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東京の坂と橋 四方山話60 報土寺と鐘 [東京の坂と橋]

通常の仕事と、2月2日に行う講演の準備で毎日錯綜していて、ゆっくり記事を書く時間がとれず、今日は3年前に『三分坂』を取り上げた際に書き込んだサイドストーリーの再掲出である点、お許しいただきたい。

つい最近、この話はあるところで執筆しているコラムに、3年前に書いた内容を元に新たに書き下ろしたものだ。

三分坂については、いつもご訪問頂くkoh925さんはじめ多くのブロガーさんが取り上げており、いまさらながら言及するまでもないものと思うので、簡単に済ませて本題に入りたい。


三分坂は、赤坂のTBSの南側、青山通りから薬研坂を下って上りきった先にある急な坂だ。
江戸時代、あまりの急坂のため、この坂を上るルートを通る荷車は、3割増しの料金を取ったことから、『三分坂』と名前がついたとか。

DVC00019.JPG

日露戦争で名を馳せた乃木希典大将は、乃木坂にある自宅を人力車ででると、近衛歩兵第三連隊(今のTBSの辺り)に向かうとき、この三分坂を通ったと記録に残っている。
その際子供好きの乃木大将は、三分坂の下から後棒を担いでくれた駄賃稼ぎの子供の頭をなでたという。

三分坂の下には『報土寺』という寺があるが、この地に移転してきた1790年(安永9年)頃に築かれた築地塀がとてもすばらしく、港区の文化財に指定されている。

DVC00009.JPG

雷電墓.jpg報土寺には、もう一つ有名なものがある。
それは、江戸時代後期の力士『雷電為右衛門』の墓だ(右写真)。

雷電は26年間の力士生活の中で、敗れたのはわずか10回、生涯勝率は9割6分2厘と大相撲史上最強の力士と謳われている。
そんな力士が『横綱』という免許皆伝をもらえなかったのは、大相撲の七不思議の一つとか。
ちなみに、富岡八幡宮にある横綱力士の碑には、「無類力士」として横綱と同格に扱われている。

その雷電は、文化年間に報土寺に失われた鐘を寄進したことから、 同寺と深いつながりができた。
雷電が寄進した鐘には、『天下無双』と銘を入れたことから、幕府の怒りをかって壊されてしまったという。

 

長らく鐘はなかったが、1908年(明治43年)に復元され、第18代横綱大砲右ェ門が一番鐘をついた。

その後物資不足にあえいだ太平洋戦争も末期の1943年(昭和18年)に、戦時下の金属回収にあい鐘を供出してしまう。
当時の住職は、涙を流しながら最後の鐘をついたそうだ。

時はくだり1988年(昭和63年)、たまたま港区の史跡めぐりの一行が、あきる野市戸倉にある普光寺を訪れた際、その寺の鐘に『東京市赤坂咲柳山報土寺』と銘の刻まれていることを発見する。

その普光寺も1944年(昭和19年)に鐘を供出したが、戦後つぶされずに残った鐘を抽選で配られた際にやってきたものだった。

その後両寺で話し合った結果、1989年(平成元年)12月に46年ぶりで鐘は報土寺に戻り、その一番鐘を第58代横綱千代の富士がついた。

残念ながら、戦前涙を流しながら見送った住職は亡くなっており、そのご子息に代替わりしていた。
亡くなった先代の住職は子供の教育にも熱心で、生前毎年あきる野市戸倉にあるキャンプ場で、『子供キャンプ村』を主催していた。

そのキャンプ場は普光寺からも近く、普光寺から伝わってくる鐘の音を聞くと、先代の住職は手を合わせて「なんと良い鐘の音か。」といい、聞き入っていたという。

先代の住職と、この鐘は心で結ばれていたのだろう。


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ちょいのり

巡り巡るとはこういうことなんでしょうね^^
どこかで途切れていたら・・・無かったお話になっていたかもしれないけれど、
どこかでなにかが続いていると思うと面白いです^^

by ちょいのり (2013-01-25 02:20) 

すー

おはようございます

あくまでも、仕事優先でお願いしますね!
by すー (2013-01-25 04:26) 

pandan

けっこう急な坂ですね。
by pandan (2013-01-25 05:24) 

沈丁花

良いお話ですね…  m(__)m アリガトォ(._.)オジギ
by 沈丁花 (2013-01-25 05:36) 

さる1号

その鐘の音、聴いてみたいですねー
縁を感ずる音色かなぁ^^
by さる1号 (2013-01-25 06:15) 

獏

素敵な鐘のお話ですね^^)
音色を聞いてみたいです☆

by 獏 (2013-01-25 06:17) 

風太郎

素晴らしい歴史ですね。
どこかでちゃんと繋がっているんだなぁ。
コチラの三分坂、とても急ですよね。
by 風太郎 (2013-01-25 06:32) 

ナビパ

9割以上の勝率で横綱に成れなかったの不思議ですね。
どんな理由があったんでしょうね。
強い日本人横綱現れないかな。。。
by ナビパ (2013-01-25 06:50) 

ryuyokaonhachioj

かなり、坂と言っても数はあるんですね。
名の知れた坂、自然に出来たような坂
などがね。
by ryuyokaonhachioj (2013-01-25 06:59) 

下総弾正くま

長野の道の駅「雷電くるみの里」の雷電資料館には高見盛関のサインがありましたね^^;
by 下総弾正くま (2013-01-25 07:20) 

hatumi30331

私も坂道大好きです。
撮るの難しいですよね。^^;

お忙しそうですね。
くれぐれもご自愛下さい。
私も・・・いくつか・・・抱えています。
ため息が混じります。へへ;
by hatumi30331 (2013-01-25 08:29) 

YUTAじい

おはようございます。
坂道・・・神楽坂地元ですが最近辛く(運動不足)。(笑)
私は体調・・・絶好調です。(爆)
by YUTAじい (2013-01-25 08:43) 

馬爺

いいお話ですね、釣鐘や仏様まで溶かして鉄砲の弾に化けたんですから本当に戦争の為に勝ち有るものがなくなってしまったのは残念ですがこのような美しい話も残って居るんですね。
鐘の音はお寺さんによって違いが有り確かに聞きほれる鐘も有りますね、
余韻が可なりながく続く鐘の音が夕方に聞こえてきます。
by 馬爺 (2013-01-25 09:14) 

cafelamama

三分坂、懐かしいです。
会社員時代、この坂をなんど上り下りしたことでしょうか。
by cafelamama (2013-01-25 10:13) 

夏炉冬扇

こんにちは。
梵鐘の話★★★
by 夏炉冬扇 (2013-01-25 12:16) 

kiyo

駅員3さん
久しぶりの東京の坂シリーズは、再掲と言っても、
改めて書き直されているので、新記事として、何の問題もないと思いました。
東京は本当に坂の多いところですよね。長崎程ではないかもしれませんが。
by kiyo (2013-01-25 12:32) 

(。・_・。)2k

スゲ~急な坂ですね(^^;
3分じゃ割が合わない気もします

by (。・_・。)2k (2013-01-25 15:18) 

johncomeback

感動的なお話ですね。坂にはいろんな物語があるんだろうなあ。
by johncomeback (2013-01-25 16:37) 

ニッキー

良いお話ですねぇ^^
こういうお話を聞くとジーンってしちゃいます(^-^)
この話を思い出しながら三分坂を通ってみます(^_^)v
by ニッキー (2013-01-25 18:04) 

ダミアン88

事実は小説より・・・といいますが、
童話にでもなりそうなお話ですね^^ きっとキレイな音色が聞けそうです
by ダミアン88 (2013-01-25 18:15) 

美美

鐘の復元は喜ばれたでしょうね。
私もどんな音色がするのかちょっと気になります。
しかし急な坂ですよね^^;
by 美美 (2013-01-25 19:48) 

風来鶏

昔は「大関」までで『横綱』という位はなかったと聞きますが、雷電はその時代の力士だったのでしょうか?!
by 風来鶏 (2013-01-25 19:53) 

てんてん

お見舞いコメありがとですm(_ _)m
2月の九州上陸は残念ですね
またの機会を楽しみにしています。
by てんてん (2013-01-25 22:00) 

ゆうくん

とても楽しいお話をありがとうございます。
子供達に、三分坂を駆け登らしたいです。

by ゆうくん (2013-01-25 22:51) 

みぃにゃん

励ましのコメント有難うございます!感謝!!です
by みぃにゃん (2013-01-25 23:13) 

カリメロ

素敵なお話ですね^^
聞いて見たいです!
by カリメロ (2013-01-25 23:40) 

koh925

有難うございました、知りませんでした
戦時中は金属が徴収されましたね、
小石川にある、こんにゃく閻魔堂で知られる源覚寺の梵鐘は
サイパンからアメリカを経て戻ってきたそうです
by koh925 (2013-01-26 14:41) 

seawind335

こんなエピソードを聞くと、平和の有難さを実感しますね。
by seawind335 (2013-01-26 18:11) 

そらへい

東京、名古屋、大阪
大都会の中で東京が一番坂が多い気がします。
関東平野、見渡すと遠くにしか山並みが見えないのに
不思議です。
by そらへい (2013-01-27 10:16) 

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