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東京の坂と橋 番外編52 羽村取水堰 玉川上水を歩く第5回 (玉川上水9) [東京の坂と橋]

この東京の坂と橋のカテゴリーの中で、“本編”は『坂』と『橋』に関係したこと、“番外編”では、「坂と橋ではない施設、地名など、坂と橋には関係ないものの、面白い話題」を、四方山話では、「それ以外の興味を持った話」を取り上げている。
今回は羽村の取水堰を取り上げることから、番外編とした。

20091220取水堰9.jpgすでに『玉川上水を歩く』と題して5回目、玉川上水のことを書き始めて9話めにして、ようやく玉川上水のスタート台に立った。
しかし、この先いくつもわき道があり、なかなか四谷大木戸までの43kmの道程は遠いことと思う。

1月9日に羽村の堰を訪れたのが、この取材を始めてから4回目(それ以前に何回もきているので、通算何回目の訪問なのかは分からない)にして、スタートから3.4km下流の牛浜橋まで達している。この間歩いた距離は20km以上だ。
ついつい好奇心旺盛なため、何か面白そうなものを見つけると、すぐに横道にそれてしまう。
まぁ、これも期限のある旅でもなし、自由奔放に書いてゆこう。
あの中里介山も数十年かかって小説『大菩薩峠』を書き上げ、未完のまま終わっている。
おそらく、このブログが終わるときは、私の好奇心が無くなってしまったときではないだろうか。

20091220取水堰13.jpgさて、いよいよ玉川上水を下っていくわけであるが、このブログの本題は『坂と橋』であるから、できる限りそれに絡めて話しを進めていきたい。
しかしながら、どうしても絡められないときは、『番外編』か『四方山話』として取り上げていくのだろう。
今日はスタートの羽村の取水堰の話なので、番外編として取り上げた。

羽村の取水堰は、施設としては取水口の第一水門から、500m下流の山口貯水池までの導水管(羽村線)の取り入れ口である第三水門までのことを言う。

『堰』そのものをさすときは、最初の写真の多摩川に突き出た投渡堰(なげわたしぜき)と、次の写真の第一水門と、一度取水堰の中に入った多摩川の水の余分なものをまた多摩川に放流する水門(小吐水門)のことをいう。

最初の写真の右端の水門から水が出ている様子が判るが、上の写真の一番左側に見えている4つの口から放流されている。
全体像は、次の取水堰にある東京都水道局が設置した看板がよくわかりやすい。
あわせて多摩川水系の水の流れが一望できる説明書きとなっている。
東京の水源については、1月2日のブログでとりあげたものをご参照いただきたい。
⇒東京の水源(1月2日の記事へ)

20091220取水堰12.jpg


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玉川上水は、2度の失敗の後ここ羽村から開削された。
最初は、甲州街道日野橋下流にあった日野の渡し付近(国立市青柳)から掘り進み、試験通水したところで、浸水性の高い関東ローム層に水を呑み込まれ失敗。
二度目は福生から掘り進めようとして岩盤に阻まれて失敗。
羽村が、なぜ三度目の計画で取水場所として選ばれたのだろうか。

20091220取水堰10.jpg上の航空写真をご覧いただきたい。
上(北)から流れ下ってきた多摩川が、大きくS字カーブを描いて右にカーブする頂点にこの取水堰がある。
自然の流れを利用して水を取り入れることが出来るため、この地が選ばれたのだ。

現在は取水堰上流の多摩川右岸には、コンクリート製の堤防が設けられ、流れが堰に向かうように導かれているが、江戸時代には、『牛枠(川倉水制ともいう・・・左写真)』を何基も並べて水の勢いを殺したり、流れを変えたりした。

20091220取水堰11.jpg

上の写真の竹を編んだ籠に川石をたくさん詰めたものを『蛇籠(じゃかご)』といい、この錘により川の水勢に耐えた。
これは、下流にも設けられ、左岸から下流に斜めに突き出すように何列か並べられたものが羽衣のようであったため、羽村の堰を『羽衣の堰』とも呼ばれていたようだ。
これにより、多摩川の水流が左岸にあたって玉川上水の施設が影響を受けないようにしたのである。

20100109取水堰18.jpg

江戸時代に造られた取水堰は木製で作られ、板を落として水を止めたりはずして流したりした。

20100109取水堰19.jpg

現在の第一水門は、1900年(明治33年)に作り変えられて、さらにその奥に1924年(大正13年)に増設された。
次の写真は、第一水門の外側からみたところで、右側2つが閉まっていて、左側3つが開いている。

20091220取水堰.jpg

その内側から見た写真が次のようになっている。
奥に見えるのが、取り入れ口で、手前に見えるのが小吐水門である。

20091220取水堰13.jpg

次の写真が大正時代に増設された水門で、上の写真の右奥にある。

20091220取水堰16.jpg

次の写真は、多摩川の水が水門からとうとうと流れ込んでいるのがお分かりだろう。

20091220取水堰2.jpg

明治時代に造られた水門の実物大模型が、羽村市郷土博物館に再現されている。
木製の水門も同博物館に再現されているものだ。

20100109取水堰22.jpg

川に設けられた堰は『投渡堰』といって、丸太を縦横に組み合わせ、小枝などを詰めた後、砂利などで固めたものだ。
この構造は江戸時代のものとほとんど変わっていない。

次の写真は、堰の下流側から見たところ。

20091220取水堰5.jpg

さらに近寄ると、このようになっている。

20091220取水堰6.jpg

この堰の上流側は、次のように玉砂利で埋められている。

20091220取水堰7.jpg

20100109取水堰21.jpgバックには大正時代に増設された水門(左側)と、明治時代の水門(右側)が見えている。
大雨で多摩川が増水すると、玉川上水を守るため、柱を取り払うと水は多摩川下流に「堰を切って流れ出した」わけである。
江戸時代に大雨で増水すると、昨日の記事で紹介した一峰院の鐘楼の鐘が鳴らされて、近在の人手が駆り集められたという。

 

 

20100109だるま3.jpg実は、上の写真をご覧いただければお分かりの通り、好奇心旺盛な私は、この堰まで行って写真撮影をした。
なんとこの時、普段外れたことも無いカメラのレンズフードが外れて落ちたのである。
上の写真をご覧いただくと、右上、左下にフードの陰が写っている事から、おそらくこの時点で緩んでいたのだろう。
残念ながらD70の液晶画面は小さく、この影に気がつかなかった。

フードを受け止めようと手を伸ばした瞬間、コケに覆われたつるつるの石に足をとられ転倒。
片手でカメラを守り、もう片方の手でうまく受身をとったため怪我など無かったが、その時着ていたボーイスカウトアメリカ連盟のリーダー用のオフィシャルジャケットはコケと泥でびちゃびちゃ、カメラも衝撃こそ与えなかったものの、泥だらけになってしまった[がく~(落胆した顔)][あせあせ(飛び散る汗)]
幸い汚れたのはジャケットとジーンズだけで、ジャケットを脱げばたいしたことも無く、車だったので、車のシートにタオルをひいて乗り込み、無事帰宅した。

転んだのは、まさに上の写真の堰の水が染み出しているところである。
こんなことばかりやっているから怪我が絶えないのだろうか[わーい(嬉しい顔)]

上の写真は、右側が投渡堰で、左側は上流から材木を江戸、東京へ運ぶための筏通し場になっていた。
「きのう山下げ 今日青梅下げ 明日は羽村の堰落とし」と筏乗り唄にうたわれたように、多摩川上流から伐り出す青梅の材木を江戸、東京に運ぶために多摩川を下ったが、羽村の堰は最大の難所であった。
1718年(享保3年)、江戸幕府は筏による堰の破損を理由に堰通過を禁止したが、上流の村々から幕府に通行の再開を嘆願した結果、三年後に筏通場を設けて、特定の日時に通行が許可された。
以来、大正末期まで筏が堰を下る勇壮で壮観な筏落としの風景が見られた。

左側から堰に向かって伸びたコンクリート製の突堤の左側に魚道が見えているのはお分かりだろうか。

さて、ここ第一水門を通った水は、第二水門で轟々と音を立てて、流れていく。
玉川上水で一番水量豊かなところである。

20091220取水堰14.jpg

「東京都立羽村草花丘陵自然公園」と書かれたコンクリートと玉石で作られた標柱が立っているが、この自然公園は、あきる野市、福生市、羽村市にまたがる非常に広い範囲の丘陵が指定されているようだ。
この名前にある『草花』とは、植物のことをさすのではなく、あきる野市の地名をさしている。

20100110上水脇2.jpg

道沿いには桜の木が植えられ、桜の名所としても知られている。

20100110上水脇.jpg

さらに500mほど下ると、第三水門が見えてくる。
写真中央に縦に見えている第三水門を入った水は、左に吸い込まれていく。
この水門に取り込まれなかった水は、奥に見えている建物のポンプ場から一部は小作浄水場に送水され、残りは、さらに下流の小平監視所を目指す。

20100109第3水門2.jpg

見ていると、吸い込まれそうで足が竦むくらいの迫力のある風景である。

今日使用した写真は、D70とD300Sで撮ったものが混在している。
やはり、D300Sは凄い[カメラ]
本当にこれにして良かったと早くも感じている次第である。
さて、次回は玉川上水からはなれて、この第三水門の崖上から山口貯水池までの軽便鉄道廃線跡をたどる旅となる。

・・・つづく 

 

 

 


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コメント 15

キャラハン

ケガがなくて何よりです。

大事なカメラも無事でよかったです。。。。(^-^)

by キャラハン (2010-01-12 00:23) 

pace

大丈夫ですか
今日になってやけに体が痛かったりして・・・・
by pace (2010-01-12 02:23) 

BPノスタルジックカーショー

おはようございます。

ついついカメラを庇っちゃうんですよね。
by BPノスタルジックカーショー (2010-01-12 05:32) 

manamana

溝を掘って水を流すだけでなく、
すごい技術があったのですね。
昔の玉川上水は、とうとうと水が流れていて、
落ちたら死んでしまうくらいだったと親から聞いた覚えがあります。
by manamana (2010-01-12 06:24) 

八丁掘

コンクリート無しで木と竹と石で何とか治水出来ちゃうんですねぇ~昔の人の技術は凄いですねぇ(^o^)
by 八丁掘 (2010-01-12 07:41) 

mykaira

川の水にぬれなかっただけ良かったですよ。。
お体大丈夫ですか?きっと数日後に痛みが・・・(ニヤリ)
by mykaira (2010-01-12 10:36) 

長森建設

お怪我はなかったんでしょうか…
by 長森建設 (2010-01-12 11:48) 

emu310

やっと追いつきました。
ミニノートMX33では老眼鏡でもきついです。
あとでもう一度ゆっくりと。
凄い記事が続きますね。
私は皆さんの記事を読み歩くのが精一杯です。
by emu310 (2010-01-12 13:20) 

mwainfo

いつもお寄りいただき感謝します。あらためて精緻な取材に感服します。新たな発見があり、楽しみにしています。
by mwainfo (2010-01-12 16:57) 

空兵ーS

かなり大がかりな事業だったんですね。
ここを見ていて、ふと琵琶湖疎水を思い出しました。
少し似た雰囲気がありますね。
by 空兵ーS (2010-01-12 22:05) 

gardenwalker

こんばんは~
靴の紐が切れてくれたご利益(?)でしょうか。。。
大事に至らず良かったですね!
それにしてもPCもない時代に精密なことをやっていたのですね
by gardenwalker (2010-01-12 23:58) 

駅員3

sakさん、xml_xslさん、キャラハンさん、くまらさん、甘党大王さん、だみかんさん、はっこうさん、Krauseさん、paceさん、@ミックさん、BPノスタルジックカーショーさん、ガンバルおやじさん、kskouzikさん、manamanaさん、いわもっちさん、八丁堀さん、takemoviesさん、da-kuraさん、小父蔵さん、ほりけんさん、mykairaさん、お茶屋さん、ぷーちゃんさん、長森建設さん、enosanさん、HALさん、cocomotokyoさん、emu310さん、genさん、mwainfoさん、トメサンさん、swm104さん、qoo2qooさん、dekoさん、ナカムラさん、空兵-Sさん、単騎さん、gyaroさん、ponchiさん、gardenwalkerさん、水郷楽人さん、tooshibaさん、たくさん、風の子さん、おはようございます。
ご訪問と、niceありがとうございます。
いろいろ「こけた」ことについてご心配いただきましてありがとうございます。
こけたのは、12月20日のことで、幸いまったくケガなどありませんでした。
ただ、ジャケットをクリーニングに出したのですが・・・泥のしみが完全に落ちません(^^;

⇒キャラハンさん
ありがとうございます。カメラにダメージがなかったのが、幸いでした。

⇒paceさん
ありがとうございます。
まったくどこも痛くありません(^^)

⇒BPノスタルジックカーショーさん
はい、カメラは命よ大切・・・言い過ぎか(^^;

⇒manamanaさん
そうですね、太宰治が入水自殺したくらいですからね。

⇒八丁堀さん
ホント先達の知恵と技術はすばらしいですね。
今となってはまねできない技術が沢山あります。

⇒mykairaさん
はい、ありがとうございます。
水にぬれているところは、苔むしてツルツルだったんです(^^;

⇒長森建設さん
ありがとうございます。無事でございます(^^)

⇒emu310さん
ありがとうございます。
emuさんの記事が更新されるの楽しみにしています(^^)

⇒mwainfoさん
いつもありがとうございます。
そういっていただけると、調べガイがあります(^^)

⇒空兵-Sさん
私は琵琶湖疏水は写真でしか見たことがありませんが、いわれてみれば、似ていますね。

⇒gardenwalkerさん
ありがとうございます。
靴紐が切れるより前にこけていました(^^)
昔の匠の技はすばらしいですね。
by 駅員3 (2010-01-14 07:47) 

kiyotime

まさに体を張ったルポですね、、
たまに釣りに行きますが、テトラや護岸壁は
滑りやすくて要注意ですね。
by kiyotime (2010-01-17 16:14) 

駅員3

かずのこさん、youziさん、ケイさん、kiyotimeさん、こんばんは。
ご訪問と、niceありがとうございます。

⇒kiyotimeさん
ははは、ホントですね。
でもよりによってこのタイミングでレンズフードが外れなくてもいいもんだと思うのですが(^^;
by 駅員3 (2010-01-17 23:52) 

うたわれるもの 画像

もう見ました、面白いですね
by うたわれるもの 画像 (2010-12-09 17:58) 

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