SSブログ

学生街の四季 第2章《夏》 15 [学生街の四季]

学生街の四季の過去のリンクは、次のページからご覧ください。
⇒1~22のリンクページ

⇒学生街の四季 第2章《夏》 1 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 2
⇒学生街の四季 第2章《夏》 3 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 4
⇒学生街の四季 第2章《夏》 5 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 6
⇒学生街の四季 第2章《夏》 7 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 8
⇒学生街の四季 第2章《夏》 9 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 10
⇒学生街の四季 第2章《夏》 11 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 12

⇒学生街の四季 第2章《夏》 13 ⇒学生街の四季 第2章《夏》 14

 

午後7時を過ぎて真っ赤な太陽が地平線に沈むと、朱から群青色までの見事なグラデーションが刻一刻と変化していく様に、プールサイドで食事やお酒を楽しんでいる人たちは、うっとりと眺めていた。

健作たちは、たそがれていく東シナ海をバックに、プールサイドのオープンカフェのステージで演奏していた。
10人程度の Big Band で、健作と修以外はみなプロのミュージシャンだった。

The Shadow of your Smile・・・健作のむせび泣くようなソプラノサックスは、迫りくる夕闇に溶け込んでいくように、人々の耳のしみこんでいった。

小一時間ほど演奏して、今日の最終ステージが終わって楽屋に引き上げると、典子と智子は、中村先生、渡邊先生とテーブルを囲んで話し込んでいた。

「やぁ、健作君、修君、お疲れ様でしたね。」
中村先生が右手を差し出すと、健作も右手を出して握手をした。

「健作君のThe Shadow of your Smile は素晴らしかったね。
かげりゆく夕焼けにぴったりで、まさにこの時のために作られた曲じゃないか・・・っていう感じだったよ。」
渡邊先生もそういうと健作と握手した。

「中村先生、渡邊先生、ありがとうございます。」
健作はパイプ椅子を引き出して座った。
「あれ、俺の座るとこ無いじゃん!!」
修は、壁際に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて、みんなの輪に加わった。

健作は疲れたのか、肩を落として、深々と座るとため息をついた。
「健作さん、お疲れですか?」心配そうに典子が健作の顔を覗き込んだ。

健作は、ちょっと躊躇したようなそぶりを見せてから、ポツリポツリと話し始めた。
「先生、僕はそんなに悪い演奏しているとは思わないんですが、どうもお客さんの反応がしっくり来ません。」

中村先生と、渡邊先生は、顔を見合わせるとにやりと笑った。
「健作君!」中村先生は、微笑みながら話し始めた。
「君の言わんとするところは、よくわかるよ。
今まで君が相手してきたお客さんは、君たちが奏でる『音楽』を聴きにきてくれていた。
でも、今日のお客さんはそうなのかな?
君たちの演奏は、この素晴らしい夕焼けと、おいしい料理、おいしいお酒を楽しみに来た人たちの雰囲気を盛り上げるものだ。
あっても無くても多くの人たちは気がつかない。
でもあるのと無いのとでは大違い・・・そんな存在なんだよ。」

修はちょっとおどけたように言った。
「それじゃぁ、俺たちは刺身のツマみたいなものですね!」

健作は、ちょっと怒ったように修をにらみつけると、また先生たちの方に向かい合った。

「俺、最近自分の『夢』についてよく考えるんです。
音楽には国境がありません。
また、人種も関係なければ、金持ちも、貧乏人も関係ない。みんな等しく平等に楽しめるものです。
そんな素晴らしい音楽を通して、一人でも多くの人に感動と生きる喜びを感じてもらいたい。

音楽を愛する心に争いはありません。
感動と生きる喜びを感じてもらうことによって、争いの無い、平和な世の中にすることができるんじゃないでしょうか。」

しばらくみんなは驚いたように健作の顔を見つめていたが、やがて渡邊先生が口を開いた。
「参ったな、今日は健作君に教えられてしまった。
われわれプロは、演奏してなんぼだ。ギャラを払ってくれる人のリクエストに答えればいい。
大切なことを一つ忘れていたようだよ。」

 


nice!(114)  コメント(19)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 114

コメント 19

銀狼

そうですねぇ。音楽に国境はない。。。
昨年も音楽の力に助けられた事を感じたりもしました。。。
by 銀狼 (2012-12-02 00:55) 

ちょいのり

そうなんですよね^^
『音楽に国境は無い』とよく謳われる言葉だけれど、本当にそう思います^^
変な話になっちゃうけれど、民謡とかだって『実は日本の歌じゃないんだよ~』なんて楽曲も多々ありますしね^^
みんな楽しんで歌えればいいのです^^
どこそこの国とか関係ないし^^

by ちょいのり (2012-12-02 02:04) 

沈丁花

音楽〜音を楽しむって・・・書いて〜そう読むんですね・音楽に国境はないか・・・良い言葉ですね〜〜♪♪・・・
by 沈丁花 (2012-12-02 05:06) 

すー

おはようございます

健作さんの若さや心がうらやましい。
by すー (2012-12-02 05:36) 

YUTAじい

おはようございます。
拝見する度・・・実家の整理とオーバーラップ、自分は内をと複雑です。
今日はお伺い無理そうです。
by YUTAじい (2012-12-02 06:22) 

kiyo

音楽に国境はない。
本当にその通りだと思います。
健作くんのような素晴らしい音楽を堪能したいものです。
by kiyo (2012-12-02 06:56) 

rtfk

言葉は通じなくても音楽なら・・・♬
高校生の時に複数のバンドでコンサートを企画した時に
米軍基地のバンドに出てもらいましたが
まさにそんな雰囲気でした☆

by rtfk (2012-12-02 06:58) 

ソニックマイヅル

おはようございます。本日はゆうさいくん活動のためご挨拶のみとさせて頂きます。またよろしくお願いいたします。^^;
by ソニックマイヅル (2012-12-02 09:16) 

下総弾正くま

沖縄というと、島唄のイメージがありますが…数年前のワールドカップでその島唄がアルゼンチンの応援歌にもなってましたね^^;
by 下総弾正くま (2012-12-02 10:03) 

リキマルコ

健作さん音楽にかける気持ち熱いですね♪

by リキマルコ (2012-12-02 11:36) 

カリメロ

音符で会話が出来る!良いですよね^^
by カリメロ (2012-12-02 16:05) 

koh925

谷保天満宮で旧車祭
今日は、孫の「おゆうぎ会」で出かけていましたので
行けませんでし、また次の機会を楽しみにしています、
by koh925 (2012-12-02 16:21) 

Azumino_Kaku

こんばんは、
東シナ海をに面したレストランで、サックスを聴きながら食事してみたいです(^_^)


by Azumino_Kaku (2012-12-02 17:01) 

PATA

音楽は万国共通の言葉ですよね。
by PATA (2012-12-02 17:34) 

schnitzer

最近、音楽の趣味がちょっと変わってきたような…
私事で恐縮です(汗)
by schnitzer (2012-12-02 20:05) 

DEBDYLAN

音楽だけじゃなくて映画とかを生業にしてる方は、
自分の理想と世間からのリクエストの狭間で悩むんでしょうね・・・
音楽って、いつも思うけど、
国境とかイロイロなモノの垣根を簡単に飛び越えられる素晴らしいモノですね♪

by DEBDYLAN (2012-12-02 22:11) 

gen

今日はありがとうございました。
まさかSDカードを忘れるとは夢にも思っていませんでした。
そなえをつねに、さすが駅員3、助かりました。
by gen (2012-12-02 22:40) 

ニッキー

そうそう、歌って自分が気に入れば幸せですよねぇ^^
そして、その歌のお陰でその国も好きになったり憧れたりします\(^o^)/

先日は企画にご応募ありがとうございました<(_ _)>
残念ながら・・・でしたが、もしよろしければ圭太のカレンダーをご送付させていただきますので、Gmailにてご連絡頂けませんでしょうか。
by ニッキー (2012-12-02 23:49) 

キャスリーン・ケリー

健作君は真面目ですね。。
by キャスリーン・ケリー (2012-12-03 00:27) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0