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北海道の思い出3 [学生街の四季]

今までの話は、次のリンクからご覧ください。

⇒北海道の思い出

⇒北海道の思い出2


「健作さん、素敵な人だったね。」

妙子は、千恵子の肩を優しくたたきながらつぶやいた。

「うん、なんかね、健作さんとはまた逢えるような気がするんだ。

うん、きっとまた来てくれるよ。」

「あんたたち、とってもお似合いだったよ。

あんたもそろそろ自分の幸せ考えて、早くいい人見つけなさい。」

「はいはい、考えとくわ。

今日もお疲れ様。」

「うん、それじゃあお先に失礼します。」

妙子はバックを持つと出て行った。


夜の営業も終わって、従業員がみんな帰ると、健作が座っていた席に座った。
小さなキャンプ用のストーブを取り出すと、パーコレーターにコーヒーをセットして火をつけた。


じっとパーコレーターを眺めていると、健作の顔が思い浮かんでくる。

「一緒にドライブ言っちゃえば良かったな。」

千恵子は、そっと囁いた。


やがてポコポコとリズミカルな音が鳴り始めると、蓋のガラスの部分に茶色い液体が吹き上げてきて、いい香りがしてきた。

と、そのとき突然携帯の呼び出し音が鳴り出して、千恵子はびっくりした。

反射的にポケットに入っている自分の携帯を取り出したが、鳴っているのは自分の携帯ではない。


立ち上がって周りを見回すと、椅子の座面と背中の部分に黒い携帯が挟まっている。

取り上げると、しばらく出るかどうするか迷っているうちに呼び出し音は切れた。


「誰の携帯だろう?

今日この席に座ったのは・・・・」

と、また携帯は鳴りはじめた。
電話にでれば誰の携帯かわかるかと思い、電話にでてみることにした。

「もしもし・・・」

「あっ、千恵子さん?」

「えっ・・・」いきなり自分の名前を呼ばれてびっくりした。

「あっ、千恵子さんじゃなかったのかな、失礼しました。」

「あ、いや、千恵子です。いきなり自分の名前呼ばれてびっくりしちゃった。

その声は健作さんですね!?」

「うん、健作です。

今札幌のホテルから電話かけてるんだ。

ホテルに着いたら、ポケットにもカバンにも携帯が見当たらなくて。

それで、ひょっとしたらちーちゃんのお店で忘れたんじゃないかと思って、104で聞いたんだけどわからなくて。

そこで携帯にかけたら、『誰か出てくれるかなぁ』なんて思ってかけてみたんだけど、ちーちゃんが出てくれてよかった。」


「この携帯、どうする? どこかに持っていこうか?」

「あ、いや帰りに苫小牧から大洗行きのフェリーに乗るから、またよります。

今週の金曜日になるけど、大丈夫かな?」

「了解しました! 金曜日に待ってるね。」

「ご迷惑をおかけしますが、よろしくね!

あ、仕事が終わるのは、毎日これくらいの時間かな?」

「ええ、今一日の仕事が終わって、コーヒー淹れてたところ・・・あっ、ちょっと待って!」

千恵子は、あわててストーブの火を消した。


「あっ、ごめんね、今火が付けっぱなしになっていたから消したの。」

「へー、ちーちゃんコーヒー好きなんだ。」

「ええ、私は大好きよ。一日に何杯も飲むんだ。」

「実は僕も大好きなんだ。山の中や海辺でコーヒーポコポコ淹れて飲むのが大好きさ。」

「なんだ、同じね。今健作さんが今日座ってたテーブルにストーブ出してパーコレーターで淹れてたんだよ。」


「それじゃあ、今度行くときは楽しみが二つ・・・いや三つできたよ。

一つ目は、海鮮あんかけ焼きそばを食べること、二つ目はちーちゃんが淹れてくれるコーヒーを飲むこと、そしてなんといってもちーちゃんに会うのが楽しみだよ。」

「あら、私の入れたコーヒーは高いわよ。
請求書みて目を飛び出させないでね。」

ひとしきり二人は電話越しに笑った。


「ちーちゃん、また夜でもこの携帯に電話かけてもいいかな?」

「ええ、これくらいの時間だったらOKよ。」

「了解しました! それじゃあおやすみなさい。」

「ええ、健作さん、運転気をつけてね。」

「うん、ありがとう。それじゃあ。」



その日の苫小牧から札幌までの健作の旅程は、篠突く雨に合羽を着ての運転で、散々だった。
土地勘の無い道を雨の中運転するには、集中しなければならない。

携帯を忘れてきたことなど、全く気がつかなかった。

ホテルに着いて大分慌てたが、千恵子が携帯を預かってくれることがわかると、ほっとして、ホテルから出ると、ホテルのパンフレットにあった居酒屋に入った。

旬の秋刀魚や、蟹を魚にビールを飲み干すと、千恵子の顔が浮かんできた。


一夜明けて朝起きると、空は素晴らしい青空が広がっている。

道央自動車道に入って札幌市内を抜けると、そのまま青空に続いていくような道を気持ちよく走っていた。


眼前に広がる青空を見ていると、昨日の千恵子の笑顔が思い出されて、胸が熱くなってくる。

健作は、数日後にまた苫小牧で千恵子に逢えると思うと、ワクワクしてくる気持ちを抑えて、一路道東を目指してひた走った。



「おはよう!」

元気な声をあげて、妙子が入ってきた。

「あっ、妙子さんおはよう。今日もよろしくね。」

「あれ、ちーちゃん、なんか顔に『嬉しい』って書いてあるよ!」

「えっ、うそっ!」

思わす壁にかけてあった鏡を覗き込むと、妙子は大笑いした。

「あんた何年一緒にいるとおもってるの! あんたに何か嬉しいことがあったことくらいすぐわかるわよ。」


千恵子は、妙子に健作が携帯を忘れていって、電話をかけてきたことを話した。

「ふーん、じゃあ金曜日に健作さん、また来るんだ。

チャンスじゃない! 告白しちゃいなさい!」

「えっ、そんなんじゃないよ。

確かに健作さんはいい人だけど、一回しかあったことないし、どんな人かもわからないんだよ。」

「はいはい、わかりました。頑張るんだよ。」

・・・続く




前回のお話に、「このまま終わってしまうのか!?」というご意見をたくさんいただきました。

そこで、もうちょっと書き込んでみました。

ますますこのお話の行き着くところが見えなくなってしまいましたが、心の赴くままにいま少し書いてみたいと思います。


苫小牧のマルトマ食堂はもうどうでも良くなってしまいました。

あのラーメン屋さんにもう一度行きたいです。
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コメント 26

YUTAじい

おはようございます。
物語・・・重ね合わせて、楽しませて戴いてます!
M君だけが気がかりです。
by YUTAじい (2013-10-07 05:13) 

沈丁花

年甲斐もなくワクワク…ちいちゃんになっていました(笑)
by 沈丁花 (2013-10-07 06:21) 

hatumi30331

さて・・・どういう結末が?
楽しみです。(笑)

by hatumi30331 (2013-10-07 06:33) 

下総弾正くま

苫小牧、やっぱり昼着の便じゃないとアレかな…(・_・;)
by 下総弾正くま (2013-10-07 06:49) 

ナビパ

旅先での恋心ってワクワクどきどき。。。
さて結末はd(^_^o)
by ナビパ (2013-10-07 07:07) 

(。・_・。)2k

僕もラーメン屋さん行きた~い!

by (。・_・。)2k (2013-10-07 07:21) 

獏

いいオッサンですが 読んでいてときめきます(^m^)♬

by 獏 (2013-10-07 07:30) 

mimimomo

本当に創作かなー なんて考えながら読んだわたくしです。
by mimimomo (2013-10-07 07:48) 

海を渡る

情景が目に浮かびます^^。
by 海を渡る (2013-10-07 07:54) 

あざみ

短い時間での出会いが、人生を左右するって事、
本当にありますよね^^
今後が楽しみです♪
by あざみ (2013-10-07 08:21) 

ソニックマイヅル

あのラーメン屋さんのラーメンが見たいです。^^;
by ソニックマイヅル (2013-10-07 08:48) 

風来鶏

健作さん、わざと携帯を忘れてきたのかな?!

今週の土曜日、ふぢたしょうこさんの個展(恵比寿:Gallery縁)に出掛けます。その後、羽田まで足を延ばしてみようかと考えています^^
by 風来鶏 (2013-10-07 09:31) 

orange

海鮮ラーメン。美味しそうでしたから。
再訪ですね。
by orange (2013-10-07 10:53) 

キャスリーン・ケリー

うん♪ 益々楽しみです。
色んな可能性が失われている我々年代にとって、可能性 ほど楽しみなものはないような気がするんてす。
by キャスリーン・ケリー (2013-10-07 13:53) 

kiyo

駅員3さん、
当初の思惑と違って、ちーちゃんが重要な役どころ過ぎて、
皆さんの希望=待望を掻き立てちゃったんだと思います。
自分も、今回の北海道編のステキなストーリーとして、
次回も期待しています。
楽しみです。
by kiyo (2013-10-07 14:31) 

viviane

読んでいてドキドキ、若かかりし頃…あの時携帯というものが有れば、もしかしたら今此処に居なかったかも…なんて考えながら拝見致しました!
コメント有り難う御座いました♪
又遊びにいらしてくださいね(*^ー^)ノ♪
by viviane (2013-10-07 15:16) 

ゆうみ

愛が芽生える時という古い歌を思い出しました。
by ゆうみ (2013-10-07 15:18) 

yoko-minato

ときめきって大切なことですが
だいぶ忘れてしまっています。
楽しみな展開ですね。
by yoko-minato (2013-10-07 15:26) 

ニッキー

これからの二人、ますます目が離せません(^O^)
こういうのってなんか良いですよねぇ→遠い目w
ちーちゃんのラーメン屋さん、ぜひとも行って健作君とちーちゃんに会いたくなりました(^-^)
by ニッキー (2013-10-07 16:05) 

馬爺

進展してゆくストーリが楽しみです、今後どんな展開になるのかなハッピーエンドが好きな駅員さんですのでいい方向に成るんでしょうね。
by 馬爺 (2013-10-07 17:39) 

sig

ケータイは愛の小道具として欠かせませんね。昔は 留守だったらどうしよう とか心配しながら連絡し合っていたものですが・・・
by sig (2013-10-07 17:42) 

夏炉冬扇

今日は。
23号それて、蒸し暑いです。
by 夏炉冬扇 (2013-10-07 18:12) 

ちょいのり

もうキャラが勝手に走り出してますね^^
いつのまにやら書いていたはずなのに書かされてるってのもまた小説の醍醐味ですよね^^
現実とのコラボ。結末がキニナリマス☆

by ちょいのり (2013-10-07 19:07) 

なんだかなぁ〜!! 横 濱男

新しい展開になってきましたね。
次回、楽しみにしています。。

by なんだかなぁ〜!! 横 濱男 (2013-10-07 21:30) 

唐津っ子

すごくロマンチックなお話ですね.
私も携帯忘れてみたくなっちゃいました(笑)
by 唐津っ子 (2013-10-07 23:09) 

美美

ワクワクドキドキ、
続きが楽しみです♡^^♡
by 美美 (2013-10-08 17:30) 

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