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学生街の四季 9 [学生街の四季]

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「修さん、今日の映画感動しちゃった。」
コーヒーカップを置くと、智子は顔を上げて修に視線をやった。
「うん、江戸時代に結ばれなかった二人が、現代に生まれ変わって結ばれるなんて素晴らしい話だったね。
ラストシーンで智子さん、涙流してなかった?」
「へへへ、見られちゃった?!
現代によみがえった二人が何度もすれ違う姿見て、『おいおい、気がついてよ!』って、歯がゆい思いを何回もさせられちゃった。ラストで漸く気がついた主人公が他の人のところへ嫁いで行こうとする花嫁を奪っていくなんて、まるで昔の映画の『卒業』みたい。
300年の時を越えて幸せになれた二人を見たら、なんだか目頭が熱くなっちゃった。」

修は、コーヒーを一口すすると、
「ところでさ、健作が今日典子さんにフルート教えてるって知ってた?」
と智子に聞いた。
「ええ、ノリが『今日健作さんにフルート教えてもらうんだ。』って嬉しそうに話してたよ。」
「へー、そうなんだ。健作のやつ、典子さんにまんざらでもないんじゃないかな。」
「うん、ノリはね、私と知り合った頃から『あの人素敵。』って言ってたんだよ。
それからしばらくして、ノリと私が歩いてると向こうから健作さんがやってきて、ノリが会釈してお辞儀したから、私びっくり。『ノリ、あんたいつから健作さんと知り合いになったの?』って聞いたら、『知り合いじゃないけどなんとなく挨拶しちゃった。』だって。」
「そういえば、俺もそんなことあったよ。
ライブの少し前に俺と健作が歩いてると、向こうから典子さんがやってきて、親しそうに挨拶するから、すっかり知り合いかと思っちゃった。」
「修さん、あの二人お似合いだと思わない?」
「そうそう、ぜったいいいカップルだよ。」

「さて、私そろそろ帰らなくちゃ。」
「あれ、もう11時回っちゃったんだ。楽しい時間てホントにあっという間だけど、時間の神様が意地悪してるんじゃないかな。」
智子は修の顔をみると思わず噴出した。
「修さんのそんなところが可愛らしい。」
「えっ、俺可愛らしくなんかないけどなぁ。
今日は遅くまでつき合わせちゃって悪かったね。家の近くまで送ってくよ。」
「ありがとう。」
二人は席を立つと喫茶店をでて新宿の雑踏を駅へと向かった。

智子は高円寺の自宅から通っていた。
中央線に乗ると程なくして、高円寺駅に着き、改札を出て住宅街の街灯の下を二人は歩いていた。
「修さん、今日はありがとう。私のうちはもうすぐそこなんだ。」
「あ、いや、こちらこそ。・・・」
修は急に歯切れが悪くなった。
「あの・・・俺・・・、もう少し暖かくなったら、海見に行かないか?
あ、いや、あの、健作や典子さんも誘ってさ。」
「うん、そうだね。お願いします。」
「ありがとう、それじゃお休み。」
二人は手を振ると修は駅へと向かった。
・・・つづく


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学生街の四季 8 [学生街の四季]

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健作が体育館のフロアーに向かうと、授業が終わって間もないせいか、まだ部活は始まっていないようで、フロアーには誰もいない。
周りを見渡すと、典子は二階の客席に座っていた。
「典子さ~ん!」健作が見上げて声をかけた。
典子は健作の方に顔を向けると、
「あっ、健作さん!」と微笑みながら手を振った。

健作は体育館の外廊下に出ると、階段を駆け上がって二階席へと向かった。
「典子さん、こんにちは。いつも待たせちゃって悪いね。」
「いいえ、私も今来たばかりです。今日はよろしくお願いします。」
「うん、こちらこそよろしく。どこで練習しようかなぁ・・・
今日はうちのバンドが練習お休みなんだけど、部室でもいいかな?」
「はい。」
静かな体育館に、典子の歯切れの良い返事が残響を残して響いた。

二人は、キャンパスを横切るとグランドの片隅にあるスターゲイザーオーケストラの部室へと向かった。
「俺さぁ、典子さんのことまだ何も知らないんだよなぁ・・・。
典子さんはどこに住んでるの?」
「私は、今梅が丘にアパート借りて住んでいるんですけど、実家は沖縄です。」
「へ~、典子さんウチナンチュウなんだ。でも『黒木さん』て苗字は沖縄では珍しいんじゃない?」
「ええ、母の実家が沖縄のコチンダで、父の実家が熊本なんです。
父はダイビングのインストラクターで、宜野湾でショップやってます。」
「なるほどねぇ・・・。お父さんが日本人・・・あっ、いや失礼、九州男児なんだ。」
典子は屈託無く笑った。
「沖縄では、ヤマトからきたお婿さんのことを『ウチナームークー』っていうんですよ。
『沖縄のお婿さん』という意味です。」
「へ~知らないことばかり。俺沖縄に行ったことないし、第一カナヅチだから、ダイビングは無理かな。
典子さんは、潜ったりするの?」
「ええ、一応マスターダイバーです。機会があったら、今度は私しがダイビングお教えしますよ。
カナヅチだって大丈夫。だってダイビングって海に沈んでいくんですから。
水に対する恐怖心をコントロール出来る人であれば、誰でも潜れます。」
健作は、ポンと手を叩いて納得したように笑った。
「確かに。浮いている必要ない・・・っていうより沈まないとダイビングじゃないね。
そうそう、お母さんの実家の『ナンチャラ』って沖縄のどこら辺なの?」
典子は可笑しくて笑いをこらえながら答えた。
「『ナンチャラ』じゃなくて、『コチンダ』です。漢字で書くと、東(ヒガシ)の風(カゼ)の平(タイラ)と書くの。
内地でも東風(ヒガシカゼ)のことを古い言葉で『コチ』って言うでしょう。
だから、沖縄独特の読み方というよりは、古い日本語って感じかな。
同じく南風(ミナミカゼ)のことを『ハエ』っていうことから、南(ミナミ)の風(カゼ)の原っぱ(ハラッパ)って書いて『ハエバル』と読む地名があるんですよ。」
健作は関心したようにうなづいた。
典子は、一呼吸おくと続けた。
「東風平は、沖縄本島南部の那覇市の東側にあります。
私の両親は戦後生まれですが、ファーフジは終戦のときは小学生で・・・」
「ちょっ、ちょっと待って。」
健作は典子の話をさえぎるように口を挟んだ。
「典子さん、『ファーフジが小学生』ってどういう意味?」
典子はクスッと笑うと続けた。
「ファーフジは、ウチナーグチで『祖父母』のことなんです。
終戦当時祖父母は小学生で、とても苦労したそうです。」
「へ~、ますます典子さんのことで知らないことが増えたみたい。
あ、着いたよ。ちょっとまって、今鍵あけるから。」

シンガポール2.jpg健作はキーホルダーを取り出して鍵を開けると、典子を中に招き入れた。
「さて、はじめようか。楽器はこれを使って。」
健作は、黒く細長いフルートの収まったケースを取り出すと、典子に手渡した。
典子はふたを開けると、
「こんな大切なものをお借りしてもいいんですか。」
と健作に言った。
「この楽器は、俺が小学校4年生のときに初めて買ってもらった楽器なんだ。
今でもこの楽器が我が家にやってきたときのことを覚えてるよ。
亡くなった親父が目を輝かせながら家に飛び込んできて、袋から取り出したのが段ボールに入ったこのケースだったのさ。
でもね、今はまったく使っていないから、楽器がかわいそうなんだ。
楽器って何でもそうだけど、使わないとダメになっていくんだよね。
典子さんだったら、きっとこの楽器を生かしてくれるし、空の上で親父も微笑んでるよ。」
「え~、健作さんにとって宝物じゃないですか。本当にお借りしちゃって良いんですか?大切に使わせていただきます。」
典子は楽器を組み立てると、しげしげと眺めた。
「健作さん、このフルート、新品みたいにぴかぴかですけど・・・」
「一応典子さんに使ってもらうために、自分でオーバーホールしたんだ。
タンポも全部取り替えて新品同様。
さらに吹き込んであるから新品より音が抜けてて使いやすいと思うよ。
じゃあ、まず好きに吹いてみて。」

典子は構えると、チューニングするときのB♭を鳴らした。
健作はそれを聴いて、注文をつけた。
「典子さん、それじゃあ今度は最低音から最高音まで吹いてみて。」
典子は、最低音のCから2オクターブを超えてGまで吹いて楽器をおろした。
高音域に行くと、顔をしかめて体中に力が入って吹いている。
「健作さんごめんなさい、これ以上はちょっとつらいかな。」
「了解、典子さんなかなか良いよ。良い音させてるね。
楽器をそこのテーブルの上にでも置いて真ん中に立って。」

典子は楽器をテーブルの上に置くと、部室の真ん中に立った。
「それじゃあ典子さん、軽くジャンプしてみようか。」
「えっ、これが練習なんですか?」
「うん、まずは立つ姿勢から見直してみよう。
軽く飛び跳ねて、着地したときの姿勢が一番安定して良い姿勢なんだ。」
「へ~、そうなんですね。それじゃあやりま~す。」
典子はその場でジャンプした。
「そうそう、足が肩幅に開いて着地したでしょう。その肩幅の広さのスタンスを忘れずにね。
じゃあ、楽器の頭部管だけ外して、今のようにたってみようか。」
・・・

気がつくと、外はもう真っ暗になっていた。
「おや、もう7時を回ったね。そろそろ終わりにしようか。
それじゃあ、毎日10分でも20分でもいいから、さっき教えたロングトーンの練習しといてね。

「はい、健作さん、ありがとうございました。」
「どう、もうこんな時間だし、どこかで晩御飯食べていこうか?」
「ありがとうございます。ご一緒させていただきます。」
典子は目を輝かせて答えた。

健作と典子は部室を出ると、キャンパスを抜けて駅へと向かった。
「俺さっき典子さんのこと色々聞いちゃったから、典子さん何か聞きたいことあったら聴いても良いよ。」
「はい、あ・・・う~ん・・・」と典子はうなると、困ったように顔をしかめた。
「あれ、典子さん何も聞くこと無いの?」
「あっ、いえ、聞くことがたくさんありすぎて、何から聞いていいのかわからなくて困っちゃったんです。」
典子は答えると、二人は大笑いした。

二人は、駅近くのファミレスに入ると、夕食をとりながら話しを続けた。
「ところけでさ、修のやつ今日智子さんと映画を観に行ったって知ってた?」
「ええ、トモチャンから『今日は修さんと映画観に行くんだ。』って楽しそうに話してくれました。」
「そっかぁ、あの二人うまくいってくれるといいんだけとなぁ」
「ええ、私もお似合いのカップルだと思います。」

話は弾み、夜は更けていった。

・・・つづく

この学生街の四季に出てくる登場人物、お店等はすべてフィクションです。
実在の人物やお店とは一切関係ありません。

写真は、以前にも一度アップしましたが、このお話の主人公と同年代の私です。

足元に置いたアタッシュケースの中にはフルートとピッコロが入っています。


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学生街の四季 7 [学生街の四季]

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「健作、昼は何食べようか?」
「そうだなぁ、マックどう?それともカツ屋でカツ丼!」
「今日はガッツリ食べたいからカツ屋にでも行こうか!」

外は抜けるような青空が広がり、ひんやりした空気と、柔らかな陽光がとても爽やかなお昼時だった。
午前中の授業が一緒だった健作と修は、教室の外に出ると、駅前にあるカツ屋へと向かった。

「なぁ修、この前の中村先生と、マスターとのカルテットはどうだった。」
「ただ一言、『衝撃的』だったね。」
「俺は自分が急に上手くなったような気がしたね。
中村先生とマスターに上手く乗せられたというか、合わせられたんだろうな。」
「そうだね、先生たちはさすがプロだよ。
俺もあそこまで気持ちよくドラムを叩けたのは初めての経験だった。」
「俺たちの Stargazer Orchestra ももっと上手くならないとな。」

運ばれてきたカツ丼を、二人はあっという間に平らげた。
「ところで修、今日は部活無いけど放課後はどうするんだ?」
「ああ、トモチャンと映画見に行くんだ。」
「へ~、もう『トモチャン』なんて呼ぶ間柄になったんだ!!」
「あ、いや典子さんが『トモチャン』って呼んでたじゃないか。
だから俺もあやかって『トモチャン』って呼んでみたいなぁ・・・なんちゃってね。
お前も『ノリ』って典子さんのこと呼んでみたらどうだい!」
二人は顔を合わせると、笑った。

00梅.jpg「健作、お前も典子さんのこと、まんざらじゃないんだろ?」
「そうだなぁ、『いったいあの爽やかさは何なんだろう。』っていうくらい、気持ちの良い子だね。
それより修、今日が智子さんと初デートじゃないか。頑張れよ!」
「ははは、ありがとう。」ちょっとはにかみながら修は手を上げた。
「健作はいつ典子さんにフルート教えるんだい?」
「実は今日放課後に体育館で待ち合わせしてるんだ。」
「なんだ、健作も初デートじゃないか。」
「おいおい、デートじゃないよ。レッスンだよレッスン!!」
健作はムキになって否定した。
「ははは、わかったわかたった、健作、お前も頑張れよ!」
健作はそれには答えずに修に別れを告げた。
「修、今日のデートの結果はちゃんと報告しろよ!じゃぁな!」
「おっと、了解しました、部長殿。それでは失礼させていただきます!」
修はおどけた調子で敬礼すると、授業へ向かう学生の波にのまれていった。

健作は、授業へと向かう途中修が智子と一緒に映画に行く様子を思い描くと、いつしか修と智子を健作と典子に置き換えて顔をほころばせていた。

・・・つづく

 

写真は、昨年2月23日に横須賀を徘徊したときに撮影したものです。
時のたつのは早いものです。
もう一年経ってしまったんですね。

冒頭のJAYWALKの『心の鐘を叩いてくれⅡ』は、普通のシングルの『心の鐘を叩いてくれ』と歌詞が違います。
私はこちらの歌詞のほうが好きです。
Stargazer Orchestraにはこの曲が二番目にぴったりの曲じゃないかと思います。

一番目にぴったりなのは、同じくJAYWALKの『Stargzer』という曲です。
現在Youtubeにはアップされていないようなので、今日は二番目のぴったりの曲を冒頭にもってきてみました。

さて、頂いたコメントを読み返すと、皆さん学生時代の自分とオーバーラップさせてお読みいただいているようです。
書いている私も20歳の当時にタイムスリップして、いつしか物語の奔流の中に身を置いています。

書いている時間が楽しく、またちょっと切なく、そして懐かしく、現在の忙しい生活から飛び出して夢の世界に旅をしているかのような気持ちになります。

そして、ふと現在の自分に戻ったとき、20歳前後に考えていたこと、思っていたこと、熱き思いをいつしか失っている自分を発見し、驚いています。
生涯青春です。
あの昔の若きチャレンジャーの熱き思いを再び胸に焼き付けて、胸を張って生きていきたいと思います。

学生街の四季・・・今しばらく続けさせていただきたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。


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学生街の四季 6 [学生街の四季]

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マスターを先頭に4人が出てくると、中村先生はピアノに向かい、修はドラムセットを前にして座った。
健作とマスターは前に出てくると、マスターは中央のスポットライトの中に進み出た。

「Ladies and gentlemen ! We provide the wonderful night to all of you.
みなさん、今晩は。今日は皆さんに素敵な夜のひと時を、ここ『にんじん』でお過ごしいただきたいと思います。」
マスターは、とても流暢な日本語で、話を続けた。
「今晩はちょっとしたアクシデントで、中村先生オーケストラが来れなくなり、急遽我らが友人の健作君と、修君の力を借りて、皆様方に楽しんでいただきたいと思います。
今夜のテーマは、『Night of Lovers ・・・恋人達の夜』です。」

健作と中村先生が目を合わせると、流れるようなピアノのイントロに続いて、健作のアルトサックスは静かに柔らかい音色を響かせ始めた。

スタンダードジャズが流れて来ることを予想していた典子と、智子は思わず顔を見合わせた。
他の聴衆も一様に驚いたような顔をしていたが、あちこちでカップル達は手を取り合って、静かに目閉じて聞き入っている。

この後スタンダードジャズが数曲続いて演奏は終わると、観客達は立ち上がり惜しみない拍手が鳴り止まなかった。

2011.10.19夕焼け.jpgマスターは、再びスポットライトの下に出てくると、マイクを取った。
「皆さん、今日はいかがでしたでしょうか。
最初にお送りしたのは、有名なサックス奏者の西村貴行さんがよくライブで演奏する『流星群』をお届けしました。
この選曲は、健作君のリクエストによるものです。」

マスターは、客席を見渡した後一呼吸置いて続けた。
「さて、われわれ促成カルテットはそんなにレパートリーが多くありません。
そこで、アンコールにお答えするために、最初にお届けした中村先生と健作君のデュオで『流星群』をもう一度お送りしましょう。
そして、今夜のテーマである『恋人達の夜』にふさわしく、ご来場の皆さんぜひチークを踊ってください。」

再び演奏が始まると、芳醇なブランデーを口に含んだときに鼻腔に広がる心地よさに似た豊かさを感じながら、恋人達はステージ前でチークを踊り始めた。
健作の奏でる心優しい豊かな響きは、人々の心を優しく包み込むと、爽やかな余韻を残して演奏は終了した。

しばらくは余韻をかみ締めるかのような静寂の時間が流れた後に、割れるような拍手が沸き起こった。


健作と修は、典子と智子が待つ席に戻ると、典子は待ちかねたように健作に語り始めた。
「私本当にびっくりしました。
だって、カウントベーシーか何かが始まるのかと思ったら、いきなり『流星群』が流れ始めて、最初は何が始まったのか理解できませんでした。
でも、本当に素敵な曲で感動しました。」
「そうそう、ノリと私はもううっとり聞きほれてましたよ。
ところで、この前のライブのときから気になってたんですけど、なんで『スターゲイザー・オーケストラ』っていうんですか?」
智子が訊くと、健作は答えた。
「『Stargazer Orchestra』の『Stargazer』というのは『天文学者』という意味があるんだけど、『宇宙の真理を探究するオーケストラ』って言ったらかっこいいかな。」
健作はそういうと、ジョッキを手に取りビールを流し込んだ。

修は、健作の話しに続いて説明し始めた。
「スピルバーグの『スターウォーズ』は知ってるだろ?
あの映画の中で、様々な異星人の集まる宇宙の酒場みたいなところで、ジャズが流れていたの知ってる?」
「そういえば、ルークがそんな酒場に入っていくシーンがあったようなきがします。」と智子が答えた。
「ああそうそう、それだよ。
健作も俺も子供の頃見たスターウォーズで、あの酒場のシーンが妙に頭に残ったのが、初めてのジャズ経験かな。」
「うん、あの映画を観てから、俺と修はいつもスターフォーズゴッコしてたっけ。
いつの日か宇宙船に乗って宇宙を駆け巡りたいって夢描いていたもんな。
だから、ジャズバンドを作ったときに宇宙を駆け巡るような名前を付けたくて、『Stargazer Orchestra』って名前をつけたんだ。」
健作は、遠くを見つめるような表情をしながら説明した。

「そうだったんですね。
実は私もオーケストラの名前の由来が気になっていたんです。
とっても素晴らしい名前ですね。」
典子は、目を輝かせながら感心すると、健作を見つめた。

健作は、典子の真っ直ぐな瞳に見つめられると、ちょっと『ドキッ』としてはにかみながら典子に話しかけた。
「そうだ、典子さん、今度フルート教えてあげるよ。
音楽は、聴くのも楽しいけど、演奏するのはもっと楽しいんだ。
特にジャズの真髄は、聴くこともさることながら、演奏することにあると思うよ。
メロディー・・・主旋律をどのようにフェイクしていくか、どのような即興演奏をしていくか、何も考えずにひとりでに体が動きだして本当に楽しいんだよ。」
「じゃあ、健作先輩、よろしくお願いします。」
「ああ了解!」
楽しい話は続き、夜は更けていった。

・・・つづく

 


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学生街の四季 5 [学生街の四季]

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健作が時間通り本館のロビーに行くと、そこには典子と智子がすでに待っていた。

「健作さん、こんにちは。」
典子が微笑みながら手を上げると、健作は楽器のケースを足元に置いた。
「こんにちは、典子さん、智子さん。修のやつどうしたんだろう。電話してみようか。」
健作がポケットから携帯電話を取り上げると、そこに黄色と青の変なジャケットを着た修が、息を切らせてやってきた。
「やー、悪い悪い。一度下宿に戻って着替えてきたら遅くなっちゃった。どう、このジャケット!?」
と言うと、くるっと一回りした。

典子と、智子は顔を見合わせると、笑いを堪えた。
健作は典子、智子と顔を見合わせると、
「修、おまえ本気でそんな奇妙な格好していくのか?」
「えっ? これかっこいいだろう。俺気に入ってるんだ。」
「そりゃぁ、着る人が着れば格好良いかもしれないけど・・・
まあいいや、行こうぜ!」
4人は連れ立って、駅へと向かって歩きだした。

「典子さん、智子さん、修と相談したんだけど、俺たちがたまに行ってる生演奏でジャズの聴けるお店に行こうかと思うんだ。
出てくる料理は無国籍!!」と健作が説明すると、
「マスターもなかなか気さくで楽しいお店だよ。」と修が引き継いだ。
「へー、じゃあ今日もジャスが聞けるんですね。楽しそう。」と智子がいうと、
「健作さん、今日も楽器をお持ちですけど演奏するんですか?」と典子が尋ねた。
「あ、いや、今日は演奏はしないよ。
この楽器はね、ちょっと古い楽器なんだけどセルマーのマーク6といって、僕の宝物なんだ。
このケースはアルトサックスとフルートが一緒に入るように特注で作ったケースでね、ケースの外張りはやんぴが貼ってあるんだよ。
ケースに傷がつくのがいやなのと、楽譜をしまえるようにとポケット付きの帆布のケースカバーをつけてるんだ。
フルートはムラマツのハンドメイドモデルで、このケースと中身で安い車だったら新車が買えるかな。
『弘法筆を選ばず』なんていうけど、楽器の世界ではあまり当てはまらないね。」
「『やんぴ』ってなんなんですか?」と智子が聞くと
「あ、『やんぴ』って羊の皮だよ。」と健作は答えた。
「へー、すご~い。結構凝りやさんなんですね。」
典子は瞳を輝かせながら健作の顔を見つめた。


「着いたよ、ここ。」
修が指をさした先には、白い漆喰がまぶしいくらいの壁に、分厚い木製のドアがついた飾り気の無い建物で、
木製の看板にはひらがなで「にんじん」と書かれていた。

2010.12.19 20.jpg

健作が重く分厚いドアを開けると、4人は中に入った。
中は意外と広く、外とは打って変わって暗く落ち着いた雰囲気だ。

「マスター、こんばんは。」
健作と修が挨拶をすると、奥から恰幅のいい中年の青い目で金髪のマスターがでてきた。
「いらっしゃい、健作君、修君。
この前のライブは大成功だったみたいじゃないか、おめでとう。
見ての通りの仕事で、聴きにいけなくて悪かったね。」
「あ、いやいや玄人のマスターに聞いてもらうなんてレベルじゃないですよ。」
健作は、頭をかきながら笑った。
「いやいやどうして、中々のものさ。私は皆さんのオーケストラ好きだよ。
今日は素敵なお嬢様をお連れなんだね。」
「マスター、ありがとうございます。
こちらが智子さん、そして典子さん。同じ大学なんだ。」と修が説明した。
「Very welcome to my restaurant !
Miss Noriko,Miss Tomoko,Please enjoy tonight.」
マスターは、女性人に挨拶すると、小さなステージのかぶりつきのテーブルに案内した。

「典子さん、智子さん、アルコールはどうする?」と修が聞くと
「私はビール。トモチャンは?」
「私もビール。」
「じゃぁジョッキ4つお願いします。それから料理は・・・」
健作は指を3本出すとマスターにウインクした。
「これでマスターにお任せ!」
マスターはニコニコ笑いながら気をつけをすると
「Roger !」と言って敬礼して厨房に戻っていった。

料理が運ばれてくると、おいしいビールと、おいしい料理で会話が弾んだ。
「面白そうなマスターですね。うちのマスターとは大違い。」
智子がおどけた調子で言うと、三人から笑い声がもれた。
「ここのマスターはアメリカ人なんだ。たまにステージに立ってベースを弾くんだけど、これがまた素晴らしいんだぜ。
ところで健作、今日は誰が出るんだっけ?」
「ああ、ジャズピアニストで編曲家の中村先生の率いるバンドが来るはずなんだけど・・・
あマスター、今日のライブはまだ始まらないんですか?」
健作は、丁度料理を運んできたマスターを捕まえて、聞いた。

「ああ、悪いなぁ・・・。中村先生は来てるんだけど、他のメンバーが大阪から戻ってくる途中新幹線が止まっちゃって缶詰になってるようなんだ。」
「え~、そうなんですか。残念だなぁ。中村先生のピアノ聞きたかったのになぁ。」と健作は肩を落とした。
「そうだ! 健作君は今日は楽器もって来てるよね。
修君用のドラムセットはあるし、どうだい、中村先生のピアノ、健作君のアルとサックス、修君のドラムス、
私のベースの促成カルテットっていうのは?」

「いや普段だったらいいですけど、今日は友達連れてきてるからなぁ」と健作が躊躇すると、
「私たちもぜひ聞きたいわ。ねぇノリ!」
「うん、お願いします。」
「修、じゃあやるか。」
「おお、ちょっと面白い展開になってきたね。こういう非日常的なハプニングって大好きなんだ、オレ。」
「よし、じゃぁ、ちょっと裏に行って中村先生と打ち合わせしてくるね。」
健作と、修は席を立つとマスターと連れ立って奥に入っていった。

「ねぇ、ノリ。1回生のときから、健作先輩のこと『カッコイイ』って言ってたけど、ついに射止めちゃったの?」
「違うわよ。まだそんなんじゃないんだったら。まともに話したのは、この前のライブの時が初めて。」
「へ~、そうなんだ。それにしては傍から見ると『昔からの恋人同士』って感じに見えるよ。」
典子は、ビールのせいか恥ずかしかったのかわからないくらい顔を赤くしている。
「そういうトモチャンは修さんのこと、どう思ってるの?」
「そうだなぁー、いい人だと思うんだけど、いまのところそれ以上でもそれ以下でもないかな。
でもね、一緒にいて肩の凝らない楽しい人だよ。」

話しているうちに、ステージに促成カルテットが登場すると、室内の照明は薄暗くなった。

・・・つづく

 

テレビの取材は無事終わりました。
月曜日の朝7時45分位から、NHKの『おはよう首都圏』の中で取り上げられるウェザーニュース社の花粉プロジェクトに関連して、20~25秒程度出させていただく・・・あるいはカットされてしまうかもしれません。

過去には、あるニュース番組で地球温暖化について薀蓄を傾けたり、テレビチャンピオンの審査員を数度やらせていただいた経験があります。

今回は冴えない花粉症に苦しむおじさんといったところでしょうか。


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学生街の四季 4 [学生街の四季]

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健作たちバンドメンバーは、一度楽屋に引き上げて楽器を片付けると客席に繰り出した。

客席は周りがかろうじて見える程度に照明が灯り、いまだ覚めやらぬ熱気を鎮めるかのように、ミルト・ジャクソン・カルテットとスィングルシンガーズの軽快なジャズがスピカーから小さく溢れだしている。

「光彦、今日は来てくれてありがとう。」
「よう健作、今日のお前の演奏、輝いてたな。後半の一曲目の Shiny Stocking は良かったぜ。」
「ああ、ありがとう。あれはうちのバンドの十八番だからね。」

健作はあちこちのテーブルを挨拶しながら、客席の奥へと向かった。
そこには、すでに修が智子と話していた。

5M38.jpg「典子さん、智子さん、こんばんは。」
と健作が声をかけると、典子は一瞬目を輝かせて微笑みながら顔を上げた。
「健作さん、お疲れ様でした。今日は素晴らしい演奏ありがとう。
なかでも最後の Feel So Good にはグッときちゃいました。
そうそう、今日ここでトモちゃんとばったり会ったんだけど、同じサークルなんです。」
「えっ、智子さんもうちの大学の学生だったの?」
「はい、経営学部の2回生です。ノリとは、テニスサークルで一緒なんです。」
「なぁーんだ、世間て狭いもんだねぇ。
おい修、このこと知ってたのか?」
「いや、俺もさっきここで聞いてビックリさ!」
「そうだったんだ。」健作は典子の隣に腰掛けると、話しを続けた。
「いやこれは本当に奇遇だね。
ところで典子さん、今日の演奏はどうだった?」
「はい、最後のアンコールの Feel So Good がフリューゲルホルンじゃなくて、フルートアレンジだったのがちょっと驚きだったけど、あれ、今日の中で最高でした。」
「ああ、ありがとう。
チャックマンジョーネが大好きで、あの哀愁をおびたブラスの響きを木管のフルートで表現出来ないかなぁ・・・なんて考えてチャレンジしたんだ。選曲が成功したかな。」
「あれはまた聴きたいです。」
「ありがとう、うちのバンドの新たな十八番だね。
典子さんは、今でもフルート吹いてるの?」
「いいえ、今は楽器もないし高校卒業以来吹いていません。
今日の健作さんの演奏を聞いて、また吹きたくなっちゃった。」
「そっかぁ、もしよかったら俺の昔使っていたフルート貸してあげるけどどうする?」
「え、本当ですか?
どうしようかな・・・」

「なぁ、健作! 」と、修は意を決したかのように手を上げた。
「今度みんなで食事でも行かないか!?」
「そうだな、典子さん、智子さんどう? みんなでおいしいものでも食いに行こうか!?」
「私は良いけどトモちゃんはどうぉ?」
「私もOKよ。おいしいものにはめがありませ~ん。」

「じゃ、じゃぁ、決まりだね。いつにしようか。」
修は、変に上ずった声を出して機関銃のようにまくしたてた。
健作は、
「今度の金曜日なんかどうかな。俺バイト無い日なんだけど。」と答えると、
「私はお店休むから良いよ。ノリは?」
携帯を開いて日程を確認していた典子は
「私も大丈夫。おいしいものを食べるのが楽しみです。」
と答えた。
「じゃあ、金曜日の5時に本館ロビーで待ち合わせようか。
修もそれで大丈夫だよな?」
「俺がだめな訳ないだろう!」
と修が答えると、典子も智子もうなずいた。
「じゃ、そういうことで。
場所とかは俺たちにお任せでかまわないよね。なんか食べたいものとかある?
そうそう、食べられないものも教えといてくれる?」
「私は・・・そうだなぁ、特に食べられないものは無いから、当日のお楽しみで良いよ。」
と智子が答えると、典子は
「それって面白いね。
当日までどんなおいしいものが食べられるのかシークレットのお食事会なんて楽しみ。」
期せずして4人から笑みがこぼれると、健作は席を立った。
「それじゃあ、この後メンバーで反省会があるから失礼するよ。
修、そろそろ行かなくちゃ。」
「ああ、そうだな。智子さんも典子さんも今日は着てくれてありがとう。」
健作が右手を差し出すと、みんなで握手をして分かれた。

健作と修は話しながら楽屋に向かう廊下を歩いていた。
「良かったな修、智子さん来てくれて。」
「ああ、後半の途中まで智子さんがどこにいるのかわからなくて、落ち着かなかったよ。」
「ははは、ウソ付け!!」と健作は修の頭を小突いた。
「お前のドラムスは、前半からノリノリで切れ味鋭い日本刀のようだったぜ!」

・・・・つづく


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学生街の四季 雑感 [学生街の四季]

9M38.jpg最近なんのお知らせも無く、いきなり小説をアップし始めました。
今まで3回アップしました。
まだお読みになられていない方は、次のリンクからご覧ください。

 ⇒学生街の四季1
 ⇒学生街の四季2
 ⇒学生街の四季3

皆様からは、「実体験ですか?」とのお問い合わせを多々頂いております。

私は小学生の頃にフルートを始めました。
当時の先生が私の才能を見越して「絶対にプロを目指すな!」と言われたことを今でもしっかり覚えています。

ずっとクラシック一筋で学んできましたが、あるときジャズと出会い・・・というより、ある高名なジャズピアニストに出会ったことにより、ジャズの道を進み始めました。

小学生の頃の先生の教えを守り(?!)、プロの道には進みませんでしたが、何事も中途半端の嫌いな私は、結構なレベルではなかったかと思います。

多くのステージで演奏してきた経験が、多少小説を書くのに生かされています。

ステージの上でピンスポを浴びて演奏しているときの高揚感、ライブでマイクを握って語っているときの聴衆との一体感、それらはつい昨日のように脳裏に焼きついています。

そういう意味では、ノンフィクションですね。

以前から小説を書きたいと思い続けて、枕元にはネタ帳を・・・結構面白い夢を見ることがあるので、見た夢などを忘れないうちに書きとめようと・・・置いて、いろいろ書きなぐったりしています。

そんな中で、ちょっとしたきっかけをある方から頂いて、書き始めてみました。

実はこの話しは、エンディングをどうするかを決めかねていて書くことが出来ずにいたのです。
しかし、書きたいという思いは強くなり、気がついたら第一話を書いていたという次第です。
この話も、SF小説ばりの時空を越えたストーリーのバージョンも考えていたのですが、きわめて普通の青春恋愛小説みたいな話で始めてしまいました。

書いてみると、普通の『本』と違い、写真あり、YouTubeの音楽ありで、普通の本を読むより面白いのではないかと思うようになりました。
これって、新しい形の読み物といってもいいのではないでしょうか。

YouTubeのプレーボタンをプチッとしてBGMを聴きながら読んで頂くと、より一層臨場感が増して楽しく読めるのではないかと思います。

素人が書き始めた小説です。
至らないところが多々あると思いますが、気がついたことがあれば、何なりとご意見をいただければ幸いです。

今後のお話の展開をお楽しみに(^_-)☆!!

さて、こんな話ばかりでは面白くないので、最後に写真を2枚アップします。

今日は昨年12月に行なわれた旧車祭の模様を記録した映像が出来上がり、その試写会に行ってきたときに駐車場で撮影した車のうちから2台をご紹介しましょう。

2コルベット.jpg

1トライアンフ.jpg

2台ともコンクールコンディションの素晴らしい車達です。


学生街の四季 3 [学生街の四季]

学生街の四季1~21は次のリンクからご覧ください。
⇒学生街の四季1 ⇒学生街の四季2 

⇒学生街の四季3 ⇒学生街の四季4
⇒学生街の四季5 ⇒学生街の四季6
⇒学生街の四季7 ⇒学生街の四季8
⇒学生街の四季9 ⇒学生街の四季10
⇒学生街の四季11 ⇒学生街の四季12
⇒学生街の四季13 ⇒学生街の四季14
⇒学生街の四季15 ⇒学生街の四季16
⇒学生街の四季17 ⇒学生街の四季18
⇒学生街の四季19 ⇒学生街の四季20
⇒学生街の四季21 学生街の四季22

 

「ありがとうございました。ここで10分間の休憩にします。」と健作が告げると、会場の照明が戻ってきた。

会場が見渡せるようになるとほぼ満席で、外の寒さを吹き飛ばすような熱気がむんむんとしている。
テーブルの上には、来られたお客さんの注文した軽食とビールのグラスが載っていた。

12.jpg会場は30人も入ればいっぱいになるようなライブハウスで、ステージの広さは普通の家のリビング程度の広さしかない。
健作率いる STARGAZER ORCHESTRA は、アルトサックス2人、テナーサックス、バリトンサックス各1人、トランペット3人、トロンボーン3人、ギター1人、ベース1人、ドラムス1人の合計13人と少人数でやっているので、誰かひとりかけても演奏に差しさわりが出てくる。
今回はフルメンバーが参加していた。

楽屋に戻った健作たちは、スチール椅子に座って、ペットボトルのミネラルウォーターを飲んでいた。
修が健作の隣にやってきて座ると、話しかけてきた。
「なぁ健作、智子さんは見当たらないよなぁ?」
「そうかい? 客席は暗くてよく見えないからなぁ。」
「あの典子さんも来てないだろう?」
「あぁ、よくわからないよ。とにかく演奏に集中してるからな。
前半の修のドラムスは、息がぴったり合って、なかなか良かったぞ!」
「そうだな、健作のむせび泣くようなアルトサックスも最高だったぜ。」

健作は壁の時計を見上げると立ち上がった。
「さぁみんな、この調子で後半もばっちり決めようぜ!」

客席が再び闇へと落ちていくと、健作はマイクを握ってピンスポの下に立った。
「皆さん、前半はいかがでしたでしょうか。
今日は、カウント・ベイシーオーケストラをカバーしてお届けしています。
前半は、第二次世界大戦前の所謂オールドベーシーと呼ばれる初期の作品をお届けしました。

皆さんご存知の通り、カウント・ベイシーはピアノ奏者として自身の楽団を率いて、デューク・エリントン、グレン・ミラー、ベニー・グッドマンなどとともに、ジャズ界で一時代を築いた素晴らしい才能の持ち主です。

彼の本名は、ウィリアム(ビル)・ジェイムズ・ベイシーといい、『カウント』は『伯爵』を意味する称号です。
この時代のジャズミュージシャンは、キング・オリバー・・・王様のオリバー、デューク・エリントン・・・公爵のエリントンなどと、あだ名で呼ばれることが多かったようです。

1904年生まれの彼は、母親からピアノを習いました。一時はドラマーを志した頃もあったようです。
アメリカ各地の地方を巡業したり、バンドに入って演奏活動をしたりしていましたが、1935年にカウント・ベイシーオーケストラを結成します。

第二次世界大戦後の不況で一時バンド活動を休止していましたが、1951年・・・これは我が家の車と同い年です・・・に再結成されます。

これ以降をニューベイシーと呼ばれ、カンザスシティージャズの伝統をベースに、現代風のモダンなアレンジが評判となり、第二期黄金期を築きます。
後半は、そんなニューベイシーから数曲お届けしましょう。

まず後半のスタートは、典型的なニューベイシーサウンドと呼ばれている『Shiny Stockings』です。
どうぞお楽しみください。」

健作はゆっくり会場を見渡したが、典子がいるのかどうかよく分からない。
『やっぱり典子さん、来てくれなかったのかなぁ・・・
智子さんもいないみたいだし・・・修のやつがっかりして落ち込まなきゃいいけどなぁ・・・
おっと、集中、集中! 来た人たちに感動を持ち帰ってもらわなくちゃ!』

曲は、2曲目、3曲目と続き、あっという間に最後の曲が終わった。
鳴り止まぬ拍手の中、心地よい疲労感に浸りながらバンドのメンバーは立ち上がると会場に向かって一礼した。

「アンコール、アンコール、アンコール・・・」聴衆もまた心地よい感動の中で手をたたきながら声をあげている。
健作は、灯りの戻った客席を見渡すと、隅の一番暗いところに典子と智子は一緒に座って手をたたいていた。

健作は、思わず自分のほほが緩むのを感じると、マイクを手に取った。
振り返って皆にアンコール演奏の目配せをすると、修もニヤニヤ笑っている。

「皆さん、ありがとう!」健作がマイクに向かって話し始めると、会場は水を打ったようにシーンとなった。
「本日は、お忙しいところ、貴重なお時間を割いてお越し頂き、ありがとうございました。
外は寒風吹きすさぶ中、この建物の中は皆さんの熱気でヒートアップしています。」

少年.jpg会場からは、口笛が鳴り、拍手が沸き起こった。

「さて、皆様の熱烈なるアンコールにお答えしてお送りする曲は、このヒートアップした熱気を心地よい余韻へと変えるためにお送りしたいと思います。
チャックマンジョーネのフリューゲルホルンをフルートでフィーチャーした『 Feel So Good 』です。
健作はアルトサックスをフルートに持ち替えると、修に目配せした。
修はスティックをたたいて合図を出すと、曲は始まった。

 

 

健作はリズムとメロディーの中に埋没していくと、いつしか大草原を渡る爽やかな風となり、蒼穹の天へと駆け昇っていた。
聴衆の拍手と口笛の音で我に返ると、演奏は終わっていた。

・・・続く


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学生街の四季 2 [学生街の四季]

学生街の四季1~21は次のリンクからご覧ください。
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「じゃあキーはB♭メジャー、12小節ワンコーラスでいくよ。
最初は、俺、次が秀人、修のドラムソロを入れて、武、俺の順番で。」
「ワン、ツー、スリー、フォー」

プレハブ小屋の部室では、健作たちがライブに向けて練習をしていた。
グラウンドの片隅に建つ部室の窓は、真っ暗な闇の中に煌々とした輝きを放ち、心地よいスイングの響きが聴こえてくる。

練習が終わると、トランペットを吹いている一年後輩の秀人が話しかけてきた。 
「健作先輩、お疲れ様でした。
 今日は先輩のアルトサックス、切れが違いますね。なんかノリノリだったけど、何かいいことでもあったんですか?」
「ああ、秀人もなかなか良かったじゃないか。この調子でライブ頑張ろうぜ!
 ところで、お前の学部の同級生で『黒木』って子知ってるか?」
「えっ、黒木ですか。知らないわけじゃないけど・・・
 黒木がどうかしたんですか?」
「あっ、いや今度のライブ聴きにきてくれるんだ。」
そこにドラムを片付け終わった修が口を挟んできた。
「健作、ひょっとしてあの廊下ですれ違った子かい?」
「ああ、そうなんだ。この前駅でばったり会って、ライブのこと話したら、聴きにきてくれるってさ。」
「そいつぁいいや、楽しみだね。」
「さぁ、帰ろうぜ。明日も早いしさ。
 あれ秀人、さっきまでの元気はどうした?!」
「あっ、いや何でもありません。ちょっと用事があるんでお先に失礼します。」
「秀人のやつ、急にどうしちゃったんだ? 変なやつだなぁ
 健作、ちょっとだけ付き合えよ。飯でも食っていこうぜ。」
「ああ、いいよ。どこに行こうか。」
「うん、駅の反対側にちょっと小洒落た店を見つけたんだ。」
「了解!!」

二人は駅に向かって歩き出した。
「健作、実は俺さぁ、気になってる子がいるんだけど、お前みたいにライブに誘うことも出来なくてどうしたらいいか困ってるんだ。」
「なんだ修、お前らしくないなぁ。お前のたたくドラムみたいに力強くてテンポよくポンポンポ~ン♪て、誘っちゃうんだよ。」
「そんな簡単に言うけど、なかなか・・・おっと、ここ、ここだよ。」
20 清里.jpg山小屋風の洒落た建物の入り口には観葉植物が並んでいて、「無国籍料理 西武門」と書かれた木の看板が軒からぶら下がっていた。

扉をあけると、カウベルがカランカランと鳴り、中にいた店員が振り返った。
「いらっしゃいませ・・・あら修さん。今晩はお友達とご一緒なの?」
「ああ、われ等がリーダーの健作だよ。」
「はじめまして、健作です。」
「よくいらっしゃいました。私は智子です。よろしくね。」
ショートカットでちょっとボーイッシュな感じが笑顔とよく似合う。
「こちらへどうぞ。修さんはいつものね。健作さんは、どうしますか?」
「ああ、俺も修と同じもので良いや。」
「了解しました。しばらくお待ちください。」
芝居がかった敬礼をすると智子は厨房に入っていった。

店内にはウィンダムヒルの癒されるようなアコースティックサウンドがかすかに流れていた。

「おい、修!おまえ、何時の間に『いつものやつ』なんて頼めるくらいの常連さんになっちゃったんだ?
 ひょっとして、さっきお前が言っていた気になる子って・・・」
「ああ、そうだよ。あ・の・子!!」
ちょっとはにかみながら修は答えた。

21 清里.jpg「はい、お待ちどう様。南インド風の豆とチキンのカレーです。」
運ばれてきた料理からは、湯気が立ちいい匂いが漂ってくる。
智子は料理を置くと、すぐに他の客に呼ばれて立ち去った。
「健作、これなかなかいけるんだぜ。」
「おいおい、そんなことよりいいか、食い終わって皿を片付けにきたら、ライブのチケット渡すんだぞ!」
「ああ、わかったよ。」

二人は普段とは打って変わって黙々とカレーを平らげると、智子の姿を探して店内を見渡した。
「お食事はお済みですか?」と、智子はまるで図ったようなタイミングで現れた。
「あ、ああ、とてもおいしかったですよ。修のやつ、こんな素敵なお店もっと早くに教えてくれたらよかったのに!」
「ありがとうございます。それじゃあお皿片付けさせていただきますね。」
「おい、修!」と言って、健作はテーブルの下で修の足を蹴飛ばした。
「あ、あの・・・と、智子さんジャズなんて嫌いですよね。」
「おい修っ!」と健作は声を上げると「あ、いや智子さん、俺たち一緒にジャズバンドやってるんだ。」と取り繕った。
「あの、今度の土曜日の夜ライブやるんだけど・・・これチケットです。」
修は、智子の返事を待たずにチケットを差し出した。
一瞬智子は驚いたような表情を微かに見せたが、きらきら輝く笑顔で、
「はい、今度の土曜日はマスターの都合が悪くてお店お休みだから、伺います。」と言って、チケットを受け取った。
「えっ、ホント!! やったぁ」と修は、思わず声を上げてしまうと、他の客から何事かとにらまれてしまった。

挨拶もそこそこに、健作は修の腕をつかむと扉をあけて、外に出た。
「おめでとう修。まずは成功だな。・・・あれ修、せっかく誘ったのに何さえない顔してるんだ?」
「健作は、黒木さんが来てくれるか心配じゃないのか?
 なんか、智子さんが本当に来てくれるのか心配になってきちゃったよ。」
「なぁんだ、そんなこと心配してもしょうがないだろう。とにかく、いい演奏しようぜ。」
 じゃあな。」
「ああ、お休み。」

・・・・・続く


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学生街の四季 1 [学生街の四季]

 

学生街の四季1~21は次のリンクからご覧ください。
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健作と修は、次の授業に向かうために、廊下を歩いていた。
「健作、今度のライブだけどさぁ・・・」
「ああ、今度のライブはベーシーのカバーでいくぜ。」

正面から歩いてきた女子学生は健作たちとすれ違い様挨拶をして通り過ぎていった。
「こんにちは!」
健作は、ちょっと戸惑いながら応える。
「あ、ああこんにちは。」

「おい、健作。今の可愛い子、誰だよ。紹介しろよ!」
「あ、いや知らないんだよ。こっちが教えて欲しいくらいだよ、修。」
「えーっ、知らないわけ無いだろう。親しそうに挨拶してったじゃないか。」
「ホントに知らないんだよ。
ある日気がついたら、すれ違う時に会釈していくんだ。
そのうち、『こんにちは。』って挨拶するようになって。
多分学部が違うから面識ないんじゃないかな。」
「へー、そうなんだ。いまさら、『君だれ?』なんて聞けないね!」
「そうなんだよ。ちょっと気になってるんだけどね。」

数日後、健作は授業を終えて、バイトに向かおうと駅に向った。
いつも時間がぎりぎりになるので、階段に近い前から4輌目の2つ目のドアの場所に行くと、前に女性が並んでいた。
その女性は、人の気配に振り返った。

「あら、健作さん、こんにちは。」
「ああ、こんにちは。・・・君、僕の名前知ってるんだ。
ごめんね、君は・・・」
「あっ、ごめんなさい。黒木です。黒木典子。教育学部2回生です。」
「黒木さん・・・ですか。そうなんだ、じゃあ一つ下だね。いつも挨拶してくれて、ありがとう。」
典子の瞳がキラキラ輝いて、笑うとえくぼが可愛らしい。
「『典子』でいいですよ、健作さん。・・・て、ごめんなさいね、いきなり健作さんなんて呼んで。」
「いいよ、友達からもそう呼ばれてるから、あだ名みたいなもんだよ。」

1東急東横線.jpg

電車がホームにすべりこんでくると、扉が開いて二人は乗り込んだ。
「健作さん、ジャズバンドでアルトサックスと、フルート吹いてらっしゃいますよね。
私も高校まで吹奏楽部でフルート吹いてたんです。
大学祭のときに健作さんのバンドの演奏聴いて、健作さんのフルートの音色が、とてもよく通る素晴らしい音色だなって感心してたんです。」
「そうなんだ。今度ライブやるんだけど聴きにきてくれないかな。
今度のライブは、カウントベーシーのカバー中心にやるんだけど、一曲だけ、チャックマンジョーネの曲をフルートソロでアレンジしたものを入れるんだ。ジャズは嫌い?」
「いえ、嫌いじゃないんだけど、今まであんまり聴いたことがないんです。
是非、聴きにいきます。」

健作はチケットをカバンから出すと、典子に手渡した。
「じゃあ、これ。今度の土曜日だよ。待ってるね。」
「はい、ありがとうございます。」
「じゃあね。僕はこれからバイトだから、ここで降りるんだ。」

電車の扉が開くと、健作は飛び降りた。
二人は、閉まる扉越しに会釈をして手を振った。

・・・・・つづく

You Tube の曲は、岩崎宏美さんの『学生街の四季』です。
とてもいい曲で、発売されたときは、『これ絶対ヒットする。』と思ったのに、意外とヒットせずに終わりましたが、宏美さんはいまでもコンサートなどで歌われています。
発売当時、この曲が大好きでいつも、いつも聴いていました。

写真は、祐天寺駅にすべ込んでくる東急東横線です。
ナイアガラの乗務が終わって駅にくると、夕焼けがとても綺麗で、カメラを向けると向こうから電車が走ってくるところでした。


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