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東京の坂と橋 番外編131 奥多摩湖ロープウェー2 [東京の坂と橋]

ロープウェーから見る奥多摩湖の景色はすばらしく、周りの山々のみどりも目に優しい。
あっという間に対岸の川野駅に到着すると、扉が開いた。

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ゴンドラから降りると、まず運転室を見学させていただいた。

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「失礼します、見学させてください。」

「ああいいよ、どうぞ。この右手にあるハンドルが万が一のときの手動ブレーキだ。
そして、この正面にある機械がロープウェーの制御板だよ。」

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「上にある細長いメーターのようなものはなんですか?」

「ああこれね、これはロープウェーが索道のどこにいるのかを表示するものだよ。
一番左が川野で、0mと表示されているね。右が三頭山口で、630mと表示されているだろう。」

「ありがとうございました。機械室も拝見させていただけますか?」

「ああ、一度運転室からでて、その脇の階段を降りてくれたまえ。」

機械室に向かうと薄暗い中に、主電動機(モーター)が部屋の中心に置かれている。

60ロープウェー.jpg

これが、このロープウェーのゴンドラを動かす心臓部だ。

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上の写真では、左に動力が伝わり、さらにケーブルをまわす大きなプーリーにつながっている。

「おや、右にもシャフトが出ていますが・・・ん、エンジンがある!」

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「ああ、これは補機だよ。万が一停電等でモーターが回らなくなったとき、このエンジンを動かして、安全にゴンドラを駅まで動かすものだよ。

エンジンには、「トヨタR型消防用エンジン」と銘板が付いていた。
室内は機械油のにおいが心地よいくらい漂っていて、ケーブルは黒光りしていた。

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63ロープウェー.jpg

「ありがとうございました。それでは失礼します。」

機械室を出てプラットフォームにもどり、出口へと向かうと、正面にはトイレがあった。

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階段を登りつめたところが改札口だ。

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ここも屋上が展望台になっているので、一度建物の外に出て展望台へと向かった。

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屋上から見る山々は、とても素晴らしい。

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「さて、そろそろもどろうか。」

再び切符を買うと、改札を入りゴンドラへと向かった。

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「おっ、こんどは『くもとり号』だ。」

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56ロープウェー.jpg 

早速乗り込むと、先頭のかぶりつきに陣取った。
程なくして発車のベルが鳴ると、扉が閉められて湖の上へと滑り出した。

後ろを振り返ると、青梅街道のオレンジ色の橋が見えている。

51ロープウェー.jpg

湖の中央に近づくにしたがって、前方からもゴンドラがやってくる。
「ん、誰か乗ってるね。カップルかな・・・
えっ、あれは・・・えっ、そんなバカな。」

なんと向こうからやってくるゴンドラに乗っていたのは、子どもの頃に別れてしまった父と母だった。
し、し、しかも異様に若い。他人のそら似か・・・いや、違う。確かに父と母だ。僕にはわかる。

何時しか窓にかぶりついて腕がちぎれるほど振っているのに、 向こうのゴンドラに乗っている父と母はまったく気がつく気配が無い。

すれ違いざま泣き叫びながら向こうのゴンドラへと手を伸ばした瞬間、身体が窓から飛び出して、湖面へ向かって落下した。

身体が軽くなって、エレベーターで降りるときのような浮遊感がなぜか心地よい。

永遠に続くと思われた落下が不意に止まった。

「おい、駅員3君、おい!」

「えっ・・・ あっ、教授・・・ ・・・・僕は・・・いったい・・・」

「いやさっきまで気持ちよさそうに寝ていたのに、急にうなされだして叫ぶから起こしたのさ。」

「えっ、寝てた・・・」

「ああ、この駐車場に車を止めると、『ちょっと疲れました。』といっていびきをかき始めたから、私はちょっとトイレに行ってきたんだよ。」

「えっ、でも教授とロープウェーに乗って対岸まで行ったじゃないですか。
オレンジ色の橋がとてもきれいで、山並みが幾重にも重なって素晴らしい景色を観たじゃないですか。」

「アッハッハ、それは君、『夢』というものだよ。」

僕は急いで車から降りると、山を見上げた。

そこには、錆だらけでとても動くとは思えないようなゴンドラと裏寂れた廃屋の駅が見えていた。

65ロープウェー.jpg

「さっきゴンドラに乗ったのはなんだったんだろう・・・」

ふと手をポケットに入れると硬い紙が出てきた。

0切符.jpg

なんと昭和41年11月30日の日付が捺されたロープウェーの切符だった。

                                                      完

奥多摩ロープウェー(正式名称『川野ロープウェー』)は、1962年(昭和37年)1月に開業した。

当初は東京方面からの観光客も多く賑わったようだが、両駅の標高差はわずか65cmしかなく変化に乏しいこと、さらには630m弱と短距離であったため、客足は遠のいた。

1966年(昭和41年12月1日)に「冬季休業」としたが、そのまま再開せずに1975年(昭和50年)に運行休止申請が提出された。

その後運営主体の小河内観光開発株式会社は実態が無くなり、経営責任者の消息も不明となっている。


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コメント 42

くまら

何故か、作品見てて
バイオハザードを思い出しました^^;
by くまら (2013-02-21 00:36) 

銀狼

これからは「教授」と呼ばせて頂こうかしら^^
by 銀狼 (2013-02-21 00:42) 

motosoft

くまらさんの意見に、1票。
by motosoft (2013-02-21 00:49) 

ちょいのり

ご無沙汰しております教授^^

---やはり夢の中の出来事だったのですねアレは。
とてもリアルで心地よく、そして懐かしい思いのする夢でしたーーー

また旅に出られる時にはご同伴させてくださいねw
by ちょいのり (2013-02-21 03:46) 

すー

おはようございます

途中からドキドキしながら読んでいた自分に気が付きました。
(^_^)ニコニコ
by すー (2013-02-21 04:48) 

めぎ

くもとりさん、そばかすが♪
by めぎ (2013-02-21 04:58) 

pandan

昭和41年〜産まれた年です。
by pandan (2013-02-21 05:15) 

YUTAじい

おはようございます。
管理責任者不明で放置ですか・・・少し危険な感じもしまね。
心地良いストーリーでした!
by YUTAじい (2013-02-21 05:40) 

takenoko

最後の日に乗ったんですね。ということはマニアだった??
by takenoko (2013-02-21 05:56) 

夏炉冬扇

お早うご゛さいます。
世界産業遺産登録できそうです…
by 夏炉冬扇 (2013-02-21 06:14) 

さる1号

休業してから半世紀近いのですね
その割に機械が綺麗な気が
でも何故ここに作ったのでしょうねぇ
by さる1号 (2013-02-21 06:15) 

風太郎

立地的に厳しいですよね。。。
あまり観光スポットないし。
今ならば山のふるさと村や都民の森がありますからねぇ。
by 風太郎 (2013-02-21 06:22) 

ナビパ

操作室や動力装置が興味深いです。
予備の駆動装置がエンジンなんですね。
探検楽しそうd(^_^o)
by ナビパ (2013-02-21 06:46) 

下総弾正くま

教授が教授になる前のお話でしたか(-_-)ニヤリ
こういうところに漂う機械油とか石炭の匂いは大好きです…(*´ω`*)
by 下総弾正くま (2013-02-21 07:13) 

なんだかなぁ〜。横 濱男です。

昔見た、土曜日のサスペンスドラマの1シーンのようです。
by なんだかなぁ〜。横 濱男です。 (2013-02-21 07:21) 

沈丁花

スリル満点・・・ドキドキしました。現実か〜夢の区別が出来ませんでした・・・面白かったです〜
by 沈丁花 (2013-02-21 07:23) 

リン

ここにも教授が?!
なんかせつなくなるロープウェイですね。
by リン (2013-02-21 07:23) 

獏

こんな廃墟に一人で・・・怖い~と
思っていたら・・・・(^m^)☆♬

by 獏 (2013-02-21 07:45) 

馬爺

本当に開業が短期間だったんですね、現在ならどうだったでしょうか?
by 馬爺 (2013-02-21 07:47) 

haku

ロマンのあるお話ですねぇ、教授♪
駆動装置、メンテしたらまだまだ働きそうですね! ^m^
by haku (2013-02-21 08:08) 

もーもー

人の来ない  廃墟は  何か  潜んでいそうです
それでも  そっくり  そのまま  残ってるんですね 
  ドキドキして  読みました
夢    遠い遠い昔の   悲しい  思い出でしょうか・・・・・
by もーもー (2013-02-21 08:22) 

kiyo

駅員3さん、
ん?
やはり、コラボでしたか?
夢の中?
いいなぁ。
by kiyo (2013-02-21 08:25) 

ikamasa

運転席や内部の説明がとても専門的なのにわかりやすかったです。夢がさめてよかったですね。そのままだと一緒にのっていったかもしれないですね。
by ikamasa (2013-02-21 08:53) 

ソニックマイヅル

ものすごく昭和の香りがしてきそうですね。昔はこんな装置で動いていたんですね。^^;
by ソニックマイヅル (2013-02-21 09:13) 

お茶屋

高低差65cmでもロープウェイができるんですね^^;
by お茶屋 (2013-02-21 10:25) 

tooshiba

ルポルタージュかと思いきや、ミステリアスファンタジー!
若き日のご両親が「こっちにおいで」と呼んだら、もしかして。。。
by tooshiba (2013-02-21 11:18) 

orange

思い出の場所なのですね。
春を待つ山里で記憶の中のお父様とお母様と言葉を交わす事は出来ずとも、
きっと今の駅員3さんを見守ってくださっていますね。
41年...
by orange (2013-02-21 14:08) 

koh925

今、振り返ると失敗例であったのでしょうが
当時は注目されたのでしょうね
by koh925 (2013-02-21 15:21) 

hatumi30331

物語り・・・・ですね〜
教授!
by hatumi30331 (2013-02-21 16:21) 

海を渡る

まだそのまま残っているのが凄いですね^^。
by 海を渡る (2013-02-21 16:43) 

yoko-minato

びっくりしました、そういうことだったのですね。
こんなに錆びていて大丈夫?
トイレ、怖い~なんて思いながら読んでました。



by yoko-minato (2013-02-21 17:35) 

schnitzer

ずいぶんと年季の入った機器類で心配でしたが、安全面は考慮されているのですね。
トイレの移らない鏡が素敵です(笑)
by schnitzer (2013-02-21 21:10) 

美美

お連れがいらしたんですね(^^
これから教授って呼ばれそうですね(笑)
責任者の消息が・・・恐いですw
by 美美 (2013-02-21 21:11) 

mk_papanero

解体されずに残っているんですねぇ。
by mk_papanero (2013-02-21 21:32) 

トックリヤシ

夢だと感じていながら、引き込まれて読んでしまいました(^^;
by トックリヤシ (2013-02-21 21:47) 

yuzuhane

今日も印象的なお写真がいっぱいでした。特に4枚目のシルエット。こんない機械もそのままで廃業になたんですね。記事もストーリー仕立てで楽しませていただきました。
by yuzuhane (2013-02-21 22:07) 

oink!

物語の最後、機械室にタモリが出てきそうです^^
by oink! (2013-02-21 22:28) 

johncomeback

首都圏に住んでいたら、ハイラックスの後部座席に乗せて欲しい。
by johncomeback (2013-02-21 22:31) 

唐津っ子

写真と文章が凄くマッチしていて引き込まれました.
まさにデジャブですねぇ,教授!!!
by 唐津っ子 (2013-02-21 22:34) 

キャスリーン・ケリー

すっかりご無沙汰しておりました。相変わらず行動的な日々お送りのご様子(^_^)v 感心します。
by キャスリーン・ケリー (2013-02-21 23:05) 

DEBDYLAN

教授に奥多摩・・・
どっかで読んだような^^w

by DEBDYLAN (2013-02-21 23:05) 

そらへい

夢の場面は、なんだか胸にぐっと来ました。
by そらへい (2013-02-23 21:37) 

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