み、来週から週二日、バーでジャズを演奏することになった。
健作と典子は下見を兼ねて、そのまま支配人たちについてSeamen's Club へと向かった。

Seamen's Club に着くと、大柄で立派な体格をした支配人を先頭に健作と典子が扉をくぐると、バーラウンジへと向かった。

分厚い扉を開けて薄暗い空間に入っていくと、そこは落ち着いた雰囲気で、ゆっくり寛ぐことの出来る空間が広がっていた。
「健作君、ここでなにを演奏するかは、君たちにお任せするよ。」
支配人は健作の肩に大きな手を置いた。
「ありがとうございます。単調にならないように変化をつけた選曲にしたいと思います。」
健作がそう答えると、がっちり握手を交わした。
「今からどんなステージになるか楽しみだよ。」と支配人は言って微笑んだ。

支配人に暇を告げて建物の外に出ると、陽は大きく西に傾いて色づき始めている。
「ねぇ健作さん、今日は綺麗な夕日が見られるみたい。
ちょっと寄り道して行きません?」
「ああ、いいよ。東シナ海に沈む綺麗な夕焼けでも観て帰ろうか。」

『Souht Pacific Diving Field』と書かれたワンボックスカーに二人は乗り込むと、健作がハンドルを握り国道58号を宜野湾に向けて走り始めた。
AFN(American Forces Network・・・米軍放送網)にあわせてあるラジオからは、ケニーGが演奏するソプラノサックスのすばらしい音色が流れていた。
健作は、その曲に合わせてメロディーを口ずさんでいる。
典子はどこを見るとはなしに、流れさる風景を見ていた。

牧港を過ぎたところで典子は左に曲がるように指示すると、国道58号のバイパスに入って、宜野湾海浜公園の駐車場へと導いた。
駐車場に車を止めると、すぐ前には真っ白な珊瑚砂の宜野湾トロピカルビーチが広がっている。
このビーチは、コンベンションセンターを中心に、公園が整備されたときに造られた人口の渚だ。

車を降りると、二人は並んで砂浜へと向かった。
二人の手が触れると、どちらともなく手をつないで歩いていた。

急に眼前が開けると、東シナ海の水平線にまさに大きな太陽が沈もうとしていた。
「うわぁー、綺麗な夕日だ!!」
健作はそう叫んで波打ち際に向かって駆け出すと、典子がその後をつづく。
典子は、息を切らせながら波打ち際の健作に追いつくと、両手で健作の背中を「ドン」と突いた。

バランスをくずした健作は、倒れまいとして典子にしがみつくと、二人はその場に崩れ落ちた。
永遠とも見紛うばかりの真っ白な時間が過ぎ去って、二人は目を開けると、顔と顔を突き合わせている。

健作は、典子に「大丈夫!?」とささやくと、典子は「ええ」と微笑んだ。
二人には、波が寄せては砕けて引いていく、心地よい音しか聞こえない。
すべてが茜色のベールに覆われると、健作はそっと典子の唇に自分の唇を重ねた。

二人は、この瞬間が永遠に続くことを願わずにはいられなかった。

 

前回書いたのが1月12日ですから、もう2ヶ月も書かずじまいでした。
12日に続き13日も飲み会だったのですが、帰宅して書き始めると、一気にここまで書いてしまいました。
ただ、軽く読み直しただけで推敲していないので、変なところがあればお許しください。

また、私の知っているシーメンズクラブは、返還前の施設です。
現在新たにスタートしたシーメンズクラブは、私の想像の賜物であり、現実のものとは全く異なる点、ご理解ください。

今少しづつ今まで書いたものを推敲しながらちゃんと読めるものにまとめつつあります。

話は変わりますが、3月23日土曜日から西武園遊園地で恒例の春のイルミネーション『創造を絶するイルミ』というイベントの初日になります。

今回、その会期初日を盛り上げるためにクラシックカー展示のオファーが、私の所属するオートモービルクラブジャパンにありました。
急な話だったので、何台集まるかわかりませんが、私も参加することになりました。
お時間のある方は、ぜひ西武園遊園地で開かれる『創造を絶するイルミ』にお越しください。


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コメント 21

orange

久しぶりの連続小説ですね。
それにしても落日の美しさを見ながら、なかなかよい旋律を聞くことができました^^
忙しい一日の終わりをちょっと豊かにしてくれるような。これで潮騒など聞こえたら最高なんですが…
by orange (2013-03-14 00:27) 

すー

おはようございます

よ~! 久しぶりに楽しませていただきました。
音楽と、夕日の写真が本当にすてきですね。
by すー (2013-03-14 04:35) 

pandan

夕日がきれいですね〜
by pandan (2013-03-14 05:21) 

沈丁花

夕日に・・・うっとり。
音楽を聴きながら〜違う世界にはまり込んでいました〜♪
by 沈丁花 (2013-03-14 05:52) 

獏

久しぶりに大好きな沖縄と
青春の一ページを連想させていただきました☆
また続きを・・・・気長に待っております(@@;))

by 獏 (2013-03-14 06:00) 

YUTAじい

おはようございます。
前回から二ヶ月・・・時の歩み早や。
人生残りのカウントダウン・・・考えて仕舞います。(笑)
by YUTAじい (2013-03-14 06:15) 

hatumi30331

素晴らしい夕日ですね〜♪
物語りとマッチしていい感じですね〜〜♪^^
by hatumi30331 (2013-03-14 08:01) 

katakiyo

夕日に向かって愛を奏でられますね。素晴らしい!
by katakiyo (2013-03-14 08:10) 

(。・_・。)2k

西武園遊園地ですか~
昔彼女がいました(^^;

by (。・_・。)2k (2013-03-14 08:16) 

ソニックマイヅル

ケニーGは良いですよね!CD持ってます。^^;
by ソニックマイヅル (2013-03-14 09:04) 

馬爺

Kenneth Gorelickサックス奏者ですね、フュージョンJAZZが得意だったかな?
いいメロディーですね、やっと全てを洗い流してくれた雨も今は止みました、
これでやっと黄色い粉から開放されるのかなと思います。
by 馬爺 (2013-03-14 09:12) 

風来鶏

まるで映画のワンシーンのような展開ですね^^
健作君としては、このまま典子さんを帰すわけには行かないかな?!
by 風来鶏 (2013-03-14 10:26) 

ニッキー

こんな風に沈む綺麗な夕陽が見たいです^^
ロマンチックな映画の1シーンのようでいいなぁ(^-^)
by ニッキー (2013-03-14 11:52) 

kiyo

駅員3さん、
沖縄の情景が目に浮かぶようです。

クラシックカーの展示、いいですね。
生憎と既に予定があって見に行けないのが残念です。
春のイルミネーションも良いなぁ。
by kiyo (2013-03-14 12:10) 

johncomeback

ご多忙なのに小説まで・・・才能+エネルギーに感服です(*TーT)bグッ!
by johncomeback (2013-03-14 14:10) 

koh925

記事を書き進めれば勧めるほど
沖縄への思いが募るのでしょうね
by koh925 (2013-03-14 15:08) 

美美

何か二人が良い方向に向かっているような気がします。
またこれからの展開が楽しみです^^
23日、24日は法事で仙台です。
春のイルミネーション見たかったなあ・・
by 美美 (2013-03-14 17:43) 

夏炉冬扇

今晩は。
一転強風。冷えてます。
by 夏炉冬扇 (2013-03-14 19:06) 

ikamasa

こんにちは。「創造を絶するイルミ」! 何が起こりそうな、不穏なタイトルですね。
by ikamasa (2013-03-14 19:23) 

Azumino_Kaku

こんばんは、
楽しみなイベントですね!
by Azumino_Kaku (2013-03-14 22:14) 

ちょいのり

ちょっとだけだけど、前よりは沖縄に”土地勘”がついたので、
あそこらへんなのかな~^^
ん?いやいやたぶんこっちのほうかなあ~^^
なんて前よりも脳内イメージが濃厚になってきました。

by ちょいのり (2013-03-15 03:13) 

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